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リズエッタのチート飯  作者: 10期
スローライフと少女
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19-2 レド

 




 リズエッタと呼ばれる人間は自己中心的な人物である。


 自分が幸せならば家族が幸せならばそれでいい。

 そのついでに老後の資金を貯めようだとか愛玩動物を飼ってみようだとか、自分の為になる行動しかしていないし、商人であるスヴェンさえも、今は万が一の為の隠れ蓑と思っている節もある。


 そんなリズエッタでも好いてくれる輩はいる訳で、亜人のレドもその一人だ。







 ”スミェールーチの大陸から命懸けで逃げ出せばその先に安息の地があり、何かに怯える事も命の取り合いをする事もなく幸せに暮らせる”


 亜人の中には根拠もない話を信じてスミェールーチから逃げ出す者が多々おり、レドもその話を信じて逃げ出しだした一人だった。

 しかしながら逃げ延びた先の人間は当たり前のように亜人を嫌い蔑み、物を扱うように傷つけ拷問する、彼らの知る人間となんら変わる事のない人間が生きる場所。

 スミェールーチから逃げ出し助けを求めようにも手を振り払われ、叫ばれ、捕まり奴隷とし玩具としてあっという間に売り飛ばされた。


 亜人は人とは違い怪我の治りが早く、死に至るまでには時間がかかりそれ故に残虐な思考を持つ者に受け渡される事が多い。レドが最初に引き渡されたのもそんな思考の持ち主の見世物屋だった。


 レドの他にも二、三人の亜人が居たが何奴もボロボロで、体中にあらゆる怪我があり、四肢が欠損している者もいた。運良く骨を折られるだけですんだ事もあれば”客”に目玉を抉られる事もあり、中には生きたまま毛皮を剥がされる者や生きたまま腹を裂かれる者もいる。


 結局のところ人間にとって亜人は異なる種で、甚振ろうが殺そうがどうでもいい存在でしかないのだ。


 何のためにスミェールーチから逃げ延びて来たのか。

 この先には地獄しかないのか。

 平穏などこの世にはないのか。


 絶望は枯れる事なく溢れ出すばかりで希望の光さえレドに見えるはずもない。


 そんなレドが運良くリズエッタの所まで流れ着いたのはある意味奇跡といえよう。

 ”運良く”見世物屋の主人が死に、”運良く”生かされ、”運良く”グルムンドまで向かう奴隷商人に買われた。

 そして”運良く”その奴隷商は残虐な思考の持ち主にレドを売りつける事なく、”運良く”リズエッタの所まで流れ着く事ができたのだ。

 まるで知らない力に引き寄せられるかのように。


「アレが欲しいの、買って」


 折られた骨がきしみ腐りかけた肉が傷む最中、薄っすらと目を開ければかろうじて目の前に幼い子供が立っていることをレドは理解した。


 どうせ誰に買われても扱いなど変わらない。


 逃げ出して二年、捕まり二年。

 まともな扱いなど受けてはいないレドにとって誰が自分を買おうと同じ事で、人間なんて縋る価値など無いに等しい。


 けれどもレドも絶望の最中生きて、だからこそ生にしがみ付いていたかった。



 レドを買ったリズエッタが時おりレドの口に水を吸わせ喉を潤した。どろどろの粥のようなものはほのかに塩の味がして、まともな食事さえ出来なかった二年を思えばそんな粗末な食べ物でさえもどうしようもなく美味く思えたほどに。



 馬車に揺られる中、日が経てば経つほど身体は回復していきその度にその子へ対する興味は増していく。


 こいつは何がしたい?


 回復しつつある頭の中に浮かんでは消える疑問は溢れるばかりで、この先にはどんな苦痛が、恐怖が待ち構えているのか不安で胸を押しつぶしそうになった。しかしその一方で縋りついていいのではないかと、助けてくれるのではないかと期待さえしてしまう自分もいる自己嫌悪。


 期待するだけ無駄だというのに、それでも期待してしまうのは彼が生きていたいという証なのだ。


 知らない男に背負われ知らない場所に行き着くと、リズエッタはレドに甘い果実を与えレドが欲しいと望むままに何個も何個もそれを食べさせる。

 忠実であればそれで良いという言葉と、汚物まみれのレドの身体を綺麗に拭う姿に次第に警戒心は薄れていき、このまま流されるように生きていければ良いのではないかとレドは次第に絆されていった。


 レドの身体中の怪我が治り自由に動き回れようになった日、警戒心の塊である厳つい大人二人と興味津々だが威嚇をしてくる子供と対峙した。

 間に挟まれる彼女はニコニコ笑いながらもどうでも良さそうに、玩具を見つけたようにレドを見つめている。身体が治ったからかレドを構い倒す様子はなく、今までとの違いに少し寂しく思ったが致し方がないのかもしれない。


 レドは亜人だ。身体が健康体であればリズエッタほどの子供なら殺す事など、文字通り赤子の首を絞めるほどに簡単だ。

 レドを囲む四人の中で一番ひ弱な彼女を守る為に遠ざけられるのは仕方がない。


 扱いは変わらないのだと悲しく思っているとリズエッタはレドに容赦なく飛びついた。


 お腹の毛をもふもふと堪能し蕩けんばかりの目と顔で体中を撫でまわし、ついには警戒していた弟までも近くに呼び、二人の紅葉のような手がレドの身体を弄る。

 むず痒くどことなく気持ち良さも感じたが、下手に二人の子供に手を出してしまえば壊してしまうかもしれないという恐怖と、目の前で自分を睨みつける男二人への害意が無いことを示す為に両手を挙げた。



「むふふー! 君は私のものになったのだから存分に可愛がってやろう!」


 締まりのないデロデロの笑顔を見せられ頭を撫でられてしまえば、レドはこの犬扱いに身を投げた方が良いという事が分かる。

 下手に同等扱いして欲しいだとか従者扱いして欲しいだとかを願えば、リズエッタのこの蕩けた笑みを見ることはなくなってしまうだろうと。


 ならばいいではないか、犬でも。


 デロデロに甘やかされて、ドロドロになるまで依存しても犬なら問題ない。

 プライドも何もかも全て捨て去って、この幼子に捧げてしまえばもうあんな苦痛を味わうことはない、苦しむことはない。


 有難いことにレドを買ったのはリズエッタで、スヴェンでもヨハネスでもアルノーでもない。

 一番ひ弱な存在が自分の主人になるのならば失敗して痛めつけられる事があったとしても大した事はされないはずだ。

 庭に来て三日という短い時間でレドの身体は健康体に、いやそれ以上のものになったとはいえ、負った傷は深すぎた。


 体の傷は治っても心に負った傷はそうそう治る事はなく、いくらリズエッタの家族だとしても怖いものは怖い。


 リズエッタはレドを買った直後から面倒を見ていたし、好奇心の瞳を向ける事はあっても恐怖や軽蔑の視線を向ける事はなかった。

 それだからレドはリズエッタに懐いたと言ってもいいともいえる。


 あの日からレドは庭の中であれば自由に行動することも許されているし、魚以外であれば好きなものを食べてもいいとさえ許可がおりている。時おりヨハネスやアルノーのみがレドの元に訪れることもあるが、どうしても身体が拒絶してしまいリズエッタのように慣れる事は難しい。

 いくら頭で理解しても長年積み重ねられてきた人への恐怖に打ち勝つ事はたやすくない。彼らに慣れるにはまだまだ時間が掛かるだろう。


 ならば何故リズエッタだけ大丈夫なのかと疑問も出てくるが、それはレド自身が彼女に忠誠を示し、下僕でいることを望んだと言う点が大きい。


 衣食住を与えてくれる主人に従うのは当たり前、という気持ちも中には含まれいるが、リズエッタに従えば楽に暮らせると言うのが一番だろう。



 だがしかし主人を慕う気持ちはあるが、先日レドは大失敗を一つ犯してしまった。

 リズエッタが楽しそうに作っていたスープを任されたのに、そのスープを全て床にぶちまけるという失態だ。

 流石にリズエッタから罰を受けることも覚悟したが、彼女は怪我はないかと私も悪かったと謝るだけでレドとともに掃除をし、これと言って罰というものを下さない。


 流石にそれはどうかと思い、何か他のもので償う事は出来ないかと庭をレドは探索中である。とは言っても此処はリズエッタ望んだ庭で彼女が望んだ物しかないのだがレドはそれを知らないのだ。


 うまい具合にリズエッタが喜ぶものが見つかればいいなとレドは思っているが、大体は彼女が意識的に望んだもので、そうじゃないものもリズエッタの知り得るもの。彼女が驚くものなんて早々見つかる事はないだろう。


 しかしながらリズエッタが無意識に望んでいるもので、尚且つ彼女が知り得ないものも生える可能性もある。

 レドが見つけた”ソレ”は、後々のリズエッタの生活に多大なる変化をもたらすであった。



「まさかこんなんが生えてるとはな……」



 深緑の葉に毒々しい赤紫の斑点。

 心なしか土の下からギーギーと変な音が聞こえくる。レドは一瞬引き抜いてしまうか考えたが、自分の少しおかしな主人ならばこれを欲しがるかもしれないと考えた。

 ぐるりと辺りを見渡せばその草と同じものが一箇所に無数に生えており、周りにはそれを囲むようにエンジ色の草や藤色の花が咲き乱れている。


「……ありえねぇ」


 ただでさえ見つけるのが困難とされているそれらは繁茂する事はまずない。

 それなのにどうして?という疑問は全て一つの結論に至るのだが、それを知るのはリズエッタのみだ。


「とりあえず、お嬢に報告だ」


 喜んでくれるといいな、褒めてくれるといいなと尻尾を振るレドはもはや犬でしかない。


 犬は犬でも大型犬。


 主人大好きな、リズエッタが望んだ犬にレドは成り下がったのだ。




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