おなじみの妖怪と出会う。
天狗の里は朝から慌ただしかった。
昨日さばいた家畜の肉で干し肉と燻製肉を作るとのことで皆が作業に追われている。
干し肉の完成がだいたい3日、燻製肉は7日ほどかかるみたいだ。
里から移動するのは早くて8日後の早朝だな。
適当な山村に定住地をさだめて仕事を探すにしても、当座の食料備蓄はもちろん家財の移動も必要だし、準備に時間がかかるのはしかたがないね。
家畜の皮のなめしと、山塩の作業場の増設にも人手をさいてるようだ。
塩は数少ない換金アイテムで、作れるだけ作って持ち出そうと作業を急ピッチで進めている。
でも残念ながら、さっき鑑定したら毒物判定されてたんだよね。
山塩はご家庭用になるんじゃないかな。
村の子供らは、なめし液に使う鉱物の採集に少し先の山中の温泉まで行き、赤名は干し肉用の香草を集めている。
村長である大角のまわりには村人がひっきりなしに訪れ大忙しの様子だ。
大角はテキパキと村人に指示を出し、大角の弟が代行で現場を見まわっている。
陽のあるうちに作業を進めて、陽が落ちてから集会を開き、村の今後について話し合う段取りらしい。
こうやってながめてると、大角たちはまったく天狗らしくないな。
天狗ってのは、岩を枕に雨をまとい山を背に風に追われる。
俺はそんなイメージをもっている。
大角たちに修験道の孤高などまるで感じない。
子だくさんの大家族で、働き者で、それぞれの立場をわきまえて行動するとかさ。
里の暮らしを覚えて、天狗も人間臭くなったようだな。
そのおかげで、法力を失い、翼も退化して飛べなくなったのかもな。
俺は同行するという大角の申し出をことわり、クロとシロの案内で封鎖された道を見に行くことにした。
クロは相変わらず、ー目で△のくちだ。
でもそれは表情であって、クロとシロは双子だから顔の造りはそっくりなんだよね。
シロはいつも湯舟に浸かってるような油断しきった表情をしている。
まぁどっちもゆるい顔だね。
その2人が黒白の翼をパタパタさせて、谷あいの道を飛び跳ねて行く。
高くそびえる岩壁が左右から迫るその道は、巨大な岩が壁と壁にはさまるように屋根を作り、途中から洞窟のような雰囲気をかもしている。
ところどころのすきまから光が差し込むので洞窟といっても暗くはないね。
その洞窟のつきあたりで当然ながら道はとぎれる。
もとはここには岩の隙間をつたう細い道があって出雲国に通じていたらしい。
いまは灰色の小ぶりなブロックが並べられて、岩の隙間は埋まっていた。
「道、埋められた、鬼嫁の処女」
クロの発言はいつも難解だな!
鬼畜の所業とでもいいたいのかな?うむ。わからん。
ここが里から外部へと通じる唯一の道らしい。
俺が龍化して天狗たちを背中にでも乗せれば、外に出るのはたやすいことだ。
でも、天狗の数が多いうえに家財もある。
できれば壁を破壊して道をつなげたいところなんだ。
「壁こわれないよ。おてて痛くする」
天狗たちも壁を破壊しようと頑張ったらしくはある。
頑丈そうだが、この壁の素材はなんだろう。
鑑定してみると、
「ぬりかべ/妖怪の一種」
あの超有名な妖怪さんじゃないですか。
予想外のことに困惑しつつも、ちょっとうれしい俺がいます。




