平安京な異世界に来てしまった。
ぽつぽつ書いていきます。
俺の名前は猿渡総司。
東京のN区に住む、ごく平凡な18歳、予備校生だ。
やる気もなく、毎日明け方までゲームして動画みて、昼間は寝てる。そんな生活を送っている。
それというのも親の進める進路にさっぱり興味が持てないからだ。
とくに希望する大学もないし、普通の進学先ならしぶしぶながらも親に従うところだが、親父たちがゴリ押ししてきたのは仏教系の大学なんだ。
去年までごく普通のサラリーマンだったうちの親父が、お寺の住職であるじいちゃんが亡くなったことで突然寺を継ぐことになってね。
ゆくゆくは俺に寺を継がせたいなんてことを言い出したんだよ。
それまで住んでいた駅前の快適なマンションから、墓場の真ん中に引っ越しただけでもいやだったのにさ。
葬式で見たじいちゃんの遺体にもビビってた俺に、人の生き死にに関わる仕事なんてできるはずもない。
かんべんしてほしいよ。
そんな俺が、今なぜか古めかしい畳の続く大広間で平安時代の麻呂っぽい人と対峙している。
よくぞ召喚の儀に応じられた。とか、異界の民よ。と言われてピンときた。
これは噂に聞く勇者召喚ってやつだ。
定番の中世ヨーロッパふうな剣と魔法の世界ではなくて、平安京な香りがする純和風な世界に違和感はあるんだが、いちおうそういう前提で話を聞いてみることにした。
もちろんタイムスリップした可能性も考えた。
でも、麻呂の御簾の横に控えている牛頭と馬頭の護衛の兵は過去の時代にも実在していたと思えないんだ。
並行世界の古代日本。そう仮定して、おいおい探りを入れていく。
召喚となると、お約束のアレだな。俺にも特殊スキルがつけてもらえてるはずだ。
意気込んでステータスの確認をお願いしたところ「ステータス!」となぜかその場にいた一同がドヨっとざわめいてね。
ステータスとはいかなるものかと聞かれ、能力値やスキルを表示するものだと説明したら、いちいち「スキル!」「ポイント!」とか妙な盛り上がりをみせるんだよ。
どうやらこの世界にはゲームの概念はないようだ。
俺が呼ばれたこの場所は、摂津国の貴族の屋敷らしく、大広間には烏帽子をかぶった貴族たちと、装飾品をじゃらじゃらつけた陰陽師みたいなやつらがいてね。俺の「位」を聞かれたから平民と答えたんだ。
位なんて現代に暮らす庶民の俺には無縁のものだし、聞かれても一瞬なんのことかと理解なくて反応にこまったよ。
平民と聞いたとたんにやつらは手のひらを返してさ、横柄な態度をとりはじめたから頭にきたんだよね。
高僧か貴族を求めていたのに平民であれば学もなく役にも立たぬ。とかなんとか。
文字も読めぬわっぱに用はないとまで言われて、予備校生の俺に学がないのは事実とはいっても他人にそこまで蔑まれるいわれはないからさ。
「ふざけんな!厚化粧のカマ野郎」と、中指たてたら座敷牢にぶち込まれてしまったんだ。
俺にまともなコミュ力があればこんな状況には陥ってなかったのかもしれない。
ちょっと冷静になって麻呂たちにこびてれば、元の世界の戻れるように交渉も可能だったか。
とも考える。
でもなぁ、人をゴミを見るみたいに見たやつらのあの目、俺をあざけ笑った時のゆがんだ口元、やつらの表情を思い出すと今でもムカついてくるんだ。
どんな世界にいても、俺は俺を曲げない生き方をしたいんだよ。
普段の俺のやる気のないダラな生活は褒められたもんじゃないが、親の望む進路を嫌がってはいても事実としてそれは俺の選択肢のひとつだし、何を選んで何を切り捨てるか悩んで身をよじるのも俺らしい俺の生き方なんだ。




