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リズエッタのチート飯  作者: 10期
都会と少女
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65 お好み焼き

 



 タンタンタンとリズミカルに包丁を動かし、細切りにされるのは薄緑色の丸い野菜、キャベツだ。

 今日のご飯には必要不可欠の野菜であり、そして大量に使われる食材でもある。

 現在下処理が終わっているキャベツは三玉。

 それでもまだ十一人分に足りるわけもなく、私は腱鞘炎になる手前までキャベツを刻むのである。


「おじょー、とってきたー!」

「とってきたー!」


 ひたすら手を動かす私の足元に駆け寄ってきたのは可愛いフサフサの双子、ガウナとツァック。

 金色と黒のシマシマした尻尾をピンと伸ばし、頭の上に籠を掲げて採りたての実を私に見せつけた。


 葡萄のような形でオレンジ色をした実をつけたそれは、プチリと一粒潰せばどろりとした赤茶色のソースが出てくる調味料の実だ。一粒一回分ほどの量しかないため今日のように沢山使いたい時は若干不便に感じるが、そんな事は言っていられない。

 だって今から作るお好み焼きにソースはつきものであり、大量になければいけないものなのだ。


「パメラは沢山の実を潰しておいて! ちびっこは手を洗ってお皿の準備!」


 手を休めずに指示を出せば元気の良い返事が二つ上がり、そしてトタトタと可愛らしい足音を立てて遠ざかっていく。

 その様子ににんまりと頬を歪めると、いつの間にか隣に立っていたパメラがぬっと顔を近づけてじぃっとキャベツを見つめていた。


「今日のご飯は野菜だけなのですか?」


 山積みになっているキャベツを眺めながら少し寂しそうにパメラは呟いた。

 その言葉に私はクスリと笑い、キャベツだけではないよと返したのである。


「他にタコや海老もあるよ。あとベーコンにチーズも!」

「それならよかった!」


 私の答えに満足したのかパメラは嬉しそうに笑い、そして己の仕事に取り掛かる。私はその様子を眺めながらキャベツを切り、そして大量の千切りキャベツを持ってスヴェンの元へ向かったのだ。


 庭の端っこ、池の側。

 そこではスヴェンが必死にタコや海老の下処理を進め、レドとティグルが鉄板を温めていた。

 勿論鉄板は以前から欲しいと願っていたもので、今回庭に落ちてたのは鉄板焼きに適した程の大きなものだ。

 筋肉モリモリの祖父は小麦粉と出汁、先に渡してあったキャベツでタネをつくっているが、時おりハッとした顔でポーズを決めにこりと笑う。

 その姿に私は祖父はもう色々と手遅れだと感じずにはいられない。

 ミランは無言ながらにチーズやベーコンを切りとり、シャンタルとエーフィは小話をしながらマヨネーズを大量生産していたり、長芋をおろしたりしている。

 そんな穏やかな風景に私は安堵の息を漏らした。


 ティグルとエーフィは未だに私に警戒心を持っているし、レドに対しての態度は酷い。

 それはレドが私に忠実な子ゆえに衝突が多々あるらしく、その度にレドが武力行使しているからだろう。ちびっ子達とはそこそこ仲良くなれてる気ではいるが、将来的にはみんなが仲良くなれば嬉しい。

 モフモフのワンコとニャンコが戯れる風景を見ながらお茶を啜るのが今のところの夢ゆえに、切実に仲良くなってもらいたいのである。


「おじいちゃーん、スヴェーン、そろそろ焼き始めますよー!」


 一度庭を見渡したあと、私はお好み焼きを焼きに取り掛かることにした。

 手招きをして祖父とスヴェンを近場に呼び、タネに海老とタコ、おろしたり長芋を加えてひたすらよく練り、油の引いた鉄板に大人の手のひらほどの大きさで焼いていく。

 暑い鉄板に生地が垂れた瞬間にジュワッ良い音を立て、時間が経つにつれて香ばしい匂いが充満した。

 隣ではスヴェンのお腹がグゥとなり、チラチラとこちらを窺っているシャンタルの口元にはチラリとヨダレが光っている。

 お皿を準備し終えた子らは鉄板をそっと覗き込み、それをソワソワと見ている親子の微笑ましいこと。


 ニヤニヤとした笑顔を浮かべながら一度生地をひっくり返して焼き、そして最後にソースとマヨネーズをたっぷりとかける。

 本当は青のりと鰹節があれば尚良いのだけれどもまだ作れていなしい、むしろ作れるかわからないし、とりあえず今日のところはこれでお好み焼きの完成としよう。


 最初の数枚は二等分に分けて全員に配れるように配慮し、いただきますの合図でみんなでパクリと食らいついた。


 シャキシャキとするキャベツに歯ごたえのいいタコ。ぷりぷりの海老を包むのは山芋のおかげでふんわりとした生地。

 ソースの甘みとマヨネーズの酸味の相性は抜群で口いっぱいに濃厚な風味が広がった。


「うまー! お好み焼きは焼き立てに限るわぁ」


 ほっぺたを撫でながらそう呟けばちびっ子達もウマーっと同じく声をあげた。

 尻尾をピンと上に向ける虎とブンブンと尻尾を振り回す犬に愛くるしい瞳を向ければ、彼らもキラキラとした目を私に向ける。

 おかわりを催促しているのかなと新しく焼けたものを分け与えれば、彼らは嬉しそうに尻尾を左右に揺らした。


 私以外が海鮮お好み焼きを食べている最中、鉄板の隅でひっそりと違う種類のお好み焼きを焼き始めることにした。

 それはキャベツと長芋は同じで、中身をチーズとベーコンに変えたお好み焼きだ。


 一人ニヤニヤと焼き始めるとベーコンから流れ出した豚の脂と、燻製された香ばしい香りがあっという間に広がり、ギョロリとした鋭い視線が私を突き刺さる。

 スヴェンに至っては親の仇を見るような顔で、何時もより低い声で私に詰め寄ってきたのである。


「おい、それは何だ?」

「えー、お好み焼き? チーズとベーコンの」

「寄越せ」


 スヴェンは否定など許さない口調で私の育てたお好み焼きを奪い、皿の上でナイフを入れる。

 切れ口からはトロリとチーズが溢れ出し、思わずお箸を突き刺し奪った。


 勢いよく口の中に入ったお好み焼きは熱々で舌にチリリと痛みが走る。

 だがそれと同時に上質な豚の脂の旨味とチーズのトロリとした食感、まろやかさが口の中で踊る。鉄板に触れて焦げたであろうチーズのカリカリとした食感もまた堪らなく美味い。


 口の中で目一杯楽しんだ後コクリと喉を鳴らして目を上げれば、般若の如し顔がそこにあった。


 ヤバイ。


 そう思った時にはすでに遅く、私の頭上には拳が振り下ろされた。


「美味しいものはみんなで分けた方がいいんじゃなかったのか、オイ」

「いや、ね。私だって最初に食べたいんだよ! いーじゃん! 作ったの私だし!」


 そもそも作り手よりも先に食べようとするのは如何なのかと問えば俺の方が働いてるという謎の答えを導き出し、それに続いてシャンタルとパメラもそうだと同意の意思を飛ばした。


「私たちはよく働いています! だから先に食べてもいいと思います!」

「いつでも作って食べられるお嬢はさっさと焼くべきだ! だっていつでも食べられるのだから!」


 息を荒くして早く次を焼けとねだる二人に結託して、スヴェンもさぁ焼けとお皿ではなくて生地とフライ返しを私に受けわたす。

 うっと息を詰まらせ唯一の味方であろうレドを見ると困ったように視線を逸らし、唯一の味方にも裏切られたと悔しくも頭を垂れた。


「ーーーー焼けばいいんでしょ、焼けば。でも私の分も取っといてね?」


 致し方なしに鉄板に生地を次々と流し込み、私は機械作業のようにお好み焼き作りだしていく。

 生地の焼ける匂いやソースが焦げる匂い、ベーコンやチーズの香ばしい香りに私のお腹は泣き叫ぶも、周りの奴らは気にせずにバクバクと食べていくのが何とも恨めしい。



 そんな姿を眺めながら一人で贅沢ご飯を作って食べてやろうと思っていたのは、私だけの秘密なのだ。


一人の時はもっと贅沢なお好み焼きを作ってやる!








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