きょうの幼女。
夢の中、菊理姫は十二単を着ていた。
一番上が赤い衣で、髪は結い上げて衣と同じ赤い花飾りをさしている。
そして、琴を弾いているのだ。
風流だが、なんだろう?居心地はものすっごく悪いんです。
俺は大角んちで借りた肌襦袢を着て、下着はふんどしだ。
菊理姫が曲を弾き終えるまで正座待機ですし。
琴の音色がやむと菊理姫は静々とお盆をかかげて俺のところにきた。
塗りのお盆には折った和紙と黄色い花が添えてある。
「和歌?」
時代がかったラブレターだね。
俺はわりと和の文化には親しんでるし、達筆にも見慣れていて古風な崩し文字も読めるんだ。
和紙を開いてみる。
予想外な記号のような文字が並んでいた。
__これはまさか神代文字ってやつか?こんなん読めんわッ!
とも言えないので
「ありがとう。うれしいよ」などと言ってみる。
菊理姫はすごくうれしそうに飛びついてきて、俺の耳を噛みました。
「いたッ」
俺が痛がると姫はあわてて、
「だ、大事ないか、睦言も痛くあればよしなしじゃ」
などとおっしゃる。
耳を噛む。なるほど前戯にそういうのあるよね!知識としては知ってるよ。
でも血が出てるし、全力で噛みすぎだろう。
「女官に指南たもうたのじゃ」
なんと、菊理姫は女官さんに異性をよろこばせるイロハを教わったらしい。
オシャレをして、特技を披露しラブレターを渡して耳を噛む。
これが古代日本の男心をわしづかみにするテクニックなのか。
「あとは、どんなことを教わったの?」
ゲスな俺が、興味津々で聞いてみると、なんとも恐ろしいお答えを頂きました。
「蹄を噛むなど、たてがみの毛づくろいなど快しと伝うのじゃ」
いやいや、俺には蹄もたてがみもないから!
できれば恋愛のご相談は人間の女官にして欲しかったな。
それでもなんだかムキになった菊理姫は俺の毛づくろいをさせろとせまる。
俺の頭以外のフサフサ地帯はシークレットエリアですから!やめてッ。
そういえば姫さんはまだ頭皮以外の発毛はなかったな。
どこに男子のフサフサ地域があるかもわからないのだろう。
うなじと背中に手を入れて探ってくる。
もう、ほんとにかんべんしてくださいよ。
「退却ゥ」__聞きたいこともあったが、きょうはここで撤収だ。
小鳥が鳴いて目が覚める。
今朝もまるでスッキリしない朝だ。
耳が痛い。
そうだな薄々気づいてはいたよ。
毎晩見る菊理姫の夢はただの夢ではないということに。
俺はカバンからスマホを取り出し自撮りモードで耳を確認する。
そこには、くっきりと彼女の歯形が残っていた。
まるで夢魔に魅入られたあわれな犠牲者のようだな。
毎晩、性的な夢を魅せられて精気を吸われ…てないけどな。
いっそ吸われてたらもっとスッキリな朝がむかえられてるわ。
困った事態になったと思うよりも、彼女とのこの結びつきを嬉しく感じる。
この歯形でさえ消えてくれるなと願う俺は、われながら気持ち悪いやつだよな。




