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リズエッタのチート飯  作者: 10期
都会と少女
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72 私らしく

 

 


 プルンと揺れる二つの山の間に顔を埋め、両手は筋肉質でありながら細い腰にぐるりと回す。

 足元にはフワフワの毛玉が二体へばりつき、それがまた愛おしい。


「おいリズエッタ、邪魔だ。どいてくれ」


「んー」


 自身の胸元から必死に私を離そうとするシャンタルの手を払いのけ、私は躊躇わずにより深く顔を埋めた。


「おじょーあそぼー」


「んー」


 足元できゃっきゃと笑うガウナとツァックに空返事を返し、私はその暖かさをただ感じるだけ。

 深いため息を私の頭に落としたシャンタルはのそのそと六本の足を動かし、私は落ちないようにこれまた必死にへばりついた。


 なんとなく。

 そう、なんとなく。


 庭ではない外の世界で嫌な気持ちになると、何故だか亜人達が恋しくなるのだ。

 レドのもふもふやシャンタルの豊満な胸、パメラのひんやりとした蛇の部分を触ると何故だが落ち着く。

 最近ではちびっこ二人の太陽の香りのモフモフも私の癒しになりつつあった。


「レド! リズエッタを引っ剥がしてくれ! 仕事にならん」


 歩みを止めたシャンタルは声を荒げてレドの名前を呼ぶ。

 すると数秒もしないうちに私の体は宙に浮き、もふもふの獣の手が私を脇下から持ち上げたのがわかった。

 くるりと体の向きを変えられた私はレドに横抱きにされ、足にひっついていた双子はレドの体をよじ登って今度はレドの頭の横から顔を出す。

 虎、犬、虎と可愛いもふもふの顔が三つも並べば、これまた可愛らしいの一言だ。


「お嬢、どうかしやしたか? 元気がなさそうですが」


 レドはくりくりした目で私を見つめ、コテンと首を傾げる。

 その姿を真似てガウナとツァックも首を傾げ、その姿は癒しそのもの。

 思わず笑みを零せばレドの尻尾はブンブンと左右に揺れて、ほんの少し嬉しそうにレドの目元が歪んだ。


「心配してくれてありがとう。いやね、最近街の孤児達と行動してるんだけど、なんかこう、私が凄く悪くみえるというか……」


「悪く? どんなところが悪いんです?」


「その、私はさ、私のために孤児達をいいように使っててさ、それも全部私が楽するために、得するためにね。だから騙すし見捨てもする。それなのにあいつら私を頼ってくんだよ。家族の為に頑張りたいとか仕事欲しいとかいってさ。そんでもって私も情に流されてどうにかしたいなって思ってる部分もあって。体のいいパシリとか下僕とか思ってるくせに、情に流されて助けたいなんて偽善もクソもねぇじゃん? むしろ私クソじゃねって」


 それこそ毒味をさせたり、美味しい肉を食いたいが為に狩りを覚えさせたり、家政婦まがいの事させようとしたりと数えたらきりが無い程に私は私の利益の為に彼等をこき使っている。

 だと言うのに、純情な子供達の泣き顔を見て今更何かしてあげたいと思うなんて都合のいい考えそのものだ。


 彼等の泣き顔を見て肩を抱いて、情に流されて私のみみっちい自尊心にひびが入ったような気さえする。

 私の行動全てがおかしいものだと、自己中心的すぎではないかと、心の奥底で疑問と葛藤が生まれてしまったのだ。


 全くもって情けない。

 そう思って私は鼻をすすった。


「ーーお嬢は、そいつらを守りたいと思ってるんですか?」


 レドはグズグズと鼻をすする情けない私に優しく問いかけた。

 私はその問いに、守りたいわけではないのだと自分の気持ちを正直に伝えて俯いた。


「なら、お嬢は何も気にする必要ねぇじゃないですか。 哀れみや蔑みも偽善もなんも考えねぇでいつもどおりにしてたらいいんです。いつだってお嬢は自分の事だけ考えてりゃいいんです。お嬢がしたいからする。グチグチ考えて嫌な思いする必要ありやせん」


「い、いや、でも、それじゃあまりにも私が酷いやつじゃーー」


「別に酷いとは俺は思いやせん。偽善だろうがなんだろうが、それがお嬢のしたいことならばそこになんの感情もいらねぇ筈です。それになんとも思わない奴らにならどうなってもお嬢の責任じゃないでしょうに。それともお嬢はそいつらの為に苦しみてぇんですか?」


 いつよりもきりりとした視線は私から外れることはなく、レドは淡々と語る。その口調はほんの少しきつく、どこか冷たく感じた。


 先ほどとは違ったレドの声色にあわあわとしていると様子を見ていたシャンタルが私を抱きかかえ、そしてレドを睨み付ける。

 レドとシャンタルの視線の間には火花が散ってしまうのではないかと言うほど、嫌悪な雰囲気が流れた。


「リズエッタだって感情を持った生き物だ、迷うことくらいあるだろう! いくらリズエッタが外の奴らに構いすぎるからって本人に当たるのは間違いだ! アホか! 構って欲しかったら構ってほしいって言えこのアホ!」


 最初に言葉を放ったのはシャンタルだった。

 その言葉から考えるに、レドは私が孤児達に構いすぎるのが気に入らないようである。

 シャンタルに抱えられながらレドに構ってほしいのかと逆に問うて見れば、レドは小さく頷いた。


「俺達よりも長い時間お嬢といるのに、お嬢を苦しめる奴らが気にくわない。情を売りつける奴となんて一緒にいないでずっとここにいればいいんです! お嬢が笑わないのは、辛い思いをするのは俺は嫌です!」


「別に売りつけられてるわけじゃなく、私が勝手に思ってるだけでもあるんだけどーー」


「それでも! お嬢の負担になるなら、苦しめるならそんな奴らいらないでしょう! 俺らの方がお嬢を幸せにできるんです!」


 こんな感情を露わにしたレドを見たのは出会って初めてだった。

 いつも笑っていつもそばに居てくれて、そんなレドが怒りを露わにするなんてよっぽどのことなんだろう。

 私のことで、私以上に嫌な思いをしているのはどうやらレドのようだ。


 尻尾をシターンシターンと上下に強く揺らし、私の目の前でギリギリと歯ぎしりをしているレドを見ていると、何だか私の思考があまりにも残念なものに思えてきた。


 確かにレドの言う通り、私の負担になるのならばこんな関係はいらないのだろう。苦しむのならば常識も良識を捨ててしまえばいい。

 たとえ情に流されたとしても、その責任を負う必要もなければ、後から手を払っても構わないのだ。


 偽善行為で野良猫に餌をあげたとしても、その次も世話をしてあげなきゃいけないわけではない。他の誰かがなんとかするだろうと見捨てていくのが人間だ。

 だから私が後々彼等を見捨てたとしても、私だけが悪いわけではない。

 その猫を捨てた人間や見て見ぬ振りを決め込んだ奴らも悪い。

 優しさを与えることが残酷な行為だとしても、無責任な行為だとしても。それを行うことがよく思われなくても、何もしないで見殺しにしてる奴らに文句を言われる筋合いはない。


 ましてや私の場合は人間だ。

 あの街で生まれ捨てられた孤児だ。

 私が一度拾ったものを私がどう使おうと、拾わなかった人間に言われる筋合いはないのだ。そしてそんなクソみたい思考の私に縋る子らにだって、文句を言われる筋合いはない。

 たった一度の情けだけでその後を面倒見る義務などありゃしない。


 偽善じゃないかとか非道とか考える前に、私がそこまで真人間だと思う事自体が間違えだったのだ。


 だってそうだろう。


 真人間が奴隷を買うか? 亜人を閉じ込めるか? 自分のために働かせるか? 人を見下すか?


 私は奴隷を買うし閉じ込めるし、自分の幸せの為に労働を義務付け、劣るものを見下す。


 それが私。


 真人間ではない私。


「レド、ごめんね。ありがとう」


 考えがブレて、思考が歪んで。

 それでも私を一番に考えてくれて。


 嗚呼、本当は簡単な事だった。

 情に流されたっていいじゃない。

 偽善でもいいじゃない。

 極悪でも底辺でもクソでもいいじゃない。


 やりたい事をやって、私が満足するならそれでいいんだ。


 それで私は自己満足に浸れる。

 自己陶酔できる。


 それが私の幸せなのだ。


「レド、ぎゅー!」


 シャンタルの腕からにゅるりと逃げ出して、私はレドの首元へ抱きつく。

 ふわふわであったかい毛並みを持つレドは私の最大の癒し。 私の幸せそのもの。

 私の顔にスリスリと頬を寄せるツァックもまた可愛らしく、ガウナは肉球のついた手でペチペチと腕を叩く姿も愛らしい。


「シャンタルもー!」


 と、勢いよくシャンタルの豊満胸に飛びついた。顔を埋めると若干の息苦しさを感じるも、ムニムニとした感触は心地よい。

 二ヘラと表情を崩して真上を向けば、呆れたようにシャンタルも笑い返してくれた。


「迷いは晴れたか?」


「お陰様で。私は私らしく、私の心に従うさ」


 そこに同情が加わっても哀れみが加わっても、私がやりたい事ならば迷うことはない。


「とりあえず、可哀想な子らに生き方を教えて貢がせる! 目指せブラック企業! そして楽して生きようぜ!」


 えいえいおーと元気よく片手を挙げ意気込むと、ちびっこ二人も真似して声を上げる。

 私はその姿を見ながら、庭に住み着くのも案外悪くない案だなと、レドに飛びつき笑いかけた。




サブタイをつけるなら葛藤。

自分の思考と行動の矛盾に気持ち悪さを感じる子を書きたかった。

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