135 会議と決意。
前回に引き続き短めです。
くるりと溶けたあつあつチーズをパンに絡め、私はため息をついたのちにそれに食らいつく。熱々のチーズは濃厚で、少しひんやりとしたパンとの相性は抜群にもいい。
パンの他にもボイルした野菜やら海産やらの沢山の具材を用意して庭の住人達とやりたくもない第二回報酬会議を始めたわけだがどうも話は進まず、進むのは皆の食事だけである。
「──さて、どうしたものか……」
祖父の意見を取り入れ少しばかり他者と関わり持つと宣言はしたものの、こうして庭でぐうたら好き勝手できる現実を前にすればどうにも面倒臭い。ワガママは卒業しようとしたけれど、卒業したくない。
なんで私が赤の他人のために頑張らなくてはならないのかと、祖父の言葉があったからだと分かっていても不愉快極まりない思いである。
とは言ったものの、宣言してしまった以上『やーめた』は通用しないだろう。
「んーむ、面倒くさい」
「ならもうやめちまったらどうです?」
「それが可能だったらいいんだけどねぇ、そうはいかなくなっちゃったし……。それに土地をもらった以上コッチもどう動くか考えなきゃならないでしょう? こうなる前に考えをまとめていなかったからこの状態な訳で? うっかりしてたよ全く」
レドの言う通りやめてしまうのが一番簡単な手だ。だがそうするのは既に難しい。
アイツのことは一先ず置いておいたとしても、今後の方針をきちんと決めなければならないだろう。
試しに誰か新居地に行きたいものいるかと提案してみれば、ミランただ一人が手を上げるのみ。その他はキョロキョロとあたりを見渡して沈黙を保っている。
庭での生活が豊かすぎるせいで誰も外に行きたくないのだろう。そうならば仲間を探す云々言う前に自分は外に出ませんけど!と発言しておいてくれればいいものを、皆んな他人任せとは何とも御めでたい思考だ。
しかしこれならばミラン以外は私から強制的に人数を決めても問題ないだろう。嫌だと言うのならば亜人達でクジでもして決めればいい。
「んじゃ、ミラン以外は自主的に動こうとしないので、私が"仕事"を割り振りまーす。拒否権があるときは私抜きでそちら側で話し合ってねー。って事でアクアを含めたエルフの半数とドワーフ数名。全部で十人くらいでヨロシク」
「な、何故ですが御使い様!?」
「なんでって、そりゃあ見た目が"人間"だからだけど?」
私のことをニコニコとした笑顔で見つめていたエルフ衆はざわめき始め、ガニダは鋭い瞳で私を睨んでいる。
エルフに限っては厄介払いの意味もあるが、それだけで選んだわけではない。故に私もきちんと彼らに説明をした。
ただでさえ亜人は差別の対象となっているのに、そこに見た目からして亜人とわかる奴らを送ることはできない。エルフは耳を隠せば美人の集団に見えるし、ドワーフを知らない人間からすればガニダ達は背の低い人間とも思えなくはない。
もちろん家が完成次第私も一度そちらに赴き扉を繋げるし、帰ろうと思えば毎日帰れる。
特に不自由することはないだろう。
「ですが御使い様! 私達はフリーズドライの制作を任されているのですが!?」
「うん、だから氷魔法使えるグラスたちは置いてって。アクアは一応エルフ達のまとめ役でしょ? だからついていってもらわないと」
「私は御使い様の側にいたいです!」
「側にいてもそんなに役立たないでしょ。だから外でまとめ役してよ。その方が"私のため”になるけど? それに、なんで君に決定権があると思ってるの? なんで私がそっちの意見を聞かないといけないの? 立場わかってる? 一応念のために言ってくけど、楽して生きてるとは言え君らは私が"買ったもの"なの。だから私が指示をだするの、お分かり?」
「……じゃぁオラ達は何故選ばれた」
「だから見た目が第一だってば。それにガニダ達はやろうと思えばあの場所で新たな工場も作れるでしょ? 人数増え次第そっちはそっちで農業やらなんやらしてもらえば生きていけるし。そうするとやっぱりある程度技術ある人間がいた方がいいかと?」
「──お嬢。お主、少しは考えとったんか」
「いや、私だって少しは考えるよ。馬鹿じゃあるまいし」
まぁ今さっき考えついたことだけれども、言わなきゃバレないだろう。
それにドワーフを選んだ理由は述べた通りだから、エルフは厄介払いの意味で選んだし、欲をいうらならばその美貌でアイツを落としてくれればなとも思っている。これだけは絶対に言えないが、言う必要もない。
「ってなわけでメンバー厳選は任せるから。それと必要なものがあったら事前に報告してね、用意しとく。あと、領主さまには監視おかないでねって話しておいたけど実際そうはならなそうだし、万が一があったら攻撃許可するって話しておくからそこん時は安心してていいよ。さっきも言った通り君らは私のものなわけで他者に傷つけられるわけにはいかないし、されたらそれ相応は報復はしなきゃならないしねー」
「──報復するので?」
「え、するよ。やられたらやりかえすよ? じゃなきゃどこにこのストレスぶつければいいの?」
元を正せば全ての元凶は領主。もしくは国。
ならばそいつらがポカやらかしたときは盛大に潰しておかなければ私の鬱憤は今後晴れることないだろう。寧ろやられたままだ更なる要求がされるに違いない。
故に私は決意した。
国だろうがなんだろうが、私を害する人間は全て敵なのだと。
権力に屈すると言う事は、私の平穏は終わるということなのだと。
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