115 新たな試み
久々の更新で、短めです。
「できない? でもそんなの知らん! 取り敢えず頑張って!」
そう言ってから気づく。
これではまるでブラック会社ではないかと。
グラスと名乗る青年とその他数名のエルフが氷魔法が使えると発覚し、次に私が作ることにしたのはいつでも食べられるフリーズドライだ。
私の中ではどうやって作られているか理解していた故に作り出すのは簡単だと思っていたが、どうやらこの世界ではなかなか難しいものだったらしい。
フリーズドライと呼ばれる食べ物は、調理済みのものかもしくはフルーツ等を凍らせ、真空状態で乾燥したもの食べ物の名称だ。
ただ凍らせで乾燥させただけではフリーズドライになるわけもなく"真空"にする事が要と言える。
だかしかし、その"真空"に問題があったのである。
「シンクウ? とは一体どんなものなのでしょうか?」
「真空は真空だよ。空気も水分もない、無の空間の事。理解できる?」
馬鹿にしたわけではないがそう彼らに問いかけると、眉間にシワを寄せて云々と唸るだけ。
知識のあった私にはイメージできるものだが空気という概念はもとより、空気中に水分が散漫しているなんて考えたことのない世界の住人に無の空間を作れと言っても無理なものだったのだ。
そこで私は普段ジャムを詰めている瓶を使って目で見てわかる説明を試みた。
「今この瓶の中は何も入ってない状態だと思う?」
「はい、その中には何も入っていませんが……。それがシンクウですか?」
「いいや違う。この中には空気が入っていてそこには目には見えない水分があるんだよ。わかりやすいように瓶の中に煙を入れてみるけど、蓋を閉めてもそこに煙が残るのが見てわかるよね? 手っ取り早くいうと真空ってのは蓋がしまっているこの空間からこの煙を抜き出すって事だよ、簡単に言えばだけどね」
と言っては見たもののはこの説明があっているかは私だってわからない。
だって私、専門家じゃないし。
それでもなんとなくやってみるしかない。
頭にはてなを浮かべるエルフをよそに、私はさらに言葉を続ける。
「この瓶の中には今は空気しか入ってないけど、フリーズドライはここに凍らせた食べ物を入れて、そして瓶の中の空気とその食べ物の中の水分を全部抜いて乾燥させた食べ物になるんだよ。で、その方法で作った食べ物は極限なまで水分が抜けてるからそうは傷まないし、軽い。調理済みものを凍らせて水分を抜いてるから、たべるときはお湯を加えれば普段食べてるものと変わらないものが出来上がるって事。なんとなくわかるかな?」
「……なんとなく理解はしましたが、どうやって瓶の中からクウキとやらを抜くのでしょうか?」
「え? 知らん。そこを考えて実験して作るのが君らの仕事なんだけど?」
そこをなんと魔法でなんとかするのが君たちの役割なんだけどとにっこりと笑ってみせると、グラスはピタリと動きを止めた。そして数人いたエルフ達もなにやら目をキョロキョロとさせ口をパクパクと奇怪な行動をしているではないか。
「"御使い様"である私のお役に立ってくれるんだろう? 氷魔法使えるのはエルフ達しかいないし、いやぁ助かるよ! 本当に!」
「えっ? ちょっとお待ち下さい御使い様!? たしかに氷魔法は使えますが、その様な事がたやすく出来るわけでもーー」
「あれだけレドに喧嘩売ってるくらいだもんね? 自分たちの方が私にふさわしいって。ならそれくらいやってみせてくれるよね? レドは私のために今までもこれからも尽くしてくれるみたいだけど、君たちはそこまでできない感じ?」
「うっーー。ですがこれまでしたことのない試みなど……!」
「できない? でもそんなの知らん! 取り敢えず頑張って! 失敗を恐れたら何も生まれないし、歴史は築かれない! 立派な君たちエルフ達の手で歴史になをきざもうではナイカー!」
レドを引き合いに出し笑ってみせ、グラスの手を取る。
顔が青くなったり赤くなったりと点滅の様になっているが精々頑張って欲しいものだ。
もしフリーズドライが出来るとなるとアルノーにより多くの美味しい保存食が渡せるし、私にとってはプラス。できなかったとしてもマイナスにはならない。
レドとは少々違う役割だがそれなりの成果を上げてくれるのならば"御使い様"呼びも認めてやってもいい。
「君たちがこれから出す成果が、今後のエルフ達の評価だね! じゃあ頑張ってネ!」
出来ることならフリーズドライを完成させて欲しい。
そして完成するまで私にベタベタしないで欲しい!
できないときは早めに報告してほしいものだが、レドを目の敵にしている以上そう簡単に諦めはしないであろう。
アクアや他のエルフと手を取り合って精々私のために頑張ってくれたまえ。
高笑いする私の後ろで焦りながらアクアの名を呼ぶグラスやその他諸々の事など考えず、私は一人今日の夕ご飯について考えるのであった。