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リズエッタのチート飯  作者: 10期
都会と少女
133/164

閑話13 手紙

 






 《愛しのアルノーへ

 元気そうでなりよりです!

 私もおじいちゃんも元気が有り余るぐらい元気にしてるので、こっちのことは気にせずに勉強に励んでね!


 そして氷の精霊とついに出会うことができたんだね!おめでとう!家に帰ってきた暁には美味しい氷のお菓子でも作ろうか?

 きっと今まで以上に美味しくて冷たいおやつができると断言しておくよ!


 家といえば私もハウシュタットのはずれに住んでるので、もし何かあったらそっちへ連絡ください。

 ニコラ・エリボリスさんの家付近のリズエッタ、と言えば大体の人は分かってくれるから!


 アルノーに会えない間こっちでも色々あったから、学院が休みになったらいっぱい話そう。ご馳走もたくさん用意しとく!

 もしお友達のダリウス君さえ良ければうちに連れてきてもいいから、学院生活のこと色々聞かせてほしいな。

 あと、お友達記念にいっぱい保存食を送ります!二人で仲良く分けて食べること、いいね?


 手紙だとあんまりたくさん話せないから、次に会えるのを楽しみにしてます!

 大好きだよ!


 アルノー大好きリズエッタより》







 アルノーが門番から渡された荷物にひっそりと挟み込まれた手紙には、姉から弟へ向けた愛情だけが綴られていた。

 愛しの、から始まり大好きで終わる、家族愛にあふれた手紙。

 それを読んだアルノーは自室でにっこりと笑い、同時にそれを読んでいた友人ダリウスの顔は引きつっていた。


 彼にも兄弟はいるが、こんな濃い内容の手紙は書いたことも貰ったこともない。

 手紙として送りはするが近状報告といった簡易的なもので、数行で終わるのが彼の当たり前。

 それなのにこんな手紙を見せつけられてみれば、自身が思っていた以上にアルノーとリズエッタ、その二人の絆は強いように思えた。


「ーーなんかアレだな。思ってた"リズエッタ"と違う」

「そう? これがいつものリズだよ?」


 ダリウスが思い描いていたリズエッタは当初のアルノーを模した丁寧で腰が低く、礼儀正しく勤勉な姉だった。

 それはアルノーが年の割に礼儀正しく誰にでも低姿勢だった事と、それを躾けたのが姉だと聞いていたせいだ。だと言うのに蓋を開けてみれば想像もできなかった一面が分かり、弟はそれが普通だと言い切ったのである。



 なんとなく腑に落ちない気持ちを隠しながら、次に目が行くのはアルノーへ届けられた大きな籠。

 そこに何が入っているか、ダリウスは期待でいっぱいだった。



 初めてそれを食べたのは二ヶ月程前の課外授業のこと。

 パートナーを組んで山に登り誰の手も借りず数日過ごすという授業のなか、アルノーは配られた食料を口にすることがなかった。

 いや、正直に話せば配られた食料は誰かに奪われ捨てられ、口にすることができなかったというのが正しいだろう。


 その時アルノーと組んでいたダリウスは少ない食料を分けて乗り切ろうと考えたがアルノーはそれを断り、野営の準備が済むと山の奥へと駆けていく。そして戻ってきたときには小ぶりな獣を抱えていた。


 それは学院に来る前まで山で狩りをしていたアルノーには容易いことで、商人の子であるダリウスには不得意な事。

 そんな事を当たり前のように行い、小さな鞄から小瓶と包みを取り出し黙々と調理を始めた。


 アルノーは見たことのない白い粒と干し肉をお湯に入れそのまま放置し、狩ってきた獲物をさばいて串に刺し小瓶の中身を振りかけて焼いていく。

 肉を焼いてる間に小包の中にあった棒状の何かを食べ始めた。


「ーーアルノー、それ何?」

「ん?ご飯」


 さも当たり前のようにそれを口にするアルノーにダリウスは興味津々で、手持ちの食料の一部とそれを交換してくれないかと取引をしたがアルノーに真顔で拒絶された。

 それでも諦めないのが商人の息子。

 食料半分を犠牲にそれを手に入れることができたのだ。


 見た目はきのみが固められたような硬い棒。しかし匂いは甘く、ベタつく。

 ゴクリと唾を飲み一口食べてみればその濃厚な甘さに涎が溢れた。


 美味い。


 そんな言葉で言い表せない味と食感。

 家庭柄今まで様々なものを食す機会があったがこんなもの食べたことがなかった。


「これ何!? どこで売ってんの!?」

「……売りもんじゃないよ、リズが作ったものだから。もうあげないからね!」


 必死にカバンを抱えるアルノーにもう一つとは流石言えなかったが、目の先には先ほど作り置きしていた不思議なものもある。

 そっちを一口と必死に拝み倒して分けてもらえば、それも知らない美味い料理がそこにあった。

 ただ焼いただけの肉と思っていたそれも中々買うことのできない胡椒やハーブが使われており、とにかく美味い。

 あり合わせで作ったとは思えない料理がそこに存在していた。










 その日からダリウスの口内はただ美味い飯を求めるようになってしまった。

 今まで美味しいと思っていた院の料理では満足できない、物足りない。

 またアレが食べたい。


 そう思いアルノーへ拝み倒した。

 たとえ答えがいつも拒否だとしても、拝まずにはいられなかったのだ。

 それだけ思いは強かったのだ。



 そしてついにその日は訪れた。


 "友達だし、リズにお願いしてみる"


 はにかみながら照れながら、アルノーはそういい、姉へと手紙を書き、返信と共にやってきたのは大きな籠。

 被された布をとればそこには憧れていたヌガーを始めジャーキーやベーコン、ドライフルーツがぎっしりと入っているではないか!


「半分はもらっていいんだよな! 仲良くわけろって書いてあったし! な!」

「嫌に決まってるでしょ? 仲良く分けるけど半々とは限らないんだよダリウス。 貰えるだけありがたいと思って欲しいんだけど」


 アルノーの売り物じゃないんだよとダリウスを諭すような声音にぐっと気持ちを堪えて、渋々と頷く。


 貰えるだけでありがたい。

 そう思わなければーー。


「じゃあこれがダリウスの取り分! 大事に食べてね!」

「っ嗚呼勿論!」


 ようやく手に入れられたそれを大事に抱え込み、ダリウスはだらしなく頬を緩めた。






 ダリウスは知らなかった。


 それがどんな価値を持っているかを。

 それを手に入れたいのに、手に入らない者が多い事を。


 手に入れるため名のある商人や貴族がこぞってとある貴族に媚を売っている事を、ダリウスは知らなかったのである。




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