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リズエッタのチート飯  作者: 10期
スローライフと少女
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39 媚を売り

 




 ホカホカご飯の中には大きめなタコがごろりと入り、茶色の米は香ばしい匂いがした。

 スンスンと鼻を鳴らすレドに味見をさせてみれば目を煌めかせ、もっと食べていいかと耳を垂らす。


「いいよー! そのかわり煮干しの様子見、頼んでいい?」


「了解しやした!」


 尻尾をブンブン振り回すレドにタコ飯を山盛りにした茶碗を渡し、私は一定の大きさにおにぎりを作っていく。ある程度おにぎりの熱が冷めたところで以前取っておいた竹の皮でおにぎりと沢庵を包み、簡易おにぎりお弁当の出来上がりである。

 二つのおにぎり入りの包みを計五個つくり、同行する護衛達と私とスヴェンの五人分とした。


 荷車の要望を出してまだ二日目だったが領主は至急に用意したらしく日を待たずに新しいものが屋敷に届き、その連絡を昨日受けたのだ。それならばハウシュタットに長居することはないと思い今日の午後には街を立つ予定で動いている。

 お目当ての鰹節は見つからなかったが小魚は大量に購入出来たことにより煮干し作りを開始し、第一陣は既に乾燥段階にはいっている。これでダシの効いた味噌汁を作れるようになったし、色々と和食料理も作っていけるだろう。

 うまくいけば魚介系ラーメンもつくれるし、ファングの骨、つまりは豚骨スープと合わせたものも作れる。


 私的にこってり豚骨スープの、ドロリしたラーメンが食べたい。魚介系の醤油ダシを加えたラーメンが食べたい。

 故に煮干しは是が非でも成功させ作らなければならない存在なのだ。レド贔屓に、欲しいものを何でも与えてでも貴重な煮干しさんを監視してもらわなければならない。


「んじゃ、後は任せたよ。この後亜人二人も連れてくるし、出来ればフルーツ採っておいて」


 分かったと頷くレドの頭をグリグリと撫で回し期待のこもった声音で、瞳でレドに言いつけ私は振り向くことなく扉をくぐる。きっとレドなら上手くやってくれるという期待と信頼、それは長年共に行動してきた戦友に抱く感情に似ていた。

 それくらい私はレドを信用しているのだ。

 だから煮干しも亜人達の世話も任せていく気満々だ。


 扉の向こう宿の一室に戻るとそこには旅支度を終えたスヴェンが悠々とお茶を啜り、それでも目だけは物欲しそうにこちらを見ていた。

 その目は食い物無いの? と言っているようで、私は肩がけから採りたての桃をスヴェンに手渡した。けれどスヴェンが欲しかったものはそれではなかったらしく、眉間にシワを寄せ溜息をついてから桃にかぶりつくのである。


 察するにスヴェンが欲しかったのはタコ飯なのだろう。

 だがそれを今与えて仕舞えばお弁当は無くなるわけで、下手をすれば私の分も食われてしまう。そんな間違いを起こすわけにはいかない故に、そのジト目に気付きながらも私は顔を背けて同じように桃にかじりついた。


 桃を食べ終えた指をペロペロと舐めながら私も簡単に荷物を詰め、スヴェンの用意した水で手を洗う。そして二日間だけお世話になった宿を後にし、カール達と待ち合わせをしていた領主の屋敷前に足を進めた。


 予定より早い時間に屋敷の前に着くとそこにはもう彼らはおり、私達の姿を見つけると手を振ってニッコリと笑って私達を迎え入れた。その笑顔に私はよろしくお願いしますと声をかけ、三人を引き連れて従者に案内されるがまま屋敷に再度足を踏み入れたのだ。


「そういや帰りは何を運ぶんだ?」


 言えないものなら言わなくていいと付け加えながらクヌートはスヴェンに問いかける。

 それにスヴェンがなんて答えようかと考えている間に、私はさも当たり前のように奴隷だといつも通りの笑顔で答えた。


「奴隷? 何でまたそんなもんを」


「ーー欲しかったから、ですかね? でもまぁ面倒は私がみるのでお気になさらずに。皆さんにお手数はおかけしませんよ、安心してください」


「……お前、変わってんだな」


「よく言われます。褒め言葉としていただいておきましょう」


 変わっていると言うことは他者とは違う視点を持っている事だと私は思う。

 十人十色ということわざがあるように、他者と私は違った人間だ。わざわざその他大勢に埋もれることはない。例えその結果自身の身に災いを呼ぶとしても、己の考えを歪めてまで同一になることはしたくないのだ。よく話耳にする偉人でさえ最初は変わり者と言われていることすらあるし、やりたい事をやらず、皆に合わせるのはただのストレスでしかない。


 ならば変わり者と言われたら素直に私は喜ぼう。それは私の個性だ、生き様だ。

 誰かに嫌われようが馬鹿にされようが知ったこっちゃない。


「みんな違ってみんないい、それが私のモットーです!」


 拳を掲げニカッと笑えばスヴェンに無意味に頭を叩かれ、クヌートとティモは笑い、カールは呆れ顔になる。

 そう言えば今更だが、なぜだか護衛三人のガタイが良くなっているのは気のせいだろうか。いや、気のせいではないだろうけれども。


 さてさてそんな根拠のない話はさておき、私がしなくてはいけないのはこの先にいる人物に賄賂を渡す事と、亜人二名を庭に送り届ける事である。

 案内された先は先日訪れた馬車小屋で、そこにある物は私達の要望どおりの一回り小さく、使用感のある荷馬車だった。


「我儘を聞いていただきありがとうございます」


 スヴェンが領主に頭を下げるのを真似て私も頭を下げ、そして隠し持っていた二つの壺を領主にみせた。


「領主様、これは梅干しというものです。一方は酸味が強いですが疲労回復効果も期待でき、もう一方は蜂蜜を加えているので甘く、免疫力を高めるのに良いものとされています。こちらは祖父やスヴェンとは関係なく、私個人から、今後弟が騎士院に入りご迷惑をおかけすると思うのでーー」


 弟を思う姉を演じ、尚且つ領主に媚びを売る最善手。

 領主も私の意図を汲み取ったのか和やかに笑いそれらを受け取り、弟が騎士院に入ったのかと私に声をかけた。

 その言葉を待ってましたとばかりにアルノーは魔法に長け、今年度最高の魔術師になる存在だと、けれども平民だから心配なのだと薄っすらと涙を溜めて訴える。すると領主は考慮しようと頷き、私は領主にバレぬよう背中の後ろでグーサインを出した。

 その行動を見たスヴェンは又しても溜息をつきながら私の背中の肉を抓り、領主に向かってご考慮感謝しますと再度頭を下げた。


「話に聞くに今から街を出ると聞いているが、もう少し滞在してはどうだ? わざわざ此処まで来たのだ、そんなに急ぐごとあるまい」


「いえ、ヨハネスが待っていますし、リズがーーリズエッタが祖父に会いたいと駄々をこねまして」


 成人したとてまだ子供のようでと笑いながらスヴェンは嘘をつき、それに乗って私もおじいちゃんが心配なんですと続けた。すると領主は祖父に対して、私に対して強引に出ることはなくならば仕方がないと手を鳴らし、彼女達をこの場に呼び入れる。

 その二人の姿を見て息を飲むのは私でもスヴェンでも領主でもなく護衛の三人であり、小声で私を非難する声も上がった。


「オイオイ、本当にそれを連れて帰るのか? 嬢ちゃん気は確か?」


「私はいつだって正気ですよ。奴隷を買ってなにが悪いんです? 街を歩けば奴隷商だっていたでしょう。何も驚く事はないはずですが」


「だがこいつらはーー」


「亜人ですねぇ。だから、欲しいんです」


 うふふと口に手を当てて笑えばクヌートは引きつった笑みを見せ、他の二人は諦めたようにそっぽを向いた。

 その行動を確認し、私は私を軽蔑し恐れ、蔑み侮辱するような目で見る二人に、笑った。



「さぁ、さっさと荷馬車の中に入ってくれるかな?」






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