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リズエッタのチート飯  作者: 10期
都会と少女
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「アウロラさーん、ハイ次これねー!」

「あぅ! 了解さぁ!」


 まるで姑のようにアウロラをこき使う私。

 側から見たら虐めになっていないか心配だ。




 アウロラがギルドの厨房で働き始め早二週間、最初は戸惑っていたものの今じゃちびっ子孤児よりはまともに仕事が出来るまでに育った。

 流石狩人の娘と言うべきか肉を捌く手際が良く、今じゃ殆どの肉を彼女一人で捌いている。


 まぁ少々鈍くさくもあるか、悪くはない人材だ。


 それにホアンのおかげで定期的に美味しい肉が手に入るようになってからは魚に偏っていたメニューが幾らか改善され、三日に一度は肉料理が出せるようになってきた。

 ウーゴを中心とした男性職員はやはり肉を求めるのか二日に一度の肉料理を目指し時折ホアンと共に狩りに出向く者もいて、ギルド内の食堂だと言うのに材料はいつでも潤っている。


 そんな状態が有難い反面、面倒な事が増えたのもまた事実であった。


 そりゃ毎日毎日ギルドで調理をしていれば匂いは室内だけではなく外へと流れていく訳で、それを気にする人間が多数いた。

 旅人や商人なんかはうっかり食堂と間違えてギルドの扉を叩き、街の人ももしかしたらと淡い期待の元ギルドを訪れるものが増加、その為ギルド看板に新しく食堂ではありませんと注意書きがされたほどだ。

 中には私本人に新しい食堂を作っては如何だろうかと提案する者もいて、それも面倒でもあった。


 私としてはスヴェンに任せた商売でがっつり稼いでいるし、ギルド内の食堂でお小遣いも確保している。


 故にこれ以上の労働はしたくない。


 金があって困ることはないが、仕事のし過ぎなんて私の性に合わないのだ。


「リズエッタちゃん、終わったよ!」

「じゃあ次ー、野菜を炒めましょ」


 一人のほほんとそんな思考をしていると、下準備をし終えたアウロラが私の隣に立つ。

 手にはメモ紙を持ち、レシピを書き写す支度もできていた。

 孤児たちとは違い彼女は既に読み書きをマスターしている為、私がいない時用にとレシピを覚えている最中なのだ。


 最初ウェダはレシピを残して大丈夫なのかと心配していたが、レシピが外に流通しようと醤油や味噌、その他調味料が手に入らない限り私と同じ料理は作れない。そう答えてあげれば納得したように自身もメモとり、いつかの為とレシピ集を作っているようである。


「今日は酢豚定食です! なので大鍋に油を入れて、切った野菜を炒めていきましょう!」


 アウロラが下準備した玉ねぎと人参を大鍋で炒め、しんなりしたら酢豚のタレを投入する。

 タレはトマトケチャップと酢と醤油、砂糖と塩胡椒、片栗粉を水で溶かしたもので甘酸っぱい仕様にしてみた。ケチャップを使わないレシピもあるのだが、私はお子様味の酢豚が好きなので断然ケチャップ派である。

 それに私が作らない限りケチャップ以外の味を知る者はいないので、お子様風味だろうか何だろうが気にしない。


 アウロラが野菜を炒めているうちに私は主役の肉に下味つけ、片栗粉をまぶしたら油で揚げる。

 肉の塊が無い時はバラ肉に味付けをして丸めて揚げるが、今回はブロック肉を使用。

 大の大人と男が多いのだ、食べ応えがある方が好まれるのだ。


 あとは炒めた野菜に肉とピーマンを加えて炒めれば、酢豚の完成だ。

 本日の付け合わせは卵スープのみだが、酢豚がボリュームあるので問題はないだろう。



 時間もまだ早かったのでみんなに配る前に先に食べてしまおうと席に着き、手を合わせていただきますと合唱。

 一口大に切った分厚い肉にはふりとかぶりつけば、肉本来の旨味とケチャップの酸味が混じり合って旨味倍増。シャキシャキな玉ねぎも甘みがありいい食感で、次から次へとご飯が進む。


 ちびっ子達が美味しいねぇと私に笑いかければそうだねと頷き、当たり前になりつつあるの美味しいご飯にご満悦のようだ。



「ーーリズエッタちゃんは、なんでも作れてすごいねぇ」


 不意にそう言葉を漏らしたのアウロラだった。

 フォークで肉をさしながらもしみじみと白飯を眺め、そして小さくため息をつく。

 その自信なさげな様子に私は一度箸を置き、アウロラを見つめた。


「別に私は凄くもなんとも無いよ。ただ知識があって使える調味料を手に入れられただけ。本当にすごいのはこれを生み出した人間と、料理を作り出した人間だよ。作れる人間じゃない。それに料理に失敗しても投げやりにならない人がいたからこそ、美味しい料理があるんだと思うし、作ることしかできない私は凄くない」


 かつての私はどうしようもないメシマズだった。

 焼くと丸焦げ、煮ても丸焦げ。

 鍋やフライパンを何個もダメにして、挙げ句の果てに行き着いたのはコンビニかスーパーのお惣菜。

 それでさえもレンチンし過ぎて悲惨な状態になった事もあった。

 最終的に私は料理を作ることすら諦め、投げ出したのだ。


 そんな事を体験したからは今は逆に美味しいご飯が作れるのが楽しくて嬉しくて、思うがまま頭の中のレシピを再現しているだけにすぎない。新しいものを何一つ生み出ししていない私はちっとも凄くなんてないのだ。


「私を凄いと思うのは勝手だけど、アウロラさんだってそのうちいろんな料理を作れるようになるよ。そしたらアウロラさんは自分が凄いって思うの?」

「……多分思わねぇ」

「でしょ? 結局作れるだけの人間は凄くもなんともないんだよ。むしろ此処から出る匂いだけで料理を再現しようとしてる街の人の方が凄いと私は思うね!」


 食べた事ない料理を、匂いだけを頼って再現する。

 そんな事をしている人の方がずっと凄い。


 追求心があるからこそ新しい何かが生まれるだろうし、探究心があるからこそより一層奥深い何かが生まれるのだ。


 ただ立ち止まりそこにあるものをただ同じように作り出す人間なんかよりももっと、成長し先に進める。



「まぁあれだね。私もアウロラさんもまだ若いんだし、まだまだ成長途中だよ。 人生は死ぬまで勉強だからねぇ!」



 だから悲観するのはまだ早い。

 必死に料理を覚え、頑張っていただきたい限りだ。



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