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リズエッタのチート飯  作者: 10期
都会と少女
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閑話07 ミラン

 



 その日、鳥人ミランはゆっくりと息を吐いた。


 彼が此処にきてかれこれ五日。

 最初こそ警戒心を持って過ごしていたミランだが、同じ毎日を繰り返していくうちに此処は安全なのではないのだろうかと思い始めていた。

 それはミラン達を買った人族のリズエッタが警戒心を持ち合わせていないことと、其処に住む三人の亜人が不満を全く漏らさないこと、そして何より彼自身が負っていた怪我が全て完治している事が理由である。



 ミランは四人の虎人とは違い、領主が奴隷売りから購入した亜人であった。故に人族に売られた亜人がどのような扱いを受けるかをその身を以て知っていたのだ。


 人の奴隷とは違い乱雑に扱われ、怪我をしても治療などはせず逆に使えないと殺される事も多々あり、それが当たり前の現実。

 それなのにこの場所では怪我を治療され、何故だか失ったはずの翼までもがその背中にはあったのである。

 失ったものを取り戻せたその嬉しさの反面、これからどんな扱いを受けるのかミランは不安でもあった。


 彼がそんな不安な思いを抱いているとはいざ知らず、リズエッタが命じたのはその庭で働くことという随分と簡単なものであったのである。

 ミランの他に連れてこられた四人の親子に関しては、親と子を離して仕事をさせることに批難の声も上がったが先住人レドのやや暴力的な行動によって一時は治ったと言えた。


 だがしかし、やはり親としてその行動は容認できるものではなかったのだ。


「そこをどけぇぇえ!」


「いい加減諦めろやぁ!」


 大声を上げるのは子供らの父親ティグル。

 そしてそのティグルに応えるのは先住人レド。

 見かけだけではどちらが勝ってもおかしくはない殴り合いは、此処で過ごした時間の差か、それとも気持ちの差かで必ずレドが勝つ。

 その代わり映えしない光景に、飽きないものだとミランは深くため息を落とした。


「ミランは私達やレドや、リズエッタに反論はないのか? 流石の私でも最初は刃向かったぞ?」


 レドに殴られ負け、地に伏せたティグルを器用に糸で引きずりながらシャンタルはミランに声をかけた。

 随分と大人しいものだなと話を続けるシャンタルに対してミランは空を仰ぎながらゆっくりと口を開き、そしてたどたどしく言葉を発した。


「此処は、住みやすい。 仕事、してれば、食うに困らない。 ーーーーずっと楽」


 リズエッタに与えられた仕事をこなしていれば腹が膨れるほどの食べ物を与えられ、貶される事も暴力を振られる事もない。

 以前の生活からすれば天と地ほど違う扱いに戸惑うことはあっても、今の状況に不満が出ることはまずない。


「彼らは他の扱い知らない。 だから不満に思う。 でもきっとそのうち気にいる、はず」


「私も他での扱いは知らないが、確かにそうだろうな。 私だって今更前の生活に戻れと言われたら断固拒否する」


 シャンタルは遠くを見つめて頬を引きつらせ、ミランも同じように遠くを眺めてスミェールーチの故郷を思い出した。


 ミランの生まれ故郷はとても小さな村であった。

 村人が国へ納める分と住人がギリギリ生きていけるだけの農作。娯楽なんてないありもしないであるのは苦痛の日々。

 納める穀物の量が多すぎると声を荒げた事もあったが、その結果もたらされたのは村人を少なくすればいいという最悪の策である。

 年老いたもの怪我を負ったもの病を患ったもの。そんなもの達から命を奪われ、残ったものはさらなる負担に体を酷使したのだ。


 そんな毎日が嫌で苦しくて、ミランを始め多くのものが国外へと逃亡を果たしたのだ。

 しかしながら思い描いていた人族の国も自国とはそれ程変わらず、亜人というだけで最低の扱いを受けることになるとは思いもよらなかった事実である。


 それでもこうして今まで以上に生き物として自由な意思を行動をとれるなんて、ミランからしたら幸運でしかなかった。


「子供の為、受け入れた方が楽。 でも子供と離れるのは辛い」


「ーー双子は親なんて御構い無しに此処を楽しんでるけどな。 パメラが何時もクタクタだ」


 シャンタルの言葉通りティグルの子供のガウナとツァックは親の気持ちなど知らず、元気にパメラの元で過ごしている。だが一つ問題があり、それは双子がやんちゃすぎるという事だろう。

 砂糖や塩、またもや庭中になる野菜や果物を興味本位で口に入れ泣き出す事もあれば、甘い果実を見つけると腹がまぁるく膨れる程食べまくる。

 パメラが見つけて怒るものなら大きな瞳に涙を溜め、その愛くるしさに怒る気さえも失ってしまうようだった。

 リズエッタも時々影からその双子の様子を見守っているようで、ニヤニヤとニマニマと頬を歪めているのが見受けられた。

 その様子からミランはリズエッタが子供好きだと勘違いしており、より安心感を抱いているのである。


「そういや今日のご飯は魚のフライとカメノテらしいぞ。 あとノリノツクダニとかいうのも作るらしい。 楽しみだな!」


「ーーーーカメノテ? ノリノツクダニ?」


「嗚呼! 見かけは良くなかったがリズエッタが作るものだ、うまいに違いない!」


 シャンタルはじゅるりとヨダレを啜りまだ見ぬ料理に想いを馳せ、ミランはそんな彼女を見つめながらも腹一杯に食えればそれで満足だと腹をさすった。



 そしてその夜に振る舞われた食事はガンペシェのフライにカメノテの塩茹で。味噌汁には少しばかりの海藻が用いられ、亜人達は立ち上る良い香りに腹を鳴かせたのはいうまでもないだろう。


 ミランがその中で最も気に入ったのは異様な見た目のカメノテだ。薄桃色したぷりっとした身からは甲殻類を思わせる濃厚な旨味と磯風味が溢れ、思わず目を見開き美味いと声を漏らしたのてある。




 この時よりミランの好物はカメノテとなり、ことあることにリズエッタにそれを所望するのは近い未来の話だ。







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