天狗と相撲をとる。
天狗の里の長、大角はガハガハ笑い、酒をすすめてくる。
いや俺、未成年だし飲めませんて。
なめる程度ならいけそうだが、大角のすすめるその杯は、おちょこの底が三角になったヤツ。
そう、飲み干すまで膳に戻せないタイプなんだよ。
「まぁ長殿こそ飲んでくださいよ」
逆に酒をつぐ作戦に出ると、大角は酒をぐぃっと飲み干し、杯を俺に返そうとする。
「いやぁさすが長殿、豪快な飲みっぷりですね」
なんやかんやいいつつ酒を大角に注ぎ、飲み回避に必死な俺。
目の前の舞台の前には5~6歳ぐらいのチビッ子天狗がソロで笛をピーヒャラ吹いている。
なかなかお上手、キリッとしてかわいらしい。
そのあとに出てきたのがクロとシロ。
頭に赤い木の実のついた枝を編んだものをかぶり、背中のすその長い衣装を着て手に大きな酒杯をもって静々と舞っている。
クロとシロの舞いが終わると二人の間を割って、今度はチビッ子天狗が5人ほど登場。
アクロバットな舞踏を披露する。
クロとシロはそのまま俺らのいる座敷にあがり、クロは俺に酒杯を差し出した。
えぇぇ!?30センチはあるでかい杯に並々酒はいってんですけど。
「総司、飲む、授かりもの」
なんだって?授かりものって子宝のことですか?献上するといいたいのか?なんだろうな。
謀られた。
衆人注目の中、舞姫の杯は非常に断りづらいじゃないですか。
まぁ俺はパッシブに状態異常無効いれてるし、アルコールも効かない可能性もある。
でかい酒杯にちょっと口をつける。まぁ平気そう。
1,5リットルぐらいは入ってそうな酒杯をぐぃっと飲み干す。
「おおおお」と、ゴザを敷いて舞踏を鑑賞していた村人たちが感嘆の声を上げる。
続いてシロも杯を差し出してくる。
かんべんしてよ。喉も乾いてないのにこの量飲むの、まじで苦痛ですから!
陽も落ちて、篝火のなか、角笛を吹き鳴らし、大人天狗たちの火踊りがはじまる。
木の棒の両端に火をつけてぐるぐる回す。
これはポリネシアンダンスショーだな。そう思ってしまう俺は情緒ないな。
横についてさらにお酌してくるシロ。
クロは大徳利をもちつつも干魚に目が釘付けだ。
イワナの焼き魚も食いそびれてるし、シロとクロは昼から何も食べてないだのろう。
客人の御馳走にハシをつけるのはお行儀悪いと怒られそうだな。
俺は、三目鬼が返してくれた肩掛けかばんに常備してあるハチミツのど飴をくれてやった。
クロの△の口にひとつぶ放り込むと、
「んひゃん、あまひ」
つばを飲み込んで待機中のシロのお口にもひとつぶぽい。
「あぁぁ甘いですぅ甘いですぅ」
すんごいダム泣きしてる。シロは泣き虫だな。
「ときに総司殿。この里へはどなたの使いで参られた」
杯を持った大角がギロリと俺を見る。
「いや、山中で迷ってシロとクロに案内されてきただけですけど」
突然、凶悪な視線を向けられたんでびびったわ。さすが大天狗、大角の目力すごい。
「ふあはははは!」
酔いが回ったのか、大角はもろ肌脱いで大笑いしながら立ち上がる。
「総司殿、ひとつ、わしと相撲をとりませぬか」
割れた腹筋を豪快にバーンとか叩いて俺を誘うさまはどうみてもいじめです。
石造りの舞台は高さ70センチほどで、舞台の真ん中に丸く穴が開いていて、そこに土を敷き、穴のふちを藁で覆った土俵が作られている。
ポリネシアンダンスのあと大人天狗たちはここで相撲を取っていた。
しぶしぶながら土俵に向かう俺。
大角は眼光ギラッギラさせて、すでに臨戦態勢。
「はっけよいのこった!」
老天狗の行司の掛け声の終わらぬうちに大角がドーンと筋骨たくましい身体をぶつけてくる。
「ぐぬぅ」
リフレクトがどう作用してるのかはわからない。
俺はまるで力をいれてないのに、大角は押し返されたようにふんばる。
俺を抱え込み力任せにもち上げようとするも、大角の足が土俵に埋まる。
「うがあぁ」
歯を食いしばり、太い血管を浮き上がらせるその憤怒の形相は、天狗というより鬼そのもの。
「ぐぎぎぎぃ」
浴びせ倒しを仕掛け、すんごい奇抜な体制で耐える大角、このままではやつの腰がイカれそうだ。
俺は右足を大角の左足に掛け、「スタン」を入れて内掛けで倒した。
「さすがじゃな!黄泉国のおかたはお強い」
鼻から血をたらし、土俵のふちにあぐらをかいた大角はニヤリと笑ってそういい放つ。
「黄泉?俺は黄泉国とは何の関係も…」
大角がバンと両手を合わせると、土俵の土が落ち、俺は深い穴へと落とされた。




