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リズエッタのチート飯  作者: 10期
王国と少女
163/164

134 大人の階段

久しぶり更新です。しかし短め?

 




「という訳で、王妃様と直に交渉した結果土地と小さなお家が貰えることになりました! 私凄く頑張ったよね、泣いていい?」


 こてんと首を傾げてため息をつくと、祖父はブルブルと震えて私を抱きしめてくれた。スヴェンからあらかじめどんな話し合いが行われたかは祖父に伝えられていたようだが、孫娘の口からありのままを話されるとそれはそれで気が滅入るものなのだろう。祖父も祖父で無事でよかったと涙声で私の頭を撫でている。それを見つめるスヴェンは私の無茶振りを思い出してほんの少し顔色を悪くさせていた。


「まさか王妃様がいらっしゃるとは……、だがリズエッタが無事ならそれで良い。それにしてもついにマヒア山の奪還が始まるのか──」

「まぁ何が始まろうと私はどうでもいいんだけど、奪還ってようは戦争でしょ? それになんでわざわざ王妃様が会いにきたのかね? 意味のわからないことも言われたし、メンドクサ」

「リズっ!」


 馬車に乗っていた時は殺されなくてよかったと思ったものだが、家に、庭に来てしまえは逃げられないことはないし殺される心配なんてものはなくなる。スヴェンは許さないだろうけれど、はっきり言ってもう逃げていいレベルなのではないだろうか。

 もう一度面倒くさいと呟いてレドに抱きつけば、レドはそのまま私を持ち上げて肩の上へと乗せる。おつかれさまでした、の声を聴くと全身の力が抜けたように私は全てをレドに預けた。


「……王妃様のことも面倒だけど、それよりどうにかしないといけない問題も残ってるしね。本当に厄介事ばかりで嫌になる」


 面倒事といえば例のヤツの件まだ何も解決していない。領主邸から帰ってくるや否やラルスは家の前で待ち構えているし、それを止めるスヴェンとも一悶着があった。どうにか家に入り庭まできたが、あっちに戻ってもアイツがいると思っておいた方がいいだろう。どうすれば私の元から去ってくれるのだろうと必死に頭を動かしたところで、私は逃げる事以外に考えが思いつかない。

 名案があれば誰でもいいから教えてほしいと小さくボヤくとそれを拾ったレドは殺っちまいましょうかと言うし、それに同意しようとすればスヴェンと祖父が必死に止める。

 孫娘の危機だとしても流石に殺すのは駄目だと考えれるくらい、祖父達はまだ優しい人間のようである。


「殺っちまうのは不味いが、いっその事ラルスをいいように使っちまうか?」

「──どうやって? 何を対価に差し出せと? 私は嫌だからね!?」

「なにもリズに何かさせるわけじゃねぇよ。ただラルスはお前と離れようとはしないだろう? だから逆にそれをいいように使えばいい」

「と言いますと?」

「ラルスを雇い入れる」

「だが断る!」


 いったい何とち狂った言っているのだと睨みつけてみれば、スヴェンはずっと目を細めてニヤリと微笑んだ。


「アレはどう足掻いたってお前の元から離れることはねぇだろうよ。どれだけリズが嫌がろうと俺たちが引き離そうと、アイツは絶対お前を諦めない。リズだってあの異常性を見てりゃわかんだろ? お前への執着心は異常でしかないと」

「だからって──!?」

「このまま家の前に居座らせるか? 仕事も何にもできなくなるぞ? だからこそアイツを俺が雇い入れて、狩場の管理を任せる。ある程度規約を定めたとしても、リズエッタと関わりがある仕事を選ぶだろうよ」

「……選ぶとは限らないじゃん」

「そこはお前の頑張り次第だな。何もせずにこのまま一生付き纏われるか、ある程度の対価を差し出して距離を置くのも手だ」


 ラルスに一生付き纏われるのは嫌だ。今すぐにでも逃げ出したいし、そのまま一生会いたくはない。だがしかし、私が死ぬまで会わないとも言い切れなくなっている。

 前は村がアイツを縛る鎖となっていると考えて行動できたが、今は縛るものはない。パーティを組んでいたとしてもあのパーティが一生続くとも限らないし、拠点が変わるとしてアイツがついていくとは思えない。

 つまりのところアイツに見つかってしまった時から、私は詰み状態なのだ。

 全てを投げ出して庭に引きこもるという手もあるが、そうなると死ぬまで祖父とアルノーの脛をかじるようになるし、何より私に自由がなくなってしまう。領主との取引の件もあり、スヴェンは私が庭に籠る事を良しとしないだろう。


「ング……、なんでこんなことにっ!」

「どっちみち土地をもらえば管理人は必要になるだろ。おやっさんを家から連れ出して管理してもらうにしても、亜人も全員移動させると見せかけなきゃなんねぇ。俺も商売してっからそっちに住む事は無理だ、いくら庭から移動できたとしてもそれがお偉いさん方ににバレる事になる方が怖い。いくら監視つけるなといっても、全くいないわけじゃないだろうしな」

「……確かにスヴェンの言うことも一理あるかもしれん」

「お祖父ちゃん!?」

「──よくお聞き、リズエッタ。わしはお前が家族を大切にしてる事をよく分かっておる。そしてその反面、他者に対して一線を引いていることも知っておったよ。でもな、リズエッタ。わしはこのままお前が何もかもを投げ捨てて庭に逃げていくのは違うと思うのだ。なに、彼奴に心を許せとは言わん婿をもらえとも言わん。ただ、誰かとの関わりを絶やしてほしくはないのじゃよ」

「──お祖父ちゃん」


 やはりというべきか、祖父は分かっていたのだろう。私が家族以外の人間なんてどうでも良いと思っていた事を。スヴェンは兎も角、カール達すら切り捨ててしまえる人間だと言う事を。


 言わずもがな私は家族が大切だ。

 だがそれ以上に私自身が大切なのだ。だからこそこんな状況になっていても、他者を切り捨てた方が楽だとしか考えられない。


 けれども、だけれども。

 いつも優しく私を見守る祖父が真剣な顔で声音でそう言うのならば、それを真っ向から否定する事はできやしない。

 私は家族が、祖父が大切だ。

 その祖父が可愛い孫娘である私の将来を心配してそう言うのであれば、私は自分本位に切り捨てる事はできなくなってしまう。


 故に私は、仕方なく、困ったように笑った。


「──交渉は、お祖父ちゃん達がしてくれるんだよね? 私、頑張っても月一で、それもほんのわずかな時間しかラルスと会いたくないよ?」

「任せておれ、なんとかしてみせよう」

「アイツのことか片づかねぇとその後の事が進まねぇからな。面倒ごとは一つずつ潰していってやる」



 かくして、私はワガママな子供を卒業せざるをえなくなったのである。


 まぁ、祖父の頼みだし、この街の人間くらい切り捨てないでいてやろう。今のところは。





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