亡者の群れ。
さてと、妖怪ぬりかべとの意思疎通は可能なのだろうか?
「魅了」を使って協力してもらうという手もあることにはあるな。
しかし「魅了」を大角に使った時は、大角の目がハートマークになってハァハァされて気色悪かったんだよね。ぬりかべにハァハァされるのはかんべんしてほしいな。
それとスキルを解いた時にキレらて戦闘になるのもなあ。
「魅了」は一種のだましうちだからさ。
キレられて当然というこっちが悪人な立場で、ぬりかべと戦うのは気が引けるんだ。
それなら最初から力づくでどいていただいたほうがマシだと思えるよ。
ということで、ぬりかべに軽く電撃をくわえてみる。
「ぎゃっ」
「ひぁぁぁ」
「んが」
「ぴやー」
道を閉ざしていたブロック塀が崩れ、小さいぬりかべがボトボトおちてくる。
ブロック塀は道の奥にむけて何層も重ねてあるようで、そのうちの2層ほどがくずれていた。
「いぎなりひどことすんだぁ」
「いだぁぁぁぁぁ」
「おっ父ぉぉ」
「なにずんだぁぁ」
「いでぇよぉーおっ父ぉぉ」
俺の足元に落ちた、小さいぬりかべたちがいっせいに泣き出した。
20センチぐらいの灰色の長方形ブロックに短い手足がついてて、よく見ると点目もついている。
その点から涙がどばどばあふれて「おっ父ぉーぉぉぉ」と泣き叫んでいる。
この小さいのは、ぬりかべの子供か!
泣かしたのは俺だしオロオロうろたえてると、あたりを振動させるドデカイ声が響いてきた。
「家の子、泣ガずのはだれだどお」
ぬりかべ父の登場だ。
俺はステータスを開いて身構える。
「家の子イジメでっど押じ潰ブずどお」
「じっぼ巻いで消えねっど、ブッ殺ろずどお」
洞窟の天井と壁がミシミシ音を立て、砂埃が舞い、頭上には小石や土砂がパラパラ落ちてくる。
俺は、クロとシロのスキルに完全防御を加え、警戒してまつ。
依然として壁と大地は震動し、ドデカイ声のおどしも続いている。
しかし声の主はいっこうに姿を現さない。
俺はまさかと思い、洞窟を出てぬりかべ父の姿を探した。
__やはりそうだった。
ぬりかべ父の声は天井そのものから響いていたんだよね。
岩壁と岩壁の間にはさまり洞窟の天井となっている巨大な岩、これがぬりかべ父だった。
「べっじゃんゴに潰ブずどお!逃ガざねがら覚悟じどゲえどお」
ぬりかべ父は岩壁を震わせ、なおも咆哮する。
「あの、はさまってるんですか?」
「・・・・・」
俺の問いかけに無言の答えを返す、ぬりかべ父。
「頭ガら喰うどお」
「もしかして、困ってますか?」
「・・・・・」
「お助けしましょうか?」
「・・あ、はい」
俺はスキルに縮小魔法「ミニマム」を加えて、ぬりかべ父を一回り小さくしてやった。
はさまっていた壁の間からドォンという轟音をひびかせて、ぬりかべ父は地に落ちた。
こうして、ぬりかべ父は洞窟の天井役から解放されたんだ。
「おっ父ぉ」「おっ父ぉ」と小さいぬりかべたちがわらわらと父親のもとに集まってくる。
「ガだじゲないどお」
ぬりかべ父はペコリと頭を下げる。
さっきまでの威勢のよさがうそのように恐縮しまくっている。
ここの場所は子供らに占領をまかせていて、ちょっと様子を見に来たところ、岩壁の間にうっかりハマってしまい、抜け出せなくなって困っていたようだ。
ものぐさで散髪に行くのを嫌がってたらデカクなりすぎたとかいっていた。
ぬりかべが長方形に整ってるのは散髪?してるからだとは驚きの新事実だった。
それはおいといて、道から退いてくれないかと頼むとぬりかべ父は、
「でギん、でギん。出雲国の境界ずべで塞さグのがオダ達のお役目どお」
などと首を横にふっていた。
出雲国?ぬりかべたちの役目は天狗の里の封鎖じゃないのか?
「天狗の山賊なんが、どおでもいいどお」
ぬりかべ父は天狗なにそれみたいな受け答えをしていた。
うーん。
大角たちの見解と食い違いがあるような。
黄泉国が封鎖しているのは出雲国のほうなのか?
ゆうべ大角たちと移住計画を話し合った際に、かんたんに周辺国の地図を書いてもらったんだ。
それによると、隣接国は3つあって、この岩山の向こうには出雲国がある。
ちょっと上空から近隣国の様子を確認しておこう。
俺は龍化して空高く舞い上がり、山を越えて隣国、出雲国を見た。
出雲国、そこには想像したような田畑や建物はなにひとつ見あたらなかった。
そのかわりに、見渡す限りの亡者の群れが地表を埋め尽くし、暗くうごめいていたんだ。




