クロとシロ
山で道に迷ったら沢沿いに下ってはいけないという。
一方で、沢をたどれば山里があるという。
壁抜けと転移のできる俺は、沢を下って岩や滝なんかにぶち当たってもまず大丈夫。
ということで沢沿いを歩いて山里を目指すことにした。
山の空気はうまいな~。マイナスイオン充満してそう。
などと思いながら散歩気分で歩いてると、川の上流から赤い塗りのお椀みたいなのが流れてくる。
ハッとして、水に浮かぶお椀をじっくり観察したが別に一寸法師は乗っていなかった。
その手のファンタジー世界ではないようだ。
カバッ
突然、草むらからバカデカイ鳥が飛び出し川に飛んでった。
鳥は川で水を汲んで、出てきた草むらにザッザと戻る。
うむ。どうやら鳥ではなく背中に翼の生えた人間のようだな。
俺はこの世界のファンタジー要素を確認してにやにやしていた。
「姉様っしっかり!お水くんできたよぅ!」
鳥が戻っていった茂みの奥から声が聞こえる。
みると、黒白の翼をつけた山伏装束の少女がふたり。
姉様と呼ばれたほうは青い顔をして苦しそうに木の根元にもたれかかっている。
そしてなんと、そのわきに俺の焼いたイワナの串焼きが!
「…うわぁ」
串焼きを勝手にもっていったのはこいつらだし俺に責任はない。はず。たぶん。
でもここで見捨てると目覚めが悪いな。
ヒールのひとつでもかけてやるかと、俺は草むらを分けいった。
「大丈夫か?毒にあたったようだな」
「姉様、姉様が、お、おたすけください」
妹だろう少女はべそべそ泣いて、姉のほうは苦しそうにむせてぐったりしていた。
「ヒール」
俺のヒールをうけて、少女は一瞬回復したものの再び苦しみはじめる。
ヒーリングで毒は消せないのか。
毒を消せるスキル、何かあったはずだが、スキル名がさっぱり思い出せない。
俺はふと思いつき、少女のステータスをオープンしてみることにした。
しかし、他人のステータスはどうやって開くのかわからんな。
「姉様の名前はなんというの?」
「あっあっ姉様は、クロという名ですぅ」
クロのステータスオープン。
クロのステータスが表示された。だが真っ白の無表示の四角いスペースだ。
俺は自分自身のステータスと同じように、そこに適当な項目を書き加えていく。
【 名 前 】 クロ
【 レベル 】 30
【 パッシブ 】 状態異常無効
これでよし。
クロは血の気が引いてた顔に赤みがさしてきた。
それどころか、なぜか翼が1段デカくなってツヤッツヤに?
「ありがと。きもち悪いのもうないよ」
クロはお口が△で目がーみたいな表情でぽけっと礼をいう。
「姉様あぁぁぁ、よかった…びっくりしたあぁ、えぐえぐ」
妹のほうはさっきよりさらに大泣きだ。
「さぞ、名のある行者様。なんでしょ。お礼、する」
姉妹は毒が消えたのを法力かなんかと受け止めたようだった。
口には出さないが、元はと言えば俺が毒のある木の枝で調理したせいだし、お礼はいらないと固辞するも里に来て欲しいと強引に押し切られてしまった。
人里を目指していたし、案内してくれるならちょうどいいかな。
姉妹は姉がクロ、妹がシロという名で、姉が右白、左黒。妹が右黒、左白の翼をつけている。
クロが黒い山伏装束に白いふさふさ付き、妹がその逆の衣装を着ていて13歳ぐらいだろうか?かなり可愛い。
ついでに妹にも状態異常無効をつけてあげよう。
【 名 前 】 シロ
【 レベル 】 27
【 パッシブ 】 状態異常無効
「ひぁ」妹はびくっとして小さく叫んだ。
妹の翼が姉と同じようにひとまわり大きくなった。
それにしてもレベル27か、実は俺は姉妹にレベル100つけてみたんだ。
でも、実際に表示されたレベルは姉30の妹27なわけだ。
他人のレベルは実際より上には設定できないのかな?このあたりもおいおい検証していこうと思う。




