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イカサマ対決。

俺の1勝に声をあげてよろこんだのは、夏角、雨角の天狗兄弟だけだった。

権田は眉間にしわを寄せてにらんでいるし、賭場全体が殺気立ち雲行きが怪しくなってきた。


「ちょっと待っててくれ」

俺はそう断り、カバンからプリント問題を2枚とりだして夏角、雨角に一枚ずつ渡した。

「これで前を隠せ。きたねぇもんブラつかせて跳ねてんじゃねえよ」

全裸の天狗ふたりのブラブラは確かにうっとおしい。

でもこれはコイツらに近づきスキルを操作するための方便なんだ。


俺は早期撤退、つまりトンズラを視野に入れて、夏角、雨角のスキルに完全防御と転移を加える。

そして、万が一を考えてカバンの中身に結界を張りガッチリ固めて保護しておく。

「お前らに神通力を授ける。危なくなったら転移と唱えて逃げろ」

そう、ふたりの耳元でささやいて、さらに、ぬりかべ携帯にふたりにしっかりしがみついてるよう念話で伝える。


俺は念話スキルは騒がしくて落ち着かないからと普段は切っている。

だが、いまは緊急事態だ。

頭の中で100人のぬりかベィビーが、虫の鳴きまね勝負でビイビイいったり、おっ父に怪談をせがんでいたり、おもちゃの取り合いで喧嘩して超音波で泣いてもがまんするとしよう。



歌楓はそんな俺の行動を凝視していた。

そして軽くまぶたをふせると、権田に酒を要求した。

(あるじ)、酒の用意はあるかな?ボクは銀晶泉(ぎんしょうせん)漸竜(ざんりゅう)を好んで飲むんだが」

「ははっ、あっしの手元にはありやせんが、すぐに運ばせやしょう」

「あぁ車にすこし積んであるんだ。夜叉鬼(やしゃ)にとりにいかせよう」

夜叉鬼と呼ばれたのは歌楓の車引きをしている鬼人だった。


そういえば歌楓は但馬屋で会った時も酒を飲んでいたな。

よっぽど酒好きなんだろう。


歌楓のもとに酒が運ばれ、座の雰囲気が落ち着くと勝負再開となった。


ツボ振りが指にサイコロを挟みツボに投げ入れる。

「さあ、丁か半か、張った張った」

今度のサイコロの目は4・6(しろく)の丁だ。


「4・6か、ボクは半に賭けさせてもらうよ」

歌楓はけだるげに杯を唇に運びながら、ツボの中の数字を言い当てた。そのうえで半に賭けるという。

どういうカラクリかわからないが、やはり歌楓にはサイコロの出目が読めていたようだ。


床下の連中はいまごろは権田に抑えられているのだろう。

歌楓が酒を運ばせたのも連中を入れ替えるための時間稼ぎと俺はふんでいた。

しかし、俺の魅力は尽きないんだぜ。

床下の連中を入れ替えたとしてもそいつらに再び「魅了」をかけさせていただくだけだ。


俺が透視をつかい床下に目をやると、歌楓の車引き夜叉鬼が床下の男を一刀両断にしていた。

あとから知ったが「銀晶泉」は確かに酒の名だが、「漸竜」は夜叉鬼の背中に担いだ大太刀の名前だったんだ。

つまりは自分の思い通りに進まない不愉快なゲームの造反者を切れとの命令だった。


「おいッ!てめぇ…」

俺は床板を踏み抜く勢いで床にかかとを叩きつける。

急いで夜叉鬼に魅了をかけるが、鬼人には魅了は効かないのか、全く動じず夜叉鬼は2人目の男の首に大太刀をあてがう。

「わかった!やめろ。やめてくれ」

俺が叫ぶと歌楓はポンポンと手を叩き、おおきめの音を響かせた。


その合図で夜叉鬼は権田の配下の首にあてていた剣をひくのをやめ、さっと上に持ち上げると背中のさやにストンと収めた。

そして、夜叉鬼のその動きで耳を切り取られた、あわれな男の悲鳴は、床上にいる賭場の俺たちにもしっかりと届けられた。

床下のイカサマ工作員3人は1人が殺され、1人が流血し床をのたうちまわっている。

残るもう1人は鬼人に首根っこをつかまれ万事休すだというのに、魅了の影響下にあるおかげで口から泡を吹いてもまだ必死の抵抗を続けている。

俺は床下の連中にかけていた魅了を解除した。これ以上の無駄な犠牲は出したくなかった。


歌風はすべてが意のままにならないと気が収まらない。冷徹な暴君だ。

酒好きで、けだるいかぶき者の放蕩もの、その仮面の下にはドロドロとした嫉妬と欲望が渦巻いている。


「キミは半に賭けるといい。ああ丁でもいいね。キミの好きにしてくれていいよ」


伏せたままのツボを扇で指し、歌楓は心底楽しげに俺を挑発してくる。

俺にも打つ手がないわけではない。けれど、この男が勝ち逃げを許すとは思えない。

やはりここは勝負をうやむやにして逃亡の一手か__。


俺が決断に迷っていると、そこへバタバタという慌ただしい足音と男連中の制止の声に交じって甲高い声が響いてきた。


「このひとでなし野郎!よくも毒を盛りやがったわねえぇ」

逆上して髪を振り乱し半狂乱になった矢古姐さんだった。


矢古は賭場の男連中に爪をたて俺の元まで走り寄るとトレーナーの襟元をつかみ揺さぶった。

「あんたらのせいで綾乃が死にかけてんのよ!どうしてくれんのさ」

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