子分ができたよ。
「お父様、総司、ごはんできた」
クロが俺たちを呼びに来た。
居間には膳が5つ並べられ、大角、俺、大角の弟、大角の長男と次男がそこに座った。
女性陣、そして使用人は台所で食事するきまりのようだ。
大角の家族は8人、使用人は3人で、ここの住人は11名となる。
大角の奥さんはすでに亡くなっていて、かわりに家族の面倒を見ているのは18歳の長女だ。
天狗族の女性は鼻も長くなく、彫りの深い顔立ちの美形ぞろい。
嫁にもらうなら、この長女のような家庭的なべっぴんさんが理想だな。と、チラチラ見てみたり。
ここんちは大家族だと思ったが村の天狗の家はどこもそうだとのことだ。
村全体の家屋20数戸に対し、住人は総勢180名ほどいるしな。
朝飯は麦と米と小粒の何かが混ざった雑穀米、大根の味噌汁、漬物、魚をほぐした佃煮。
食後に塩漬けの花にお湯を注いだお茶が出た。
俺が茶をすすっていた頃、安倍の清明はカラスの返文を受け取っていた。
墨ででっかく「死ねっ」と書かれたあれだ。
「こざかしい…下郎が」
清明は不愉快そうに眉をよせていたから、ダメージ1ぐらいは与えられたのかもな。
朝飯を食い終えると、大角を連れだって村内の怪我人の回復状況なんかを聞いて回る。
天狗たちは玄関のたたきに頭をこすりつけて平身低頭で俺を出迎える。
ちょっと引くほどの歓迎っぷりだった。
山ほど作物を渡されたり、子供たちに囲まれてわぁわぁきゃぁきゃぁの大騒ぎさ。
重体だったチビッ子「天」も元気な姿を見せてくれた。
「総司殿、この度はわたくしめに、総司殿のあたたかきご慈悲を賜り感謝にたえません」
「わたくし、天めを、ぜひとも総司殿のご家来衆にくわえていただきく願い奉ります」
チビっ子から家来にしてくれとの申し出だ。
この子はなかなかに聡明で、チビっ子ながら笛の名手でもあるし神童というやつかもしれないな。
俺に仕えたいと願う、人をみる目のなさは心配なところだけどね。
「願い奉ります」
たどたどしいながらも何度も頭を下げる天が可愛くて、
「よし、お前は俺のいちの子分だ」
そういって頭をなでてやったわ。
「ありがとうございます」
「総司殿のいちの子分の名に恥じぬよう粉骨砕身励んでまいります」
天がそんなことをいうものだから、さっそく何か指令を出してやろうと思い、
「村の観光スポットを案内してくれよ」と頼んでみた。
俺の出した単語の解読にとまどったりはあったが、周りを囲んだ子供らと一緒にあれだこれだと盛り上がって、面白い場所に案内する、となった。
そして、これは俺の配慮の至らぬ所以でもあるんだが、なんだかんだ村に拡散された毒水の影響が深刻で、すでに家畜に被害が出はじめていたんだ。
村人は「状態異常無効」で気づかないが、飲み水にも毒は混入していたようだ。
息絶えた家禽を手にして村人たちは青ざめていた。
そんなことはつゆ知らず、俺はのんびり天狗村観光だ。
天が案内してくれた村の観光スポット、そこは川の谷間にあった。
切り立つ崖にドカーンとでっかい龍の化石。
威風堂々とした化石の龍は、珪化したのか骨がところどころ光ってとても美しい。
「ほぉ」
俺が化石龍を眺める横で天は「成し遂げたりっ」みたいな顔で鼻の穴をひろげる。
これが日本なら村おこしに一役買っているのは間違いない。
長蛇の列のうえ拝観料1000円はとられるな。
ついてきた村の子供らは浅瀬の岩をひっくり返し、虫を追いかけ、それぞれ勝手に遊びだしている。
そして、上流から流れてきた、きのうと似たような茶碗を木の枝でたぐりよせようと奮闘していた。
バシャっと上がる水しぶき。
何者かがこちらに石を投げつけてきた。
子供らはあわてて浅瀬から上がり、きゃぁきゃぁいってちりじりに逃げ出す。
「でたぁー!偽王だ!」
見ると、きのうの白髪頭のじーさんが歯をむき出して川面に石を投げつけ威嚇している。
「がああっ」
けなげにもいちの子分、天は俺の前に立ち、木の枝を両手で握ってじーさんに立ち向かう。
「主殿、お守りいたしまする」




