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リズエッタのチート飯  作者: 10期
都会と少女
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67-1 面倒事

 



 軋みを上げて開かれた扉の先は汗と酒の匂いが染み付いた慣れ親しんだ空間であった。

 訪れたのが珍しく早い時間のせいか普段は見ない筋肉ダルマのような人間の数が多く、私のような子供や小柄な人間は少ないように見える。

 依頼を貼り付けてある掲示板前には人集りができ、何時もよりも賑やかな雰囲気がギルド内には満ちていた。


 しかしながら私の目的は依頼を受ける事でも依頼をする事でもなく、ただただ薬と薬草を納品する事。

 混雑する掲示板にも受付にも見向きもせず、スヴェンの手を引きながら一番小さな窓口へ足を向けた。


「こんにちはベルタさん。ニコラさんの薬と薬草を届けにきましたよ」


 薬草と薬の入った籠を受付に置き虚ろな瞳で遠くを見ていたベルタに声をかけると、彼女はカッと目を見開き私に摑みかかるような格好で詰め寄った。

 そのあまりの形相にスヴェンは瞬時に私を己の背中で隠し、そして一際鋭い視線を彼女に向ける。

 二人の間に緊張感漂う最中、私は何か悪い事でもしたっけと一人首を傾げていた。


「リズエッタさん! お待ちしていました!」


 けれどどうやらベルタ自身はそんな緊張感なんて関係なく私の名前を大声で叫び、そして束の間の静寂が訪れたのである。

 それはベルタがいきなり大声で叫んだからか、はたまた、私の名前が呼ばれたからかは定かではなかったのだが、どうやら後者の説が有力だろう。


 それは彼女が私の名前を叫んだその瞬間、鈍臭い私でも分かるほどの数多の視線が私の背中に突き刺さったからだだと言える。

 自信過剰と言われてしまうだろうが、ここ最近薬師達は私に、私の持ち込む薬草に夢中なのだ。その点から察するに、ギルドに張り込んでいる薬師がいてもおかしくはないだろう。

 チクチクと突き刺さる視線を背に振り返ってどんな輩が確認してやろうと思う反面、振り返ってしまったら何か良くないことが起こってしまうのではと二つの思考が交差する。

 その結果私はするっとスヴェンの懐に潜り込みその両手を私の体の前で組むようにして、スヴェンを盾に視線から逃れることにしたのだ。


「なかなかリズエッタさんが来ないから色々大変だったんですよ!」


「えー、そんなこと言われても。どーでもいいんでさっさと確認おねしゃーす」


 面倒臭そうな興味なさそうな視線をベルタ向ければ、彼女は悪態をつきながらも私たちの背後に一度視線を向けて仕事に取り掛かった。


 まずはじめにニコラから預かった薬の種類と数を確認し、その後私の持参した薬草に目を通す。

 態々確認のために一束ずつ机の上に出していくベルタに声をかけようと思ったのだが、時すでに遅し、彼女の口は大きく広がり私とその籠の中身を何度も何度も見て確認していた。

 うっかり声を出さなかったのは偉いと思うが、顔に出すぎなのはなんとも残念なことだろう。


「ああああの、リズエッタさん。こちらはギルドで買い取ってもいいのでしょうか? 私どもとしては大変嬉しいのですが、その、あちらに依頼も出てまして。そちらの依頼金の方が高額で……」


 苦虫を噛んだような顔をしたベルタは私の後方の掲示板を指差しグヌヌと唸った。

 ギルドとしては買い取りたい。だが依頼書が出てるものを言わずにはいられない。

 欲しいものを欲しいといえないベルタの葛藤がその表情なのだろう。


 私はどうするべきかと顔を上げ、そしてスヴェンの出方を窺った。

 私より早く視線を後方にずらしたスヴェンの顔は思っていたよりも険しく、不機嫌そうに小さく舌打ちを零し、そして私に視線を合わせると首を横に振る。

 その表情と行動に、依頼を受けるのはよろしくないのだと判断し、ベルタに向かって今度は私が首を横に振ったのである。


「面倒なんで、ギルド買取で」


 途端に聞こえるのはベルタの安堵のため息と、何処かの誰かの落胆の叫び。

 何故、どうしてと背後から聞こえるその声に身を構えると、何時も私を小突くスヴェンて右手がポンポンと私の頭を優しく撫でた。

 その私を気遣うような素振りにギョッとしながらスヴェンを見やればいつも通りに頭を小突かれ、そして軽く私に笑いかけてゆっくりと私に背を向けたのである。


「何か文句でもあんのか? 聞くだけなら聞いてやる」


 拒絶と怒りの含まれたスヴェンの声は普段よりもはるかに低い。

 もしも私が面と向かってそんな声で対応されてしまったのならば渋々引き下がるしかあるまい。

 だがしかしここはギルドであり、冒険者が集う場所。

 少なからず私のような弱虫はいないようだ。


「文句なら大有りだ! なんでアンタが口を出す! 彼女自身が決めればいい事だろう!」


「俺は口を出した覚えはないが? 首は振ったがな。だとしても最終的にギルドに売ると決めたのはリズエッタだ。お前こそ口出す権利なんてねぇだろうが! イヤラしくニヤニヤ笑いやがって!」


「うっわー、きっもー。クソロリコンはけーん」


 その男の言い分とスヴェンの言い草に場違いな合いの手を入れながらヒョッコリと顔を出してみれば、見知らぬ男がそこにいる。

 予想ではあるが、あの怒り方から見て彼が今回依頼を出していた人物と思っても良いだろう。


 にしてもイヤらしくニヤニヤ笑うなんて最低な大人なのは間違いない。


 眉をすぼめながらギロリとそいつを睨みつければ男は焦ったように両手を振りながら違うと否定し始め、スヴェンはそれでも畳み掛けるように彼を否定する言葉を吐いた。


「何が違ぇんだ、依頼が出てると聞いて小躍りしてたのはテメェだろうが。何考えてるか分からねぇ奴と取引して欲しくねぇのは当たり前だろう!」


「いや、あれは、その。ようやく繋がりが生まれたと喜んだだけで……」


「ンなの知るか! リズエッタと取引したきゃ誠心誠意、紳士的な態度のやつじゃねぇと無理なんだよ」


「スヴェンは紳士じゃないけど特別なんだよ!」


「お前は黙っとけぇ!」


 スヴェンのら怒りの鉄槌は真っ逆さまに私の頭に降り注ぎ、鈍い音が脳内に響く。

 誠心誠意、紳士的と言いながらスヴェンは全く紳士的でもないのにと小言を吐けばさらに一発、私の頭に拳は振り下ろされた。

 せっかくスヴェンは特別なのだと全力アピールして他者を回避しようとしたのになんて有様だ。


 ブスくれた顔をしながらスヴェンの背にもう一度隠れ事の成り行きを見届けよう制止するも、目の前にいるもう一人の男はそうはさせてくれそうもない。


「えー、ベルタさん? そちらの方は一体何方で?」


「この人はここのギルドのマスター、バルトロ・ピトーニです。リズエッタさんに前から会いたかったそうで、騒ぎに紛れて出てきたみたいです」


 まるでゴキブリが出てきたかのような言い様に聞こえるが、目の前の男そんな事を気にする素振りもなくこちらをみて深く頷いた。


「嬢ちゃん、良かったら奥でお茶でもどうだ? 特別に美味いのを用意してやろう」


 ニヒルに笑う強面の浅黒筋肉ダルマは私に向かって右手を差し出し、私はただただ乾いた笑みを浮かべることしか出来ない。

 スヴェンに助けを求める為、シャツの裾を引っ張り此方に振り向かせる事を成功させるもその顔は何故が面倒臭そうに歪めている。


 私だって好きで面倒ごとに首を突っ込んである訳ではないのだが、私の性質上、面倒ごとが彼方からやってきてしまうのは致し方がないと理解していただきたい。


「そうだな、そっちのお前にも用がある。よければ一緒に」


「あー……。じゃあ少しだけなら」


 断ることが出来ない威圧感に渋々頷き、私とスヴェンはギルドの奥の密室へ案内されてしまったのである。

 その結果、小言でスヴェンに文句を言われたのは避けられない出来事だろう。






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