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リズエッタのチート飯  作者: 10期
都会と少女
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73 船へ

 



「ちょっと待て! リズエッタ! ちょっとだけでいいから!」


「ムーリー! おや、今日はスネッチョラの依頼がない、だと?」


 いつもの様に朝の早くない時間帯、私は三人を引き連れてギルドに来ていた。

 毎度お馴染みのスネッチョラ駆除の依頼を受けようと掲示板を詮索して見たものの、何故だがいつも沢山ある駆除依頼が一つもない。


 一体これはどういう事だと首を傾げていると、真後ろでベルタが苦笑いを零した。


「最近リズエッタさん達の評判が良くて、それを良く思わないパーティがスネッチョラ関係の依頼を全部受けたんです」


「まぁなんて事でしょう! ーーっても別に独占してるわけじゃないからいいですけど、わざわざご苦労なこって」


 ここのところスネッチョラのバター炒めも飽きてきたところだし、スネッチョラがなくても全然困らない。

 後ろの三人が残念そうな顔をしているが、私は全然困らない。


 それにしても薬草の件といい、私を良く思わない人間には頭が下がる。わざわざ不人気なスネッチョラ駆除を嫌がらせのために全部受けていくなんて、そうそうできる行動ではないだろうに。


 ある意味あの粘着質に塗れに行くなんて食い意地が張ってるこの子ら以外にいるとは思ってもいなかったものだ。

 それを肩代わりしてくれるのは非常に有難く、迷惑どころか感謝したい。


 スネッチョラがないならばどの依頼にすべきかと掲示板をじっと見つめると、真新しい紙に、そこそこ高値の依頼書が一枚が私の興味を引いた。

 作業内容は船の清掃、ただそれだけ。

 達成価格もスネッチョラ駆除の倍ほどの値段でそう悪いものに思えない。

 けれどもこの時間まで余っているということは低ランクパーティでも受けようと思わないものなのだろう。


「仕事が無いなら薬草集めでもーー」


「ベルタさん、これにします!」


 依頼書をじっと見ていた私に薬草集めを勧めてくるバルドロの声を遮り、わたしはテーブルの上に紙を叩きつける。

 ベルタは私の大声に多少驚きながらヘーリグ岬の先にあるヴィッス港に向かってくださいと告げた。


「いくぜ、野郎ども!」


「おー!」


 私達は薬草と小さな声でつぶやくバルドロの事など気にすることなくギルドの扉をくぐり港へと向かう。

 ヘーリグ岬には良く出かけているし、ヴィッス港まではそこまで長く無い道のりだ。

 途中、清掃ということもあって清潔な麻布をマスク代わりに買い、早足で目的の船を目指した。




 燦々と降り注ぐ太陽の日差しと、少しベタつく潮風。渚に打ち付ける波はキラキラと虹色の光を放ち、波音は心を落ち着かせる。


 だというのに、私の目の前にあるのはテラテラとした筋肉、筋肉、筋肉。

 浅黒くムキムキとした筋肉のおっさんの群れは汗水を垂らしながら船から荷を降ろし、その姿のむさ苦しい事なんの。

 苦悩の表情を浮かべないように必死に笑みを作り、私はその筋肉ダルマの一人に話しかけた。


「お忙しいところ申し訳ありませんが、エリオさんの船はどちらでしょうか?」


 ニッコリと爽やかに子供らしくも丁寧に声をかければ、男は一瞬だけ嫌な顔をした後にピンと一方向へと指を差す。

 あの船だと指差されたそれは、この港で一二を争う程の大きな船であった。

 私はその答えに満足し、そしてお礼と深々とお辞儀をしてそちら方向へと足を進めていく。途中、後ろの三人が人混みに逸れそうになるのを手をつなぐ事で防ぎ、親鳥になったような複雑な気持ちでその船へむかったのだ。



 大の大人に揉みに揉まれ、たどり着いたのは見上げるほど大きな船。

 大きな木造の船ではあるが作りはしっかりしていて、古びた見かけによらず立派なものだ。

 キョロキョロと辺りを見渡しまた一人のムキムキ青年に声をかけ、この船が今回の依頼人、エリオの船かと問いかければそうだと返事が返ってきた。


「本日、ギルドより清掃の依頼を受けましたリズエッタと申します。 後ろの三名を含めて作業に当たらせていただきます」


 面倒臭そうな顔をした青年に私が頭を下げると、それに続いて三人も頭を下げる。その光景を見た青年は目を見開いて驚き、そして付いて来いと言った。


 大きな船にはロープと木の棒でできた梯子で登り、漸く足を踏み入れることのできた甲板は潮風のせいかベタつく。

 船内には半裸の男達が群がり貨物を運ぶものや掃除をしているものが、ワタワタと忙しそうに走り回っていた。


「こっちだ、早く来い!」


 ジロジロと船内を見渡して動かない私に痺れた切らした青年は苛立ちを孕んだ声をあげ、私はそれに返事を返して早足にその後に続く。

 

 行き着いた先は船の内部の一室で、扉を開ける前から異様な臭いが辺りを支配していた。


「あんたらはこの部屋を掃除してくれ。 必要なもんがあったらそこら辺にいる奴に聞くといい。 布と水桶は中に置いてあるからそれを使え」


 頼んだぞと言い残した彼はあっという間のその場から離れ、残されたのは私達四人のみ。

 この鼻を衝く臭いに私が扉を開けるかどうかを迷っていると、ウィルは躊躇いもなくその扉を開いた。

 その瞬間、生臭いような生ゴミのような、酸っぱいようなドブあさりをしたような、そんな目から涙が出てくるほどの激臭が広がった。


「クッサ! クッサすぎる! 目がぁぁあ!」


 目にしみる臭いに急いで布で鼻元を覆い、そして流れ出る涙を袖で拭う。

 ウィル達にも早く覆うようにと布を渡すも彼らは顔をキョトンとさせ、別に臭くないとなんてこと無さそうに言ってのけたのである。


「もっと暑くなるとウチだってこんぐらいの匂いはするだろ、な?」


「確かにするな。 暑い日は特に」


「体からも匂いするよねぇ」


 のほほんと言い放たれた言葉は孤児達が住む場所も匂う時期があると言う事実と、それにともなって彼ら自体も匂うと言う新事実。

 よくよく考えれば孤児である三人に清潔にすると言う習慣もなければ、ゴミを漁って飢えをしのぐことも珍しくない。

 今はまだそこまで暑くならない故に体臭もキツくはならないが、夏季を迎えればそうはいかなくなるだろう。

 私はこの時、私の鼻孔を守るために孤児達に水浴びを習慣化させることを心に決めたのであった。


「取り敢えず! 君たちが臭くなくても体に良く無さそうだから鼻を覆いなさい! バイオテロにあうから!」


「えー面倒くさい」


「面倒くさくても! 病気になりたくないでしょ!」


 空気中に飛んでる細菌がどんなものか分からない以上、吸い込まないに限るのだ。

 嫌がる素振りを見せる三人の鼻と口を無理やり布で覆い、そうしてやっと仕事へと取り掛かったのである。



 ネチョリとする床を乾いた布で拭き取り、その後に水拭き。ベタつく壁も同様に拭き取り匂いの根源を処理していく。

 樽があったと思わしき場所にはサークル状のシミができ、ヌメリだけが匂いの根源ではないことを物語っている。

 多数のシミは幾度となく重ねられた年月数であり、それ相応の航海の跡。

 つまりはこの部屋そのものが匂いを放っているのだ。


「鼻がへしまがりそうーー」


 布越しに私の鼻孔を攻撃してくる異臭の存在に溜息をつきながらも手を休めることなく床を磨き、数十分に一回、桶の水を交換しに部屋を出る。

 その時はこれでもかと言うほどに深呼吸をし、肺の中の空気を清潔なものに取り替えた。そして私達と同様に掃除している人に声をかけて水の入れ替えをしてもらい部屋に戻るという単純作業を何度も繰り返したのである。


 船員の中には私というイレギュラーに眉をひそめる輩もいたが、愛想よく笑って挨拶をすると大体の奴らはキョドッて勝手に消えていく。

 男ばかりのむさ苦しい船上で暮らしている故に女に免疫のない奴等なのかと考えたが、いく先々の港の娼館に通ってそうな見かけをしているし、ただ単に子供が船にいるのが珍しいのかもしれない。




 部屋の掃除が終わったのは私の鼻が馬鹿になり匂いをクサイと認識できなくなる頃だった。

 背伸びをし、肩や腰をバキバキと鳴らして一息つき、三人を引き連れて船員の一人に声をかける。依頼達成のサインが欲しいのだが声をかけた船員は俺じゃ駄目だと苦笑いを落とし、私はまた他の人へと声をかけていく。

 一人、また一人と声をかけるも誰もサインしてはくれず、悶々と船内を練り歩いた。


「すいません、サインを頂けないでしょうか?」


 お願いしますと何度目のお辞儀を一人の男にすると、男はニヤリと笑ってそれは出来ないと答えた。

 また探し直しかと苦笑いをしてその場を去ろうとすれば、男は誰もサインしてくれねぇぞと最悪な言葉を私へとプレゼントしてくれたのだ。


「それは何でですか? 私たちはきちんと仕事をこなしましたが!」


「イヤイヤイヤ、その依頼書に今日だけってかいてあんのか? ねぇだろ? だからまだ依頼(仕事)は終わってねぇんだよ! 明日も頑張んな!」


「ンな馬鹿な!」


 まさかと思い依頼書をマジマジと確認してみれば確かにそこには一日のみという記載はない。

 これは私の確認ミスにあたるが、だからといって明日は来れない。

 明日はホアンと共に狩りに行く約束があるのだから。


「あのー、一日分をもらうとかは……」


「無理だな。来ないなら来ないでいいが、依頼破棄で今日の分はねぇぞ」


「ですよねぇー」


 はてさてどうしたものかと頭を悩ませ、私の頭をよぎったのは複数人の孤児達の顔だった。

 聞いて駄目だったら今日の分は諦めようと溜息を落とし、私は意を決して口を開いた。


「明日も来ます。が、メンバー入れ替えてもいいですか? ギルドに属してませんが、万が一そちらに迷惑をかけた奴がいれば煮るなり焼くなりしてもらっても結構ですので」


「仕事してくれりゃこっちは誰でも構わねぇさ。んで、どんな奴らだ?」


 ニヤニヤと愉快そうに笑うその男に多少の不満を感じるが、私はあえて笑って発言するのである。


「ただのしがない孤児ですよ」






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