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たぶん和解。

昼飯をすませた俺たちは山を降り、天狗の村に戻った。

俺は「是非(ぜビ)に」と、なかば強引にぬりかべの背に乗せられてしまった。

ふわふわ移動だったから良かったものの、ぬりかべの背中は捕まるものが何もなくて、スピードを上げたら落ちそうで怖かったよ。

クロとシロはぬりかベィビーの浮き輪でパタパタ飛ぶのが楽しそうだった。



村に戻り、天狗の長「大角」とぬりかべが顔を合わせるといきなりの一触即発ムードだ。

「成敗されに来おったか!憎き黄泉国の犬めが」

「天狗の山賊ガ、おでに(つブ)ざれおっ()んでも天罰(でんバづ)どお。悪行(あグギょう)(むグい)い受ゲるどお」


なるほど、天狗とぬりかべは会話が通じない組み合わせらしいな。

歯をむき出し、つばを飛ばしあうふたりの間に割ってはいり、なんとかその場を収めた。



村の天狗たちの目線も痛いうえにデカイ図体は危険なので、俺は「ミニマム」を使いぬりかべをひとまわり小さい畳サイズにしてやった。

それから大角の屋敷でぬりかべに話を聞いたんだが、予想していた部分もあったとはいえ驚くべき内容だったね。


座敷には、大角、俺とぬりかべの3人、あとのギャラリーはクロとシロとぬりかベィビーたちだ。

クロたちチビッこいのはお茶出し以外は基本、庭で遊んでいた。


板張りの座敷の小さい円座にあぐらで座るぬりかべは大角以外には礼儀正しかった。

だが、大角との会話は斜め上の方向に走るので、ほぼ俺を挟んでの会話となったんだ。

俺は何となく理解ができているが、最初に大角の誤解を解いておくことが必要だろう。

「まず、黄泉国が天狗の里への懲罰として、里の道を閉ざしたという話はほんとうなのか」

そんなかんじで話をはじめてみた。


ぬりかべの話は先刻聞いたのと同じだ。

「天狗の山賊だじなんガ、どおでもいいどお」

「おではお役目バだずだゲだどお」

邪魔(じゃバ)ざれだガら、ゴらじめでやっだだゲだどお」

どうやら、ぬりかべと天狗たちとの間で一戦あったようだ。


「どうでもいいだと貴様!黄泉国の指示で罰を与えるとほざいておったろうが」

ぬりかべのいいぐさに大角がくってかかった。

因果応報(いんガおうボう)どお、黄泉国(よみゴグ)の神ざんも見でるどお、悪ざずる天狗バ、ゴゴで天罰受ゲるどお」

「黄泉国の犬めが!その首叩き切ってやるわッ」

なんだか誤解のいきさつが見えてしまったような。とほほな話だな。


刀に手をかける大角をいさめて、俺は道の封鎖は天狗の里ではなく出雲国を封じたものであることと、出雲国の様子を話して聞かせた。

「そのような・・総司殿は黄泉国の犬にたばかられておるのでは」

大角はにわかには信じられない様子だ。


そこで、ぬりかべがポツポツはなしはじめた。

亡者(もうじゃ)ガあブれだんバ、千年前(ぜんねんばえ)、黄泉国の姫様(ひめざバ)がざらわれだガらだどお」


__まぁそんな気がしていたんだよね。

ぬりかべがいうことには、千年前に、この異世界にあそびにきた菊理姫がさらわれてしまった。

菊理姫はさらわれる前に、この異世界から黄泉平坂へ通じる門を閉じていたので、死者の魂が死者の国である黄泉国に入れなくなってしまった。というのだ。


それでもしばらくは黄泉平坂の門の前に、魂の一時隔離所なるものを作ってしのいでいたようだ。

魂魄(ゴんバグ)肉体(にグだい)()ギ合うものだどお」


門が閉じて数百年たち、死者の魂は肉体を呼びはじめたらしい。

黄泉国の入り口である黄泉平坂があるのは出雲国だった。

その出雲国に地中を通り、あるいは地表を這って年季の入った死体が集結したんだな。


その対応として結界を張り、さらに岩山を起こし隙間をぬりかべたちで埋めてバリケードを作った。

死体を…まぁ亡者と呼ぶが、バリケードの内に亡者たちを封じていたようだ。

さらに数百年たち、それも決壊してついに出雲国全域に亡者があふれた出した。

そのうえ魑魅魍魎も沸き、出雲国は人の住めぬ地獄となったという話だ。


ふむ。俺が山頂から目撃したのは、千年分の亡者だというわけだな。

千年分の死人って何人になるんだ?

この異世界の人口もわからないから想像もできんな。

なんにしてもすざまじい数ということだけはわかる。


大角たちは出雲国の封鎖にまきこまれた形だったようだね。

天狗の里の住民を避難退去させなかったのはぬりかべのイジワルでもあるんだろうな。

山賊じみた天狗たちの行いに義侠心(ぎきょうしん)がわいたのかもしれない。


「清明殿が我らは黄泉国に貶められたのだと…」

しかし、このネタでも大角はだまされていたようだ。


天狗とぬりかべはお互い思うところはあるだろう。

でも俺の顔を立て、ここは手打ちとなって和解の握手を交わしてくれた。

「龍の上人ざバの慈悲(じビ)ぶガざに感謝(ガんじゃ)ずるんだどお」

「黄泉国の犬、いや使者殿、よろしゅうお頼みもうす」

握手したふたりの手の血管がピキピキいってたのは気のせいだと思いたい。


里はそろそろと訪れた夕闇をむかえ、火籠には火が入り、天狗たちの集会も始まる。

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