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リズエッタのチート飯  作者: 10期
都会と少女
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80 私は甘くない

 



 若干埃臭い部屋には十数人の子供達がおり、私の姿を確認するとパァっと花が咲いたように笑って近づいてくる。

 家からここまでの距離は徒歩三十分程だが既に良い感じに火もおこされていて、ウィルだけは私に向かって遅えよと悪態をついた。


「悪いねぇ。 んではちゃっちゃと焼きはじましょう!」


 持参した網を火を囲んだ石にうまい具合に乗せ、そしてその上に串焼きをのせていく。

 室内でやるには煙が出て困るのではないかという心配もあったが、よくよく見ればこの家の所々穴だらけで雨が降れば雨漏れだってするレベルのものだ。煙なんて知らないうちにどっかに消えていくだろう。


 じゅうじゅうと音を立てて焼ける肉ともくもくといい香りのついた煙。

 子供達はスンスンと鼻を鳴らして涎をこぼし、今か今かと肉が焼けるのを待ち構えているその姿はまるでオアズケを食らった子犬そのものに見える。

 私はそんな子供らの姿をニヤニヤと観察し、そして肉が焼けたのを確認したのち大声で整列と叫んだ。


「肉に余裕あるけど一人一本から! 肉をとってきたセシル、ウィル、デリアに感謝して食べるように!」


 と言って、一人一人に焼けた串を手渡していく。

 すぐさまパクつく子もいれば、まず匂いを嗅いでそれから食べ始める子もいて各々好き勝手に食べ始めた。

 もしここに馬鹿な子がいたら肉の取り合いになる事もあっただろうが、日頃の教育の賜物かそんなことする子はここにいない。

 いたとしても私が追い出していただろう。


 そしてその肉を手に入れた功績者のデリアは肉を美味しそうに、大切に食べる子らを満足そうに眺め、ウィルとセシルは小さくて上手く食べられない子らのサポートにまわる。

 そこだけ見れば孤児とは思えないほどに成長していると感じた。


 しかしながら、それだけじゃ満足出来ないのがこの私。


 三人が自立したからといって、孤児達が楽に暮らせるわけでもなけりゃ私にとっての利益は少ない。

 それ故に、私は次の行動に移るのだ。


「さて、肉もいいがこっちも食べたくない?」


 私はニンマリと笑いながらカゴからついさっき作ったサンドウィッチと、パウンドケーキを取り出し見せた。

 孤児達は私の思惑どおりに新たに出てきた食べ物にはしゃぎ、口々に食べたいと集まりだす。

 そんな嬉しそうに笑う子らにすぐにあげることなどせず、私は右の手を差し出した。


「んじゃ、一個五ダイムね」


 ピタリと、孤児達の動きが止まった。


「お金、とるの?」


「勿論。 コレはあの三人がとってきたものは使ってないし、私が育てて調理したもの。 ただやる義理はない」


「で、でもっ! 今まではっ!」


「今まではっきりいって私の善意。 まぁ、コレからはないけどね」


 ニッコリと笑って買うの、買わないのとその子らに問いかければ応える声はなく、代わりに鋭い視線だけが私はと向かう。

 理由は単純で、何故今更、自分達を捨てるのか。なんて、そんな理由だろう。


 だからこそ私は、あえて言葉を放つのだ。


「君たちはもう、私に甘える孤児じゃ居られないんだよ? 君たちの半数は既に働いていて、自分の食い扶持は稼いでいるはずだ。 それなのに私に甘えていていいの? 駄目だよね。 この街の、ハウシュタットの住人も冒険者も、そしてこの私でさえも稼いだお金で暮らしてる。 なのに稼ぎのある君らが、タダ、で私からモノを恵んでもらう気のなの? 私をなんだと思ってんの」


「それはーー」


「君らからすれば、なんで今更? だろうよ。 でもさ、状況が変わったんだからそのままでいられないでしょ。 勿論私だって自分の利益だけを考えてるわけじゃないよ? はっきりいって私が作ったご飯は五ダイムじゃ安すぎるぐらいの上質なものが入ってる。 お貴族様に出したら大金もらえるレベルの料理だ。 それを君らに売るのは君らのためでもあるんだよ。セシル達に聞いたけど、お金ぼったくられてんだろ? なら早めにお金の使い方、覚えないとねぇ。 私とのやり取りは君らが損しないためのお勉強でもあるんだよ。 でもまぁ、君らがコレから先もずっとぼったくられてたいんなら無知のままでいりゃいいよ」


 ため息を交えながらそう公言すれば、頭のいい子や覚えのある子はうっと声を詰まらせた。

 まだ働いていない子らに限っては私の言ってることの半分も理解してはいないようだが、そこは今後理解していく事だろう。


 私はどうするのぉとにんまりと笑い、一つのサンドウィッチに齧り付く。

 外はパリパリ中はもっちりパンとシャキシャキなレタス。

 うち側に塗ったマスタードの酸味と口中に香るスモークチキン。アクセントの胡椒が舌にピリリと刺激を与える最高な一品だ。


 白パンにあたるバケットも新鮮な野菜も、ましてや胡椒なんて庶民にさえも手に入りにくい調味料。

 五ダイムだなんていってるが、出すとこに出せば倍以上の値がつくだろうし、利益を考えれば孤児なんかには売る気は無い。

 けれどもこの子らな私が売るのは、彼らがただの孤児ではなく、私の手先だからなのだ。


「美味しいなぁ。 パリパリのもちもち、鶏肉もいい味出してるし、この酸味で口はさっぱりしていくらでも食べられちゃうなぁ。 誰もいらないなら全部食べちゃおうかなぁ」


「ーー食う! 買った! 寄越せ!」


「まいどありっ!」



 最初に痺れを切らしたのはいつも文句垂れだれのウィルだった。

 空気を読んだのかわざわざ小銅貨五枚をみんなに見せつけるように一枚一枚私の掌に置き、そして私から一つのサンドウィッチを受け取る。

 そして間をおかずにパクリとソレに齧り付き、いつもの様に目を煌めかせて美味いと叫んだ。


「串焼きもいいけど柔けぇパンもいいな! それにこの肉、はじめて食べたけどめちゃくちゃ美味ぇ!」


「そりゃあ手間暇かかってんもん、美味いに決まってんだろうが。 美味しいものを作るのに私は妥協しないよ。 たとえそれが激安で孤児にしか売らないとしてもね」


「なぁ、コレ、金払えば何個でも食えんの?」


「勿論支払ってくれるならどうぞ? どうせウィルしか買わなそうだし、捨てるくらいなら全部買ってよ」


 正直捨てはしないが捨てるといえば誰かしら買うだろうと言葉を放つと、俺も私もと小さな声が上がる。

 私はその声に頷き手を伸ばしてお金を受け取るが、やはり中に何枚渡せばいいかわからない子や硬貨を間違えて渡そうとする子らが多い。

 そんな子らには小銅貨がどれで、何枚渡すと良いか。銅貨は小銅貨の十枚分だから間違って渡すなと注意をして正しいお金の取引を教えていく。

 まだ働いてない小さな子やお金が足りない子らには今回は特別だと口添えてパウンドケーキを切り分けた。


「金勘定ができない奴は騙されるし、欲しいものさえ満足に買えない。 今のお前らは金を得る術はあるんだ、次は盗む以外で何かを手に入れることを覚えなさい、いいね。 間違っても金がなくなったからって盗みなんかして、私に迷惑だけはかけんなよ!」


 私の言葉を理解したからどうかは定かでは無いが、孤児達はその言葉に頷き、そして満足そうに笑顔を見せる。

 その笑顔を見ながら、私はしなくてはいけない事があるとセシルに告げ、街の中へと踏み出したのである。




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