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リズエッタのチート飯  作者: 10期
スローライフと少女
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13 獣人と乾飯

 




 手持ちの水筒(とはいっても獣の胃で作ってあるものだが)に塩と砂糖を入れ、じゃかじゃか振りまわす。

 そうすれば簡易ポカリの完成だ。


 布に簡易ポカリを染み込ませ、荷台の中で横たわる獣人の口元にしゃぶらせる。こんなに弱っていたら普通に飲むこともできないだろうという私の配慮だ。


 体は毛皮で覆われているが痩せ細って見えるし、両手足の鎖がある場所は毛が禿げ肉が変色し血も出ている。頭の上にある耳も引きちぎられたような怪我があり、見ているだけで痛々しい。よく見れば手の向きがおかしいし、折れているのかもしれない。


 目に光のない彼に何度も何度もポカリを吸わせ、一息ついた頃には月が出ていた。

 今まで遠巻きで私を見ていたスヴェンはそろそろ宿へ戻れと私を外へ連れ出す。

 残念な事に宿の室内に異臭を放つ彼など入れられず、仕方なしに馬小屋を借りたのだ。


「あんな奴持って帰ってもおやっさんに叱られっぞ」


「お爺ちゃんはそんなことしませーん。ご飯で釣りまーす」


 祖父に叱られる可能性は捨てきれない。

 けれども祖父はご飯に釣られるというか、多分私の行動について文句は言わないだろうとふんでいる。

 神を信じているからか、私を信じているかは定かではないが、祖父は私がしたい事はさせてくれるだろう。


「今日の夕ご飯はどうするの? まっずいのは嫌なんだけど」


「……我慢しろ」


「無理」


 不味い飯を食べるくらいならば私は別の物を食べる。

 宿の女将さんからマグカップを借り、万が一のために持ってきた乾飯を取り出しそこに入れる。それは何だと言う顔をするスヴェンにお湯を出して欲しいとお願いすれば、長たらしく、恥ずかしい呪文を唱えマグカップには湯気の立つお湯が注がれた。


「んで、これは何だ?」


「米」


「コメ?」


 この国ではパンが主食だ。

 だがしかし! 庭では米がとれるのだ。毎日炊いて、卵かけご飯にし、チャーハンもどきにして、オムライスもどきにして、余ったら乾飯にする。

 勿体無い精神で作っては見たが食べる機会があまりなく、今回街まで行くのに試しに持ってきたのだ。

 ダンジョンへ向かう時も野宿し夕ご飯を用意しなくてはいけない事はあったが、そこはスヴェンに任せてパンとジャーキーを食べていたし、スヴェンからみれば初めての食べ物だろう。


 水で戻すと一時間ほど掛かるが、お湯ならそれより早い。

 これも決して美味しいものではないが、腐ったような肉と萎びた野菜を食べるよりマシだ。

 それでも流石に味がないのは嫌なので、小さく千切ったジャーキーを入れグルグル回しふやかす。

 ふやけたところでスプーンで掬い、パクリと口にすればジャーキーに染み込んだ醤油とニンニク、ハーブの味がスープになっていてそこそこ美味しい。


「そだ! 胡椒も入れよう!」


 小さな麻袋から出した細々にした胡椒を振りかけると、これまた食欲をそそるいい香りがし、ぐぅとスヴェンのお腹が鳴いた。


「食べたいならあげるから、マグカップ貸してもらってきなよ」


「嗚呼そうする」


 返事も半ばに部屋を出行き、戻ったスヴェンの手には私のマグカップより大きなものが握られている。

 セコイ事するねと笑いながら声をかけると大人だから食う量が違うと真面目に返された。


「火の精、水の精よ! 我に力を与え、ここに暖かな恵みをあらわしたまえ!」


 そんなこっぱずかしい呪文とともにマグカップにはお湯が満たされ、私はそこに乾飯とジャーキーを入れる。

 こんなおっさんが厨二病的な呪文を言うなんて誰が想像しただろうか。

 ある意味私は魔法が使えなくてよかったとも思う。

 スヴェンの分のもグルグルとスプーン混ぜあわせ、最後にちょびっとの胡椒を入れ少し時間をおけば、ハイ完成。


 馬小屋で寝ている彼にも乾飯を戻したやつを家に帰るまで与えよう。

 弱った胃にはちょうどいいだろう。


 二人でベッドの縁に腰をかけ会話もなく食べ続け、それでも物足りなかったらジャーキーやドライフルーツを食べる。

 余談だが、大量に持ってきたジャーキーは半分ほど売れ残っており私達が食べても問題ない。帰りにもダンジョンによって売ってから帰ろうと思っていだが、彼が死んでは元もないので真っ直ぐ帰路につくことになっている。

 家に帰るまでにいくばか回復してくれればいいのだが、今の状態では何とも言えないだろう。



 翌る日の日が昇りきっていない時間に私達は宿を出発し、家まで急いだ。

 ガタガタと揺れる荷台の中、衰弱しきっている彼にポカリを飲ませ、お湯で戻した乾飯を少しずつ口へ運ぶ。

 半開きになりゼェゼェと肩で息をする彼には申し訳ないが、なかば無理矢理口の中に突っ込んだと言っても過言じゃないだろう。

 咀嚼することもままならない彼にとってはドライフルーツを与える事は出来ないし、家に帰っても当分はおかゆの方が良さそうだ。


「リズ、ちょっと来い」


「なにー?」


 馬を操るスヴェンの真横に移動して何か用と聞くと、お前はアレをどうしたいんだと昨日から何度も言われている言葉を言う。スヴェンの目はどこか心配しているように見えるし、あらぬ疑いをされても困る。

 ここは正直に話した方がいいのだろうと判断した。


「街に一定量の塩とか卸すなら人数欲しいじゃん。だから回復すればいい労働力かと」


「回復しなかったらどうすんだ」


「それを今、”試してる”」


 庭で採れたコメと塩。砂糖に醤油に香辛料各種。

 それを使ったものを今の彼に飲み食いさせているのだ。怪我の具合は見た感じではかなり酷いが、それでも三日で完治するのか。はたまた完治せず多少治るくらいなのか。


「私、ポーションいらずなんでしょ? でもそれが保存食でなるかが分からないか実験中。 それと第一にモフモフしたいから生かしたい」


 助けたいではなく、生かしたい。

 自分で言うのも何だが何ともまあ、腐りきった性格だ事。


「お前、何つーかひでぇな」


 実験はねぇよと苦笑いするスヴェンに、自分を知る事は大事なのだよと返し、だから邪魔しないでねと釘をさす。


「労働力増えたら魚を捕まえて、養殖して川魚でだし汁つくるんだー! そしてベーコンもハムもいっぱい作って食を更にゆたかに!」



 私が目指す食文化は20世紀の日本。

 アルノーと祖父に美味しいものをたらふく食べさせて、幸せな人生を送るのが目標である。

 その為ならば非道行為もおこなってやるさ。



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