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リズエッタのチート飯  作者: 10期
王国と少女
143/164

116-1 生刺しで!

 



 あれから二、三日、エルフ達からの報告はない。

 何度か庭に顔を出してみたが、いつもハイエナのように私の気配を察知し現れるアクアでさえも私に近寄りもせず、目と目が合うとニッコリと笑って後ずさっていく。

 その行動にうっかりニヤリと笑ってしまったものだ。


 なんて素晴らしいフリーズドライ効果だろうか!

 完成するまで是非とも私を避けて頂きたい!と、そう思わずにはいられない。



 庭で与えられているストレスがないせいか、普段以上に青空が綺麗に見えて清々しい。

 豆やタコで硬くなったアルノーの手を握り、私は今日も二人で、否、四人で市場に繰り出した。


 前を歩くのが私とアルノーで、後方がスヴェンとダリウス。

 スヴェンはやや引きつった笑顔をしているがダリウスの笑みはなんとも晴れやかに見えた。予測だが、スヴェンと商売について話すのが楽しくて仕方ないのだろう。


 後方の二人をよそに私はよく行くお店へと顔を出す。そこの女将さんは時たま私が大量に魚を買うと、おまけをつけてくれる良人なのだ。

 新鮮な海産物と良い女将さん、そしておまけ付き。

 ここで買わずに何処で買う。


「女将さーん、今日のおすすめは? もしくは大量に取れたものとかあります?」

「アラいらっしゃい! 今日は大量にルクラーがあるさね。 そっちのみないにぃさんは嬢ちゃんの"コレ"かい?」

「いやいや女将さん! このカッコいい子は弟ですよー! リッターオルデンに通ってる優秀な弟なんですよー! 私の宝ですぅ!」

「おや、その子が噂の弟だったんかい! よく見れば似てるねぇ」


 なんて日常会話ん交わしつつ、お勧めされたルクラーとやらに目を向ける。

 樽の中でまだ動いているソレは大人掌二つ分ほどの大きさの甲殻類のようで、色も見た目は蟹そのもの。違いを見つけることの方が難しいだろう。

 だとすれば新鮮なうちに蟹刺しにしても良いかもしれない。

 アルノーが学院に戻ってしまえば刺身なんて食べられないだろうし。


 でもそれだけでは物足りない。

 蟹炒飯や蟹クリームコロッケ、蟹クリームパスタなんてもの捨てがたい。ならばいっそのこと今日のご飯は蟹ざんまいに決まりだな。


「女将さーん! 今日はルクラーください! あるだけ全部!」

「全部? 全部だと樽五個分になっけどいいさね?」

「オーケー! 問題ないです! 荷物持ちがいるので!」


 いつもながらの大量買いに女将さんは驚きながらも、私が後方を指差すと納得はしたようにまいどありとにっこりと笑う。

 勿論荷物持ちはアルノーではなくスヴェンだ。

 ほんのちょびっとアルノーにも手伝ってもらうかもしれないが、基本は大人のスヴェンメインで。



 会計を済ませると約五匹入っている樽を三樽樽スヴェンへと渡し、残りふた樽をアルノーとダリウスが一樽ずつ抱える。

 流石にダリウスに手伝ってもらう訳にはと断りはしたのだが、運ぶ手伝いをするかわりに作ったご飯を食べたいと目を潤ませてお願いされてしまったのである。

 アルノーはにっこりと笑いながらも冷めた目でダリウスを見つめていたが、それに負けじとアルノーと私に頭を下げたダリウスは中々の強者のように思えた。

 最終的にアルノーはぶすくれながらも折れ、ダリウスにも運んでもらうことに決まった。





 その後は蟹が傷むのを避ける為どこへも寄らずに家へと帰り、男衆の力を借りて調理開始だ!


 まず初めに購入者特典と言い切り蟹刺しを作ることにした。

 ドアを挟んだ至近距離の庭へ蟹刺しを届けてもいいのだが、ダリウスがいる以上変に見られる行動は避けておきたい。


 万が一、アルノーの友人に見られる訳にはいかないのだ。


 今や身内になった筋肉ダルマ三人衆はともかく、私と関わりが薄い人間に感づかれるのはまずい。

 それにダリウスは商家の出身だ。この庭の存在がバレるのは非常にまずいのである。

 故に庭の住人には他の蟹料理で我慢していただこう。


「それじゃ、やりますか! とりあえずアルノーは氷水作っておいて!」

「んー! 了解!」


 さてとと一息ついて一番大きなテーブルに蟹を取り出し、胴体と足を分けて行く。そして足の裏側と言われ白っぽい方の殻を削ぎ、削いだ根元の部分の殻を身を切らぬように気をつけながら切り落とす。切り落としてない方の殻を掴みそっと引っ張って殻から身を剥がし赤い皮膜を取り除き、アルノーが用意した氷水へといれる。

 氷水へつける事で花が咲くように脚の繊維が

 広がり、身が引き締まってしゃきっとなるのだ。

 一樽分の蟹の足を三人の手を借りて下処理し、三、四分つけたら水気を拭き取ればあっという間に蟹刺しの完成である。


 早速食べようと手を伸ばしたスヴェンの手を叩きおとし、まだ食べるなと目をきらめかせる三人に言い聞かせ、棚から醤油を、保冷庫から山葵を取り出す。

 山葵は勿論庭産でたまぁに私が食べる刺身とか、お茶漬けように常備してあるものだ。


 小皿に醤油を垂らし、まずは醤油だけつけて一口。

 プリプリとした食感に濃い甘味。

 ボイルした蟹刺しと違う生ならではの食感の素晴らしい事。醤油と塩気が加わり、甘さと塩辛さの割合が旨味をます。

 新鮮だからこそできる生の蟹刺しの美味いこと。


「うっまーい! いやぁルクラー買って正解だったわ! ささ、三人もどうぞ、お醤油山葵はお好みで」


 まずは味見と一足先に食べた私を恨めしそうに見ていた三人はゴクリと喉を鳴らし、そして蟹刺しをパクリと頬張った。


「うっま!」


 キラキラと目を輝かせたアルノーはニコニコしながら無言で食べ続け、スヴェンは食べ進めたのちに山葵付きが自分には合っていると山葵を消費し始めた。


 そしてダリウスは一人、蟹刺しのうまさに感激しながらも小皿からジッと目を離さない。


 そこにあるのは私達はよく知る醤油と山葵。

 だがその醤油そのものを知っているのはここにいる三人しかいない。

 山葵は探せば何処かに生えているかも知れないが、今のところ市場で見た事はない。

 故にダリウスにはこの小皿の上にあるものに興味がないわけがない。むしろ興味しかないのだろう。


 チラチラとこちらを見ながら蟹刺しを頬張り頬を緩ませ、それでもまたキリっと眉に力を入れて小皿を見る。

 中々面白いその行動に私もニンマリと笑い、パクリと一本蟹の足を咥えて素知らぬ顔で次の料理にとりかかった。




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[一言] お待ちしておりました! 更新ありがとうございます! 毎日まだかな〜いつかな〜って覗いてました これからも体に気をつけて頑張ってください!
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