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そうだ徹夜しよう。

獣化してふかふかモフモフのぬりかべでの移動は快適そのものだ。

俺たちは但馬国を離れ、播磨国(はりまこく)をめざし朝焼けに向かって飛んでいる。

スキルに千里眼のある岩爺(がんじい)は念話で呼ぶまでもなく俺たちを遊郭まで迎えに来てくれた。



岩爺と合流し、これでやっと念話を切ることができると、俺は心底ホッとした。

ぬりかべ101人の大家族念話は、俺にとっては拷問そのものだったからね。


実は賭場では俺の周囲に、ぬりかべ一郎から二十郎まで、20人がいたんだ。

その、20人のぬりかべたちは透明化してフワフワぷかぷか浮かびながら、残りの81人に向けて面白おかしく現場の実況中継をしていたのさ。


小さくなってツボに入り、サイコロの目を数え丁半を叫ぶぬりかべもいれば、歌楓の酒をなめて食レポするヤツもあり、夏角たちの下の形状を伝えるバカもいた。

特に盛り上がったのは菊理姫の登場シーンだ。

そりゃあもう101人揃っての大歓声はすごかったですよ。俺は死にかけてたけど。

ぬりかべの子供たち、やつらは、はじめて目にする菊理姫に大興奮。というか前情報も伝えてなかったからサプライズゲストだったんだな。

岩爺なんて「姫ざば~!姫ざばぁ」と野太い声で泣いていたよ。



そんなこんなのいろんな角度の修羅場を終えて、朝の清涼な空気は肺に心地よい。

モフモフに埋もれた夏角と雨角がいびきをかく横で、俺はかずら婆さんに異世界の国について基本的なことを教わっていた。


聞きたいことはいろいろあって、その場で思いつくことをひとつずつ聞いていった。


まず、この異世界と日本の大きな違い、それを教えてもらった。

そのひとつは国土の面積。ぬりかべの移動速度から考えて、かなりの広さだと推察してたんだよね。

俺の住んでいた日本とくらべると、この異世界の日本は約10倍のでかさがあるらしい。

ひとつの大陸を大河が3つに分断する形になっていて、その他に島が一つあり、この島だけでも日本の1/3の面積はあるとか。


戦争はあるのかとか、そういうのも聞いてみた。

大規模な争いはめったにないものの、国同士、日本でいう県同士の小競り合いは多くて、隣国同士、統廃合を繰り返していて、毎年変わる国の数はかずら婆さんにもわからないらしい。

とりあえず現在の重要な大国は5つ。

但馬国(たじまこく)日向国(ひゅうがこく)淡路国(あわじこく)摂津国(せっつこく)下総国(しもうさこく)それと唯一の島国の隠岐国(おきこく)も近年、力をつけてきているとのことだ。


それぞれの国の統治は国王、長老員、神社、寺など、国によってまったく異なる。

共通しているのは通貨で、これを管理しているのが但馬、下総、越後の3か国からなる公銭局(こうせんきょく)だという。

金山、銀山を保有し、通貨をにぎっているこの3国、とくに但馬、下総の2国の権勢は全国津々浦々におよぶ。


それから1日の長さは体感で元の世界とそう変わらない。1年は365日で、うるう年もあると聞いた。

季節はあるけど梅雨も短かくて四季の変化はわりと平坦。それよりも地形による温暖の差が激しく、北方は氷に閉ざされている人の住めない土地だとか。



そして何度も耳にしていた話、この異世界が作られたのは千年前で、黄泉比良坂を通し人や妖怪が異世界に移り住んだという。黄泉比良坂の門が閉じてからは大規模な移民の流入はなく、少数の召喚者が時々この世界に訪れるようになったらしい。

この世界は妖力に満ちていて具現化しやすく、力の弱い妖も実体化がたやすいおかげで、妖怪も人のように暮らせるのらしい。たとえば里の天狗たちもとっくに力を取り戻していてもおかしくないのに、なぜかそうはならないようだ。


かずら婆さんが言うには、俺のように召喚された人間が強い力をもつのは、具現化しやすいこの世界で、周囲と思惑の方向がちがうからだろうとのことだ。

「同じ水の流れの中でみなが同じように流れたら個としての力は失う。それと一緒じゃ」かずら婆さんはそんなことを言っていた。

わかったようなわからないような理屈だった。



俺がこんなふうに婆さんと夜をつぶしていたのは、異世界の情報が知りたいというのもあるけど、本音をいえば寝るのが怖いからだな。

眠りにおちて、どんな夢を見るのか考えただけでもこええっス。

でも逆に夢を見なかったらそれにも絶望を感じそうなんだよね。


幸せだった煮卵プレイから20時間もたってないのになあ。まったく、この落差たるや。

彼女に怒られるのも、泣かれるのも、ふられるのも、会えないのも嫌なんですけど。なんとかいい方法はないものか。


幼女の頭皮の匂いかぎたさに俺が苦悩していると、播磨国の都とその城が見えてきた。



朝もやに白くにじむ町並みには早くも人々の行き交う姿があった。

播磨国は大河沿いに都の広がる活気あふれる国だ。城は町並みの中心、大河を見渡す高台の崖の上にあった。

その大河沿いに横長の国土を左右の隣国へつなげる幅広い街道が印象的だ。


朝市は賑わい、台所には煮炊きの煙がたっている。雑然とした中にも人々の暮らしの見える、この国が俺は好きになりそうだ。

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