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リズエッタのチート飯  作者: 10期
スローライフと少女
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20 祈り

 




 昼夜問わず鳴り響く雷鳴は時折光の矢を放ち、暗闇に包まれた森を明るく照らす。

 大粒の雨は大地に降り注ぎ、家の外はもはや川と言ってもいいほどだ。


「レド、寂しがってないかなぁ」


 雨が降り出したのは四日前で、それからずっと天気はこんな感じだ。それ故に四日前からレドには会いに行けていない。

 一度無理矢理にでも外に出てみようと試みたが、扉を開ける前にスヴェンに止められて家から出ることすら出来なかった。

 彼処には尽きることのない食べ物があるから飢える心配はないのだけれども、四日も会いに行かなければ折角懐いてくれたのがいい無駄になるようで気が気ではないというのに。



「そういやなんでスヴェンは此処に住んでんの? 商人でしょ?」


「リズエッタさんのお陰で金に困る心配はなくなったんでな、サボりだ」



 わざとらしく私の名を呼びスヴェンはニヤリと笑った。


 元々スヴェンはうちとヒエムスとエスターの定期便のようなもので、商人と名乗っていたが運び屋に近かったと言える。

 グルムンドやダンジョンに物をおろすようになってからはスヴェンのいう通りにうちもスヴェンもお金に困る事は無くなり、むしろ余裕が出てきたのだ。そのお陰で牛乳やチーズを入手する事が出来るようになったが、いかせんスヴェンが増えたせいでご飯の量が増える増える。唯でさえ祖父は筋骨隆々になり食べる量が増え、アルノーは育ち盛りでもりもり食べさせてるというのにそこにもう一人加わるなど想定外で、いつも私のご飯が減ってしまう。

 いくらアルノーの勉強を見てもらってるとはいえ遠慮というものを覚えて欲しいし、これ以上ご飯が減るのならばご飯を報酬にするしかあるまい。


「リズー、今日のご飯はー?」


「そうじゃ! メシじゃ!」


「はいはい、今作りますよー」


 私の気持ちなど虚しくアルノーと祖父は私に飯炊きを押し付け、二人で読み書きの練習に励んでいる。

 祖父が魔導書を読み、それをアルノーが書き写し、スヴェンがどういう魔法か教えていくというシステムだ。

 読み書きの練習ならば私も混ぜてくれればいいのにいつもこうだ!


 ため息をつきながら玉ねぎを切り、バターとともに鍋でさっと炒めてそこにじゃが芋とさつま芋、人参を投下。油が絡んだところ小麦粉を振り入れ、牛乳と香辛料であるローリエ、先日作り直した鳥ブイヨンスープをさらに加えじゃが芋たちが柔らかくなるまで煮込む。


 このブイヨンはこの前鶏ガラスープを零した後、祖父達がルクルーを三匹も捕まえてきたものだからどうせならと作っておいたものだ。私の知ってる固形ブイヨンとは程遠いが味は確かで、この雨の降り続く中、こいつを使った料理で腹を満たしている。もしあの時ブイヨンも作ってなかったら今頃に白飯だけだったかもしれず、あの時の私を褒めてやりたい。


 グツグツとする鍋の隣でルクルーの肉を焦げ目がつく程度に焼き、芋が煮えてきたところで鍋に追加する。鍋底が焦げないように混ぜながら白ワインと胡椒、塩を加え、最後にバターを入れればチキンクリームチューの完成だ。

 鍋を火からおろし平皿にシチューを盛り、戸棚から黒パンとジャム、桃の蜂蜜漬けを取り出し三人が居る場所へ運び食事の準備は完成だ。


「シチューの量は多くありません! なのでお腹減ってる人はパンにジャムをつけて食べる事! 桃は私のご褒美なので許可制です!」


 最初に釘刺さないとシチューとパンで大量食いされてしまう。私の分のシチューを死守するためにもジャムで食べてもらわなければ困るのだ。


「桃は俺もたべたいです! ください!」


「許可します! お爺ちゃんとスヴェンは大人なので許可しません! あんたらは酒でも飲んでろ!」


 あからさまにえぇーと残念がる二人の前にドンっと酒瓶を出せばいそいそとコップを用意し、トクトクとついでいく。本当に分かりやすいやつらめ。


 両手を合わせいただきますと合図すれば食欲旺盛の彼らはシチューにがっつき、あっという間にお皿に盛られた分を食べきってしまい、各々でおかわりのために席を立つ。以前ならばおかわりをよそうのも私の役割だったが、今はそれをやると私が食べられないので個々でやるようにしているのだ。


「アルノー、今日は何の魔法習ったの?」


 スプーンでルクルーの肉を拾い、はしたなくもモグモグと食べながらアルノーに問うと少し残念そうな顔をする。スヴェンはその横顔を苦笑いで見つめ、そう簡単にはいかねぇさと肩を叩いた。


「こんな天気じゃねぇと呼べねぇ”ヤツ”がいるからな、そいつらを呼んでみたんだが……」


「……全く反応してくれない」


 窓辺で何度も何度も呼びかけてみたものの反応はなく、やはり精霊とは気紛れでそう簡単には現れてはくれない。スヴェンも雷の精とは合わないらしく、電気系の魔法は使えないようだ。

 通常いる火や水、大地の精とは違いウロウロしている精故に、気に入った人間にしか従わないとか何とか……。 面倒臭いものである。


「私もみてみたいから試しにやってみてよ」


「えー。 出来るかわからないよ?」


 それでもいいからやって見せてと頼むとアルノーは窓辺へ向かい、渋々と詠唱をする。


「雷の精よ! 我の前に汝の姿を示したまえ!」


 一際大きな轟が木々を揺らし、目をくらます。もしかしてこれがそうなのでは? とスヴェンの顔を見るが首を横に振りただの雷だとため息をついた。


「最初っからできると思っちゃいなかったが、二、三日やっても無理だからアルノーとも相性悪いのかもな」


「うー。 雷の精は意地悪だ」


 がっくりと肩を落とす二人を見ながら、ふとある記憶を思い出した。


 何処ぞの国では抜けた歯を置いておくと妖精がお金に変えてくれるという話があったような気がする。

 ここの世界でも乳歯とお金を変えてくれるのかは定かではないが、もしかしたらお菓子で仲良くなれるのではないか?

 妖精って甘いもの好きなイメージあるし。


 精霊は何処にでもいるとスヴェンは云うが実際見たわけではないし、嘘か本当か分かりゃしない。

 それに私には魔力が全くないようだが、そんなファンシーに触れてみたい。あわよくば見えなくても良いが仲良くなりたい。こうなったら一か八か試して見る価値はある。


 夕食のシチューを一気に口へかっ込み、一本の蝋燭と秘蔵のクッキーを持って寝室へ。

 枕元に麻布を敷きそこにセサミクッキーを二枚置いて神に祈るようなポーズを決めた。


「神様仏様、妖精精霊様々! どうかどうか! アルノーと仲良くしてください、私と仲良くしてください! これは貢物です!」


 また何かやってるとスヴェンは変な視線を私へと向けるが、気にしてなどいられない。

 ファンタジーもファンシーも大歓迎なのだが私には魔力のカケラすらなく、アルノー頼みだ。せめて魔力ではなく食べ物で、お菓子で力を貸してくれたら嬉しい。


「どうかどうかわたしと仲良くしてください、お友達になりましょう!」


 見えなくても触らなくても、意志さえ通じれば仲良くなれるかもしれない。


 ぎゅっと目を瞑り掲げた両手を握りしめ、何度も何度も願い倒す。外では未だに雷が鳴り続け、雨は降り止むところか強さを増していく。

 わたしの奇妙な行動を見続けたスヴェンは祖父とアルノーを寝室へ呼び、呆れ顔で私と同じ行動をしだした。

 蝋燭一本だけが明るく照らす室内で、どうかどうかと居るかいないか分からない精霊に拝み倒す姿は何とかシュールなものだろう。


「ねぇ、リズ。 これで雷の精はきてくれるの?」


「知らん!」


「じゃあこの奇抜な行動は何なんだ」


「所謂神頼み。 きっと上手くいく、はず!」



 アルノーはその答えに口を尖らせ、スヴェンは軽く引いている。

 唯一祖父だけはリズエッタは神に選ばれし者だからと満足げに笑っていた。




 一か八かで試してみたい神頼みならぬ精霊頼み結果は翌日の朝に分かった。セサミクッキーが置いてあった場所にはうっすらと焔を宿す花と水滴がついてある花、パチパチと電気を放つ花が替わりに置いてあり、アルノーに試しに雷の精を呼んでもらうとその手はパチパチと光り輝く。


 仲良くしてくれると云う事なのかどうかは分からないが、その花を持ちアルノーと共に誇らしげにスヴェンに見せたところ酷く荒んだ顔を私に向け、お前本当に気持ち悪いなと失礼な言葉を放たれた。


 全くもって心外である。






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