罠にはまる。
「エアスラッシュ」
俺は落とし穴の奥めがけてエアスラッシュを打つ。
穴が深かったのが逆に良かった。スキルを打つ時間があったからね。
スキルの反動で押し返され、俺は穴の底に軟着陸することができた。
しかし、いきなり落とし穴ってどういうことだ。
この高さ、軽く死ねるわ。
上を見上げると、
「放水開始」
のぞきこむ大角の合図で、穴の内側の注水口からお湯がドバドバ勢いよく注がれる。
大量のお湯は、ほどなく俺の頭を通り越す。なかなか容赦ないな。
頭上3メートルはお湯で埋まっただろうか。
俺は今、沢沿い歩き用の「壁抜け」「転移」「水中呼吸」のスキルを持っているんだ。
「水中呼吸」はパッシブスキルだし、水攻めは特にどうということもないが。
さて、どうやって脱出するか。
ここは地中深い場所だ「壁抜け」「転移」これを使うと地中に埋まりそうだな。
一抹の不安に発動を躊躇する。
俺の今のスキルはこうだ。
【 名 前 】 猿渡総司
【 官 位 】 なし
【 レベル 】 999
【 PT 】 菊理姫
【 パッシブ 】 状態異常無効、物理攻撃無効、魔法攻撃無効、心眼
【 パッシブ 】 自動回復、蘇生、水中呼吸、リフレクト、
【 スキル 】 壁抜け、転移、透明化、魅了、鑑定、プロテクト、ヒール
【 スキル 】 エアスラッシュ、電撃、スリープ、スタン
【 スキル 】 グラビティゾーン、メテオ、マジックキャンセル
【 スキル 】
PT項目が残っているのは俺の感傷なので気にとめないでもらいたい。
最下段のスキルを空白にしてあるが、これは戦闘中に必要スキルを書き込むつもりだからだ。
それと、いまみたいに窮地におちいった時用にね。
大角たちは間髪入れずに焼けた石をどかどか放り込んできた。
ジャワジュワ、ボコボコいいながら、お湯がさらに熱せられていく。
まだ耐えられるけど湯が沸騰してめちゃくちゃ熱いわ!
俺は水の冷たさや風を感じるために、感覚の鈍る絶対防御を解除した。
そして、そのかわりに加えたのが物理攻撃無効、魔法攻撃無効だ。
ここで絶対防御を入れてもいい。しかし天狗のやつらに反撃も加えたい。
俺は、熱に耐性のあるこれをセレクトし、スキルに加えた。
「ドラゴントランスフォーム」
俺は天を目指して垂直に駆け上がった。
大角はドゴォという音とともに熱湯を巻き上げ、石舞台の深い穴から黄金の龍が飛び出すのを見た。
「ひぃぃ」「うわぁぁ」「お助けぇ」
熱湯と焼けた石の雨を浴び、悲鳴をあげて逃げ惑う天狗ども。
やつらは俺を殺る気でだまし討ちしたんだぜ。普通なら3度は死んでるわ。
俺も容赦はしない。ブレスを浴びせて村を焼いてやる。
空から見渡すと、石舞台にしりもち着いたままの大角がいた。
あいつ、あの無茶な相撲でまじで腰がイカれたんだろう。ばっかだな。
「おい大角!相撲で負けたのがそんなにくやしかったか?卑怯な手を使いやがって」
俺は、大角をにらみつけ、空気を震わす声で威嚇した。
「正体を隠し、ようもたばかりおった!卑怯はどっちじゃ!!」
「毒酒も効かぬ、毒水も効かぬ、湯も効かぬか!!冥府の化け物めがっ!!」
なんですと!こいつらが俺に飲ませたのは毒酒かよ!
歓迎と勘違いして無茶して飲んだあの3リットル。くやしいぜ!
さらになんだ、穴の中に注いだ湯は毒水か。
どんだけの熱心な殺意だよ。
いやさ、ほんっとに、俺1人を殺すために笛吹いたり、ポリネシアンダンスしたりしたのか?
そりゃあ娘っ子一人を助けたぐらいで妙な大歓迎だとは思ったが。
石舞台の仕掛けは相当手が込んでるよね。石いつ焼いてたの?
相撲のくだりとか、全部演技だったと思うと、すんごいじわじわくる。
しかも上空から眺めてるとだ、天狗連中は熱湯と焼石を浴びてやけどでのたうち、毒水で泡ふいてたりするんだぜ。
いやもうほんとにこいつら、ばかでしょ?
なんつーかいつまでも黄泉国の関係者と誤解して改めないしさ。
一応聞いておくか。
「_俺を殺したい理由はなんだ」
「この地は黄泉国によって閉じられた地、立ち入れるのは黄泉国の使者だけであろう」
ん?この里は外界と隔離された場所なのか。
俺はそんな場所に捨てられたってぇのか。
三目鬼えぐいことしやがるな。さすが鬼。人でなし丸だしだわ。
「それにじゃ、安倍の清明様より、おぬしを食らうと法力が増すと聞こえたのでなあ」
いやいや。俺を食っても法力増しませんし。だまされてますよアナタ。
「姉様ぁ、痛いですぅ、痛いのですぅ」
「シロ、シロ痛いの。なおして!シロ痛いの!シロ痛いの!!」
シロは肩に焼石の直撃を受け苦しんでいる。
シロだけじゃない、笛を吹いてたあの子供も毒水をあびてすでに瀕死だ。
だまされて、アホな作戦を全力で遂行して失敗して、子供らも巻き込んでの自爆か。
ばかだ、ほんどにばかすぎるわ。
「小者が愚かなるは世の常。それを許せなき狭量の我ならず」
これは菊理姫の言葉だが、その心境が理解できる気がするよ。
相手がばかすぎると哀れに感じて怒りを覚えないものなんだな。
俺はドラゴントランスフォームを解いて地に降りた。
「小童!最後に一太刀あびせてやるわ!」
大角はみるからに重症なのに威勢だけはいい。
俺は大角に「魅了」をかけた。
「皆の治療が済むまで、おとなしくしてくれよ」




