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幼女と煮卵。

眠りに落ちると、すぐさまに菊理姫がかけよってきた。


抱きついて両腕をしっかりと俺の背中にまわし、身を寄せる菊理姫。

「総ッ、菊理の殿。恋いし君に逢えたるじゃ」

かけよってきた菊理姫は少し息を荒くしていた。

夢の時間は短い。

この短いひと時を心待ちにしてくれたと思うと愛しさ倍増だな。


きょうの菊理姫は、巫女っぽい衣装で頭に金の冠のようなものをかぶっている。

俺は顔に当たるその冠を外し、そっと床に置いた。

けっして頭皮が目的ではない。顔に当たってちくちくしたからだ。

そして、偶然にも目的(・・)の菊理姫の頭皮が俺の鼻の下にきた!


さっきまで冠をのせていた頭皮は少し熱を帯び、わずかに汗ばんでいる。

こ、これは…ごくり。

さっそく、くんくんさせていただこうじゃないか。

夢の時間は短いからなッ。

__思う存分くんくんする。

蒸発する頭皮の汗が俺の鼻腔(びこう)をくすぐる。

鼻腔に吸い込む空気は、あたたかく、しかし蒸気の気化熱で涼しくもありだ。

すばやく切り替わる寒暖差の刺激と、かぐわしき頭皮の匂いでしばし恍惚(こうこつ)となる。


俺は髪のわかれ目の、ほのかに赤みを帯びる青白いラインを舌先でそっとなぞる。

そして、俺の大好物の彼女の絹の髪、その根元に舌を這わせてみた。

絹の髪は舌の上でもつややかで頭皮は柔らかく味わい深い。

俺の欲望のたかまりと比例して、あふれ出る唾液が彼女の頭皮をぬらしていく。

軽く舌先を。のはずが、いつのまにか舌と唇で思いっきり頭髪をなめまわしていた。


気がつくと菊理姫は身をよじってかすかな(あえ)ぎ声をだしている。

ヤバイ。このままでは俺の姫さんが頭皮ペロペロされてよろこぶヘンタイになってしまう。

俺はヘンタイでいいが、これ以上彼女を汚すのはまずい。

__まさかこれがオンナを俺色に染めるというアレなのか!?

いやいやなんか違うだろ。俺は透明でけがれのない姫が好きなんだし。


菊理姫の頭を袖でふきふきした。

名残惜しいが、しばらく頭皮から離れることにしよう。

そして軽く彼女を抱きしめ、瞳を見つめた。


「きょうはめずらしい食べ物をもってきたよ」

「…んぅ。…めずらしきもの?」


俺は竹筒から煮卵をとりだして菊理姫に手渡した。

「…ぁふ。…鳥の子じゃの」

菊理姫はチロチロと舌先で味を確かめると煮卵をひとくち口に含んだ。

「はじめて()む味わいじゃ」

「美味なりじゃ。あ、黄身が」

トロっとした黄身にたどりついた姫は美味しそうに黄身を吸い煮卵をほおばる。


煮卵は俺の大好物だ。

そして菊理姫の唾液も大好物です。

この先の展開をおわかりいただけただろうか?


俺は、姫のおくちでくちゅくちゅされた煮卵を強引にうばった。

唾液と絡まりさらにとろける煮卵は至上の美味だ。


__しかし、ちがう。

煮卵は至上の美味となったが、唾液はそうではなかったんだ。

姫の唾液はとろりとした甘みがあってからむけれど、ねっとりとはしていない。

こちらの唾液と混ざりあい、粘膜に吸収されるようなサラっとした軽さがあるんだ。

いくらでも飲めそうなその軽さが好きなのに、煮卵の味が加わると少し重くなる。

卵の油分か塩分のせいか、口内に膜ができたようで感度も薄くなるようだ。


これはいけない。俺の中のヘンタイがダメ出しをした。

深く唾液を味わうためには、お互いの口内から煮卵の味を消してしまわなければならない。

俺は姫の頬を親指と人差し指でおさえて唇をひらかせる。

そして、彼女の唇の内側、歯、歯茎、上あご、舌の裏側と、煮卵の味を丹念にねぶりとる。

お互いの唾液がしたたり、首を伝い襟元をぬらしてもかまわず___。




「総司殿、そろそろ但馬国の都ですぞ」


夏角にゆすられて目が覚めた。

「はうぁ」

こっ、これは恥ずかしい。

煮卵プレイを見られたわけじゃないけどあせりまくってしまった。


モフモフに囲まれていつの間にか寝入ってしまったようす。

心なしか婆さんの視線がつきさすように冷ややかなのが気になるが…。

そうだな、大量のよだれはキモイよな。

そのうえ寝言いってたりしたらどうしよう。心臓バクバクだ。


俺は冷汗をふきつつ、真顔を作り平静を装う。

眼下には人々でにぎわう但馬国の都がひろがっている。

きょうはここで一泊して明日は播磨国へと移動。

その翌日は上空から近隣国を眺めてよさそうな地域に足をのばす予定だ。

異世界の都にはどんな珍しいものがあるのだろう。とても楽しみだ。

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