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リズエッタのチート飯  作者: 10期
スローライフと少女
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06-2 リズエッタという少女

 

 



 リズエッタとアルノーが秘密基地、改めて”庭”に向かっていたその頃、ヨハネスとスヴェンは気難しい顔で向かいあっていた。


 二人の心境はとても複雑で、その中心にいる人物は他でもないリズエッタだ。


「一体全体、どうなってるんだ」


 スヴェンのその言葉に応えようとするヨハネスは一度呼吸を入れ、事の始まりを細かに話し始めた。

 細かに、とは言っては”庭”の詳細は伏せ、自分が死にかけていた事や怪我が完治した事、塩や砂糖といった貴重品が手に入る環境が出来たという報告といってもいいだろう。


 スヴェンはヨハネスの言葉に完全に納得は出来ないものの、リズエッタが使用し作り出していたあの美味い食べ物を思い出して渋々納得せざるをえなかった。


「おやっさんの言うことは理解した。だが塩や砂糖がそんなに簡単に手に入るとはな。いやまてよ、そうなるとあの時のアレはやっぱり……」


「何か思い当たる事でもあるのかの?」


「……昨日リズに飯を分けてもらったんだが、多分それに胡椒が入っていたような気がする」


 胡椒。

 それは黒い宝石と呼ばれるほど高価で貴重なものである。


 昨日クレープを口にした時にまさかと思ってはいたが、そのまさかが起きるなんて誰が思おうか。

 一度だけ運良く胡椒を口にする機会があったが、見たのもそれきりで、早々出会えない品物だと知っていた。

 それなのにこうも容易く、幼いリズエッタが使っているなんて。


 短い髪をぐしゃぐしゃにかき回しスヴェンは深くため息をつく。そしてどうしようもない苛つきを含んだ視線をヨハネスに向ければ彼は彼で嬉しそうに、誇らしそうに微笑んでいた。


「リズエッタは神に選ばれたに違いない!」


 ふんっ、と鼻息を荒くし自分のことのようにヨハネスは誇らしい気持ちでいっぱいで、何より幼い孫達が愛しくて仕方がないと言う顔だ。


「神に選ばれたとしても、此れはやばいんじゃねぇの?」


「だとしたらワシが命に代えても守る! きっとそのためのこの身体なのじゃから」


「そう、それもありえねぇし」


 スヴェンが知っているヨハネスという男はこんなに筋骨隆々の男ではなかったが、二ヶ月ほど会わないうちにまるで冒険者の全盛期のような体つきになっている。それも死にかけた状態から三日で。

 その理由も摩訶不思議で”リズエッタの飯を食べたから”だというのだ。


 不思議な出来事は皆、リズエッタを中心に起きている。


「それで、だ。スヴェン、お前に頼みたい事がある」


「なんだよおやっさん」


「塩と砂糖、あとこの干し肉。リズエッタ曰くポークジャーキーを売ってきてはくれまいか」


「砂糖、塩はともかく干し肉を?んなもん何処でも売ってるからそう値ははらねぇーぞ?」


 干し肉は当たり前に作られ、冒険者や騎士も所持しているごくごく普通の常備食ともいえる。そんなものを売ったとしても大した額にはならないだろう。

 そんなスヴェンの考えを察してか、ヨハネスは麻袋からリズエッタの作った干し肉を食べてみろと渡し、スヴェンは渋々それに従うようにそれを口にした。


 するとどうだろう。

 今まで感じたことのない甘さや塩っぱさ、ピリリとする辛さや美味さで、常識を全て覆すような、そんな品物が出来上がっていたのだ。


「なんつーもんをつくってくれた!」


「美味かろう、美味かろう! 麻袋いっぱいのそれと鶏を交換してくれといったら八羽にばけたわ!」


 干し肉とは本来、長期保存するために作られた塩漬けである。つまりは腐らせないように加工するだけであって味なんて二の次。


 つまりは硬いし不味い。

 水に戻したところでその硬さは変わらないし、味だって旨くなるわけでもない。


 でもこれは適度に柔らかく、嫌々食べるどころか進んで食べてしまいたくなるほど美味いのだ。


「酒、酒呑みてぇ」


「じゃろ! じゃろ! これはいいつまみにもなる!」


 知らぬ間に用意された木製のジョッキにはとくとくと酒が注がれ、ヨハネスはそれを片手に肉を食いちぎる。それを見たスヴェンももう一方のジョッキをとり喉を潤した。


「うめぇ……」


 ふんふんと満足そうに頷くヨハネスを見ながらスヴェンは思う。

 下手に商業ギルドに卸すよりもダンジョンに籠る冒険者に売りつけた方が金になる。

 ヨハネスが”干し肉”を扱うと商業ギルドに報告すれば疑いなく許可されるだろうが、この美味さでは他の奴らからやっかみをうけるかもしれない。ならば商業ギルドや市場に卸すより少し高値で冒険者に売りつければ話は冒険者にだけに止まるだろう。


 ましてや作っているのは老人と子供だ、作れる数には限りがあると伝えれば市場に出して欲しいとはいってこないはずだ。上手くいけば商業ギルドにやっかみをうける事なく販売を続けられる。


 それにスヴェンも金は欲しいのだ。

 下手な奴と組んで失敗するよりはよく知ったヨハネスと組むのが最適だ。

 どれだけ塩があるかは知らないが、少なからず麦や粗品な酒を買い取り売るよりは利益はでると見込んだ。


「ヨハネス! 俺は塩、砂糖をかいとろう!でも大金はねぇから売っぱらってから払う!」


「ガハハ、それでかまわねぇよ! お前とワシの仲じゃ!」


「ついでに干し肉はおやっさんの名義で商業ギルドに出しとくぜ!」


「おお! お前に任せる!」


 二人はガッチリと互いに手をとり、この先を見据えた。

 互いに信頼しているからこそできる交渉ともいっていいだろう。


 しかしこの時の二人はこの先など全くみえてはいなかった。

 リズエッタは子供であり大人でもある。そんな彼女が後々世界に名を響かせるなんて想像できようか。


 言うなれば彼女のこの先の人生は、神だけが知っていた。




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