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リズエッタのチート飯  作者: 10期
王国と少女
162/164

133 知らぬが仏

 




「大変申し訳ありませんが、私どもはお二人の仰っている事柄について理解していません。ですが一つの解釈違いがあるという事は確かなようです。私達に何かに対して"怒って"はいませんし、何もしていません。それに何より既に保存食を量産できるように働きかけています。ただ一つのお願いを聞いていただければ、の話ですが……」


 隣で酸欠の魚の如く口をパクパクさせるスヴェンの膝を叩いて落ち着かせ、私はさらに言葉を続けた。


「土地が欲しい、と行っても何処でも良いわけではなくスミェールーチに隣接している土地をくださいませ。手っ取り早く狩りをして働き手の人数を増やしますので! それで万事解決です!」


 デデンと効果音が尽きそうな勝ち誇った笑みを領主達へ向けると、二人は私の方に目を向けて考える素振りをする。

 高貴なお方は口元を扇子でさらに隠して少し悩み、そして領主の方を見て頷いた。


「貴公らが関与してないとなぜ言い切れる? それに働き手が欲しいのならばこちらで手配できるが、何故土地なのだ?」

「私たちみたいな平民がどうやってお貴族様に"何か"できるのです? 身分関係なく何かをできるのは神様くらいだと思いますよ? それに土地が欲しいのはより多くの亜人を手に入れる為、私好みの亜人を手に入れる為です。捕まえても使用するのに治療から始めるのとか、面倒じゃないですか。だからこそこちらで無傷な状態で入手してさっさと量産体制を整えた方が良いかと。じゃないと今の人数では無理なのです。量産できません。なので土地ください!」


 私は断りませんけど、そっちの出方次第では量産不可能ですとオブラートに包んで発言してみれば領主は悩む素振りを見せ、隣のスヴェンはさらに顔を青くした。


 残念だなスヴェン、私にはこの高貴なお方とやらが何処まで高貴な人間か理解しきれていない。スヴェンが話せないのならば私が話すしかないのだよ。

 私を黙らせたいならスヴェンが交渉すればいいだけなのだから、さっさと開き直ればいいものを。


 さぁどうしましょうかとにっこりと笑っていると、扇子を口元から離した高貴なお方が私はとそれだけなのかと尋ねてきた。


「土地を授ける、只それだけで貴方は(わたくし)達を許してくださるのかしら?」

「許すも何も、私たちは何かをした記憶もございません。故にそれだけが望みだと言えます。──まぁ、もしよろしければ増やした保存食の使用用途もお聞きしたいのですが、無理ですよね?」


 今なら何故量を増やせと命令されたのか聞いても教えてくれるのではと眉を下げてお願いしてみると、そのお方は一息ついてまだ答えられるものは少ないですがと言葉を続ける。

 どうやらこれは政治的な、国際問題的なものが関わっているようだった。


「15年前にアスレーデに奪われたマヒア山の奪還を、国は決めてしまったのです。この動きには貴方方が産み出す食料が勝敗を決めるだろうと云われています。故に兵を守る為にも必要となったのです」

「──まさか、そんなことが?」


 ようやく言葉を発したスヴェンは前のめりでそのお方の話に耳を傾けるが、正直私に理解できる内容ではなかった。

 15年前といえば私は生まれていないし、アスレーデとやらが何かも分かっちゃいない。多分隣国か何かの名前なのだろうと察することはできるが、それに保存食が必要というのは納得できないのだ。


「……兵を守るためって事は、争いが起きるのですか?」

「──左様。貴公らが産み出すものは回復効果がある事が判明されている。それらを使えば犠牲も最小限にすむだろう」


 そう言葉にした領主の顔は悪びれている様子などなくて、それが当たり前のような気にすることがないような、至って普通の顔に見えた。


「マヒア山が奪還できれば我が国は更なる発展を遂げるだろう。その為には貴公らの力が必要だといえる」

「それは、なんとも光栄な事です。喜んでご協力いたしましょう!」

「スヴェンさん!?」


 先程まで青くなって黙っていたスヴェンはいきなり興奮気味に声を荒げ、私はその代わりように唖然とする。

 あのやり取りにそこまでさせる意味合いがあったのだろうか?

 全くもってわからない。


 勝手に決めないでよと耳打ちすると、スヴェンはこれは誰もが望んでいる事だと私に言い聞かせるように語った。

 なんでもマヒア山は元はこの国の領地だったとか、それを無理矢理奪われたとか。そこで私の父親は死んだとかなんとか。

 そんな事語られた所で私の心は靡く事なく、ただまた面倒事が起こった程度にしか思わない。


 それにスヴェンはこの前、人の命をもっと考えろと言ってなかったか?

 それなのに戦争を仕掛ける話に賛成するなんて理解できない。私が逃げて誰かが死ぬのは良くなくて、国のために多数が死ぬのはいい事なの?

 さっぱり分からない。


 云々と頭を悩ませる私の隣でスヴェンと領主が話を進め、高貴なお方は私を観察しつつもお茶を飲んでいる。

 置いてけぼりは私だけのようで、なんとも虚しい物だ。


「リズエッタさん、と仰ったかしら?」

「はい、そうですが……」


 その人が私は声をかけると、スヴェン達の話し声がぴたりと止まりこちらを伺っている。話しかけられたのが私だから会話に入ってくる気はないらしい。


「貴女方の望みは(わたくし)の名に誓って叶えましょう。ですが流石に土地だけを渡すわけにはいきません」

「えーと、特に土地を治めたい訳ではないのですが……」

「ならばガリレオの持つ領地の一部を貸し出す形に致しましょう。その貸出料として食料を納めていただいても宜しくて?」

「それで結構です。あ、あと可能であれば見張り等の人の配置はやめてください。自分たちで狩る予定ですが、人に見られるのは好きではありません。たとえ領主様の配下の人間でも監視されるのはいい気はしません」

「────貴女方を守る為だとしても?」

「その人間が私を守るとは限りませんからね。私の支配下にいない者は信用できかねます」


 ゴホンとわざとらしい領主の咳払いが聞こえてそちらに視線を向けると、また顔を青くしたスヴェンがそこにいる。

 どうやら言葉を間違えたようだ。


「えっと、申し訳ありません?」

「いえ、いいのですよ。そこまで正直に話していただけた方が此方も心配事が少なくてすみます」


 そのお方はベールの下でクスリと笑い、私の望みは出来るだけ叶えると約束してくれた。

 つい先程まで私を観察していた視線もどこか柔らかみを帯びていて、なんとなく居心地も良くなった気がする。


 それからそのお方は席を外し、スヴェンと領主が私抜きで淡々と話を進めていく。少々面倒だなと思う事はあったが、それなりに話がまとまったのならば良い事だろう。


 亜人狩りに適した土地を借りる事、借りている間の代金が、増やした保存食の納品で相殺される事。狩った亜人の所有権は全て私になる事。

 またそれに伴って私達が使えるような家を領主名義で建ててくれる事等が決まり、家が出来次第徐々に納品を増やすように取引内容が改変された。

 領主は家ではなく屋敷を準備しようとしたのだが私達には維持できない事と、使用人を付属品のようにつけてもらっても困るので断った次第である。


 ここに来た時は顔を青白くしていたスヴェンは帰る頃には逆に興奮で顔を熱らせており、帰りの馬車ではずっとこれは凄い事だとか、名誉な事だと意気込んでいた。

 私といえば逆にあそこに居た人間がどんなお方か知る事となり、魂が抜けるような気持ちになっていた。


 濃紺の軍服を纏った人たちは王室近衛兵とされているエリート騎士達で、私が何も考えずに知りもせず話しかけていたのは王妃様。

 つまりはこの国のど偉いお方。


「──ワタシ、ヨク殺サレナカッタナ」


 なんて声を震わせてみると、スヴェンは私に厳しい目を向けるだけであった。

 察してたなら、教えて欲しかったな。うん。





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[一言] 時々読み返してはず〜〜〜っと更新されるのをお待ちしています!
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