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なんだかんだで、三人は部員集めに熱意を注ぐ。

生徒会での件を終えた翌日の放課後、俺は香澄を連れて更生部の部室へと足を運んだ。先に部室に来ていた内海は、俺と香澄が一緒に部室に来たのを見たときはかなり戸惑いを隠せていない顔をしていたが、事情を説明するっとあっさり状況を飲み込んでくれた。頭がいいやつというのはこういうとき助かる。


だが長久手先輩から出されたお題、というか更生部存続の課題について話すと、やはり彼女も思う事があるのか自然と表情を曇らせていた。


「部員確保、ね。これまた無理難題を押し付けられたものだわ」

「そそ。俺たちにできるかよ、って思うよな」

「お前ら、諦めるの早すぎだろ……ていうかまだやってねぇし……」

俺ら二人のネガティヴ思考に香澄は呆れた顔を見せた。


友達の多い香澄は今後一切感じることはないと思うが、友達作りというのはかなり大変な事だというのを知っておいてほしい。小さい頃にそれをしっかり学んでこなかった俺たちにとって、友達作りというのは五教科五〇〇満点取ることより難題と言える。ていうかそんなのテストにあったら、俺と内海なんて解答欄全部空白にして〇点を取る自信さえある。教育委員会はそんな子のために高校の授業に『友達作り』という授業作ったほうがいい。そうすると不良もぼっちも引きこもりもいなくなるぞ、多分。


「それにしても四月までって、期間が短すぎないかしら」

内海の言うことも確かだ。あまりにも催促しすぎだと俺も感じていた。

「でも、それを五月までにしても状況はさほど変わんないけどな。結局部活入る奴は四月で決めてその部活に入るし、入らない奴は四月を過ぎれば帰宅部でいいと割り切ってバイトを始める。そんなんだから、生徒会は早めに決めて予算とかのことを計算したいんだよ」


内海の疑問に対して答えたのは、意外や意外で香澄の方だった。なんだ、こいつ内海のこと苦手とか言ってたくせに普通に喋れるじゃねぇかよ。気ぃ使って損した。あと女ってほんとわかんねぇ……。


香澄の回答に内海は納得してくれたのかどうかは分からないが、彼女なりに解決案がでたのかなるほど、と小さく呟いていた。

「となると、この四月で是が非でもあと一人を入部させなきゃいけないわね。脅しや恐喝に拉致監禁–––––あらゆる手を使って行きましょう」

「いや、無理矢理入部させてもすぐやめたら意味ねぇからな……?」


考え方が明後日の方向を向いてる回答を聴いた香澄は、顔を思いっきり引きつっていた。ていうか、脅しや恐喝に拉致監禁ってお前何ヶ原さんなの?でもこいつなら口内にホッチキスとか普通にやりそうなんだよなぁ……。


「何故そんな憐れむまだ私を見ているのかしら……。安城君、逆にあなたの意見を聞かせてほしいわね」

「バカかお前は。その辺に関しては俺は使い物にならん。だから元から考えてない」

バカはどっちだよ、と香澄は聞こえるか聞こえないか分からない程度の声量で呟いた。いや普通に聞こえてるから!


「どうしてそんな堂々と開き直った事が言えるのかが不思議でしょうがないわね……というか、あなた他の面でも使い物にならないでしょ。少しは人の役に立ったらどうかしら、アンラッキー君」

「ちょっと?人を不運な生き物みたいに呼ばないでくれるかな。俺の名前は安城だ」

だからお前何ヶ原さんだよ……、おかげでノリノリで突っ込んじまったじゃねぇかよ。つーかそれよくよく思い返せば八九寺の芸風だし。


「ていうか、本気でふざけてる暇ないと思うんだけど……」

もはや困り果てたというか、疲労困憊な面持ちで香澄は呟く。それもそうだ、こうやってふざけている間にも時間は刻一刻と過ぎていく。


だけどどんなに頭を抱えて悩んで知恵を振り絞っても、いい案が浮かんでこない。

こりゃもう、神頼みならぬリア充頼みするしかないな。

そう考えた俺は座ってた椅子ごと香澄の方へと向ける。

「なあ香澄、お前の友達で帰宅部で暇な奴いないか?いたらそいつに『何するかわかんない部活に入らない?』って聞いてみてくれ」

「いねぇし……つーかそんな薄気味悪い部活に入りたくねぇっての」

ですよねー、うん!そうなっちゃうよね!もう、私ってほんとバカ☆

まあ確かに俺でもそんな誘われ方したら、入りたくねぇしな……。


俺の馬鹿な考えは当たり前のようにボッシュートになると、再び案がなくなる。

「どうしたものかしらね……」

流石の学年一位の秀才も、この件に関してはお手上げな感じで唸っている。というか、学年一位と二位がこんなに頭を捻らせても解けない問題って、絶対に無理なんじゃないかなって亜沙也思うな!


でもやらなきゃいけないことではあるし、もし廃部にでもなれば、留年はないにしても姉貴から何かしらの罰が与えられる恐れがある。

しょうがない、一人で真面目に考えるか–––––と俺は一度席を立つ事にした。

「ん?亜沙也、どこいくんだよ」

「少し一人で考える。留年するのはごめんだからな」

は?留年?と香澄は顔を歪ませる。そんな彼女に俺はなんでもねぇよ–––––とだけ呟き、一旦部室を後にした。






※ ※






放課後の誰もいない旧校舎の廊下を当てもなく一人で歩く。一階まで降りて自販機で大好きな霧の紅茶のミルクティーを買いに行こうかも悩んだが、あいにく今日は天気が悪く朝から大粒の雨が降っているので断念する事にした。


この島の天気すごく変わりやすいもので、天気予報というものはあまりあてにならないとよく言われている。降水確率〇%であろうと突如あたりが暗雲に包まれ稲光が走るほどの豪雨になるときだってある。今日もその予想もしない雨だったので、傘を持って来ていない俺にとっては不愉快でしかなかった。


まあ雨の事はいいとして、部員の方をどうしようものか。

内海が冗談交じりに無理難題と言ったが、それはあながち間違いでもない。香澄がいるからなんとかなる思ってもいたが、残念ながら彼女の人脈ルートでさえ部員を獲得する事は難しそうだ。


普段あまり頭を使っていない証拠か、少しばかり悩み事をするだけで頭が痛む。偏頭痛との組み合わせで不安と怒りがどんどん積もっていくのが身に染みるように感じる。


そんな時だった。突如無音だった廊下に着信音が大きく鳴り響く。俺は慌ててポケットからスマホを取り出して画面を確認する。そこには『安城天音』と表示されていた。


「どした。用があるなら校内放送使えよ」

『いや、先日私物化するなと怒られたものだからそれは自粛する事にしたんだ』

ああまじか。でも冷静に考えたらそうですよね……。

そうじゃなくてだな、と姉貴は続けた。

『亜沙也、昨日長久手に申請書を出してくれたんだってな』

「ああ、見事に却下と言われ返されたけどな。最低部員数くらい教えろっつーの」

『そこはすまなかった。てっきりお前でも校則ぐらいは知っていると思ってな』

……なんだろう、全然お詫びの気持ちが伝わってこない。これゲームだったら運営サイドにクレームの電話かけちゃうレベルだぞ。つーか、むしろ俺のせいにされてる気がするんですけど。


『それで、香澄以外に部員を獲得する方法は見つかったのか?』

姉貴のそんな質問に俺はついつい、はっと鼻で笑ってしまった。

「愚問だな。姉貴は俺と内海をなんだと思ってんだよ。そんなの簡単に見つかりゃ俺らは更生部自体入ってねーっての」

『……いい方はすごくかっこいいが、言ってる内容があまり威張れるようなことではないと思うんだが』

開き直るな阿呆–––––と怒られた。ですよねー。


『それで、今は何も案もなく途方に暮れている、というところか』

「まあそんなとこだな」

『なるほど、状況は理解した。さぞ大変だろう。……そこでそんな君達に朗報だ。運が良ければ部員がゲットできるチャンスだぞ』

「運が良ければ……ね」

その言葉が妙に引っかかる、なにそれ宝くじならぬ部員くじ?なんなら友達くじってのも作って欲しい。ていうかそれ、やってる事は金積んで友達を作るという最悪な行為だな……。


『大丈夫だ安心しろ。それはお前が思ってるほど最低な行為ではない。単に説得させればいいって事だ。でもその説得する相手がお前並みにクズで捻くれた奴だから、一筋縄では行かないんだけどな』

やれやれ、と言わんばかりに姉貴はため息をついた。

「あのお姉様?俺がめちゃくちゃ世話かかるみたいな言い方やめてもらっていいですか」

その通りだろうが愚か者–––––と怒られた。ふえぇ……お姉様怖いよぉ……。


「とにかく、これはまたとないビッグチャンスだぞ」

もちろん乗るだろ?と彼女は言う。いつもなら断ってるところだが、今は是が非でも部員が欲しい。姉貴の力なんて借りない、なんて子供みたいな事言ってる暇など皆無だ。

「……ああ、乗ってやる。だから詳細を教えてくれ」

了解した。となぜか姉貴が少し張り切りめに返事をし、今夜やることについていたからしっかり教えてくれた。






※ ※






姉貴との電話が終わると俺はすぐさま部室に戻った。結構時間が経ってしまっていたので二人が帰っていないかと不安になっていたが、戻ってみると二人は個々でテスト勉強をしている最中だった。


「ちょっといいか?」

「どうした」

「何かいいアイディアは浮かんだのかしら」

返事はしてくれたものの、二人はノートから目を話そうとはしない。俺を見ろよ俺を。ガキん時母ちゃんからお話しするときは人の目を見て話そうねって習わなかったのかよ。


「部員の件、もしかしたらどうにかなるかもしれんぞ」

ボソッと呟くと二人のペンを握る手がピタッと止まった。

「……まじ?」

「ほんとなの?」

そして二人は同時に顔を上げ、マジで言ってんのこいつ?みたいな意味を含む表情でこちらをみる。目を見て話したら話したでムカつくな……。


「さっき姉貴から電話があって、今日の夜早速だけど行動に移るそうだ」

「……夜?今この時間ではなくて?」

不思議そうに首をかしげる内海に俺は説明を付け加える。


「その部員になってくれるかもしれない生徒は、隠れてバイトをしているらくてな、これは校則では許されていない事だ。おまけのそいつは授業中の態度も悪く成績も結構悪い。もちろん教師にもあまり好かれていない生徒だ。そんな奴が隠れてバイトしてることを姉貴以外の教師にバレて見ろ、バイトは辞めさせられるのはもちろん、停学ってのもあり得る話だ。それを防ぐため自主的にバイトを辞めるよう勧めて、暇なら更生部に入れた誘う–––––と言う寸法らしい」


「……」

「……はあ」

あれれー?二人とも反応薄くない?なんか自信満々で俺がすげーバカみたいなんだけど……。


「春日井さん、この学校ってバイトを禁止しているの?」

「全面的に禁止、ってわけではねぇ。無許可で、そしてやる事ないからただ単に–––––とかそんな無意味な考えでは禁止している。バイト許可証を出せば先生と面談して許可をもらえる可能性だってあるが、許されるのは学校での生活態度がいい奴らだけだ。大抵の奴らは授業中寝たり近くを繰り返したりとアホなことばっかして許可は下りない。だから隠れてやってバレて停学を食らう羽目になる。うちもそこまで鬼じゃないから、両立できるのなら酒を扱うバイト以外なら自由にやらせてるよ」


なるほど、とある程度分かったのか内海は頷いた。

「つまり、その自己中心的で手に負えない安城君並みのクズを部に勧誘するってわけね。気は進まないし絶対に馬が合わないと思うけど、今は人を選んでる暇はないわね……それでそのクズな安城君は一体どこでバイトをしているのかしら」

「おい、俺はクズだがバイトはしてねぇつーの」

「クズは認めるんだな……」

ある意味すごいよ、と香澄は苦笑いを浮かべる。今更否定しても意味ないしな……。


そして、話題はその部員候補生に再び戻る。

「そいつは俺と香澄の住んでるとこの近くにある居酒屋でバイトしてるんだと。それも時間は閉店の一時まで」

それをきいて、おいおい–––––と香澄は驚きの表情を見せる。

「居酒屋という時点で酒類を扱うから禁止だってのに、法律すらも破ってんのかよ……」

完璧アウトだろそれ、と香澄は頭痛を抑えるかのようにこめかみを押す。


確かにこれは大変な事だ。バレれば普通に停学を余儀なくされる。しかしそんな生徒達と言うのは停学ぐらいではへこたれない。しれっとその期間もバイトに足を運ぶだろう。

だが、もし停学期間中に再びバイトが見つかれば、有無を言わさずに退学になるのが目に見えている。

それだけは絶対に避けたい–––––それが、姉貴の願いだった。


「話はわかったわ」

先ほどまで熱心に勉強をしていた内海は、気がつけば私物を全て片付けて帰宅体制に入っていた。

「ようは、これからその居酒屋に行って直談判しなさいって事なんでしょ?」

「要約するとそうなるな」

「でも、居酒屋って学生だけで入れるのか?」

香澄の疑問には、この俺がお答えしよう。


「場所にもよるが、今日行くところは無理だ。チェーン店でしっかりとした店らしいからな。でも安心しろ、姉貴も一緒に行くから問題はない」

成人した大人が一人でもいればそれは問題ない。ただ酒類を学生には提供しなきゃいいだけの話だ。

「でもさすがに制服で行くわけにはいかないでしょ。だから今日は早めに切り上げて支度してそこへ向かうのが最適だと思うわ」


内海の言う通りだ。いくら大人がいるとしても、内海の両親も香澄の両親も帰りが遅けりゃ心配する。その点はしっかり注意しなきゃならない。


「つーことで、帰るぞ香澄」

「あれ、天音ちゃんは一緒じゃないの?」

「また仕事が残ってるから先帰って待ってろってさ」

ふーん、と呟きながら香澄もようやく帰り支度を進めた。


「私はシャワー浴びて向かいたいから、先に失礼するわ。安城君、戸締りと電気よろしくね」

そう言って内海は、颯爽と部室を後にする。

「おい、内海」

が、一つどうしても確認しなきゃいけないことがあったのを思い出し、俺は彼女を呼び止めた。


「お前……何番のバスに乗ればいいのか分かってるのか?」

その言葉に一瞬、内海は肩がビクッと震えるのが見えた。

「–––––愚問ね、私を誰だと思ってるの?」

いや、お前以外にならいちいち確認しないんだけど。



「当然、一一〇番のバスでしょ?」



「……阿呆、九〇番だっつーの」

あっぶねー、やっぱ確認してて良かったー。


「……知ってるわ、それじゃまた後で」

そう言って、恥ずかしさのあまりに耳を真っ赤に染めた内海は勢いよくドアを閉めた。


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