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リズエッタのチート飯  作者: 10期
都会と少女
128/164

105

 





「ウーゴさん、おはようございます! 今日はなんかすいませんね!」

「いや、飯を作ってもらってんのはこっちだ。買い出しくらい手伝わせてくれや」


 若干照れたように笑うウーゴは今日は非番の日。だと言うのに私の買い出しを手伝ってくれると申し出てくれたのである。

 大人が買い出しを手伝ってくれるとなれば孤児に米炊きを任せられるし、時間と手間の短縮にもなる。毎度毎度セシル達を手伝いに呼べないので、荷物持ちになってもらえるのは本当に有難い限りだ。


「今日は何を作る気だ? 肉か? 魚か?」

「そうですねぇ、ちょい肉でスープでもつけましょうか。 孤児はともかくギルドの皆さんには些か量が足りてないみたいなんで」



 そうとだけ言ってとりあえず先に野菜を買おうと八百屋に向かい、私は見知った野菜を手に取っていく。

 トマトに似たオレンジ色のトーチェに葉が黄色みかかっているレタスに似たレチュ、少々毒毒しい赤紫色をしたキャベツ似のコール。


 私が今日作る予定なのはタコライスだ。

 それとソーセージを入れたコールのスープを予定している。

 孤児を入れるとそれなりの人数になるので、野菜の使用量も半端なく多く、今日はウーゴがいるから荷物持ちには困らないが、普段は運ぶのでさえ重労働である。


 八百屋の次に向かったのは私の嫌いな肉屋。

 なんで嫌いかはお察しの通り、不味い肉しか置いていないからである。

 冒険者達が取ってくる肉は血抜きなんてされておらず臭みが残っており、私からすれば食えたもんではない。

 けれど祖父が狩ってくるファングの肉を使うのはもったいないし、ホアンやセシル達に頼んでいるのは私の食卓分。

 ギルドや孤児はこの味に慣れているのならば、そのまま使っても問題はないだろう。


 あと必要なのはチーズだが、これは基本量り売りされているものだ。

 塊で買っても良いのだが、庭とは違いカビが生えてしまう可能性も捨てきれない。

 なので今回は大人の拳二つ分の量を購入し、様子を見ることにする。


「結構な量買いましたけど、大丈夫ですか?」

「何、気にするな。 まだまだいける」


 両肩に荷物を抱えているウーゴはまだまだ余裕の表情で、体の作りの違いを見せつけてくれた。











 ギルドへ帰ってからもウーゴは私の手伝いを申し出てくれた。

 そこまでしなくても良いと言ったのだが、働かないとウェダから昼食をここで食べる権利をもらえないらしく、逆に手伝わせてほしいと懇願されてしまったのである。

 ならばと買ってきた肉の塊をミンチにしてくれとお願いし、私は孤児とともに野菜を切ったりさらに米をよそったりと違う作業をさせてもらう。


 スープに入れるコールを一口大に切り、ソーセージとともに火にかける。味付けはシンプルに塩と胡椒。

 自家製ソーセージなら出汁が出て美味いのだが、肉屋で買ったものだ、臭みを消す為にハーブを少々。


 ミンチにされた肉も炒める段階でハーブを散らし、塩と胡椒、醤油に酒、ニンニク、ケチャップを入れて炒めておく。

 味は濃いめにしておいた方があとで米と合わさってちょうどよくなるので、調味料は気持ち多めに。


 流石に味見をしないわけにはいかないのでちょこっと食べてみるが、やはり獣臭さが鼻についた。

 それはもうしょうがない事なのだが、如何せん気に入らん。


 あとで美味しい肉で作って満足しよう。


 あとは平皿にあらかじめよそっていた白米に刻んだレチュと炒めた肉、角切りにしたトーチェを散らし、上からチーズを削りかければタコライスの完成だ。



「ウーゴさーん。 出来上がったんで職員に配ってもらっても良いですか? スープ付きなんで今日は六十ダイムです」

「おぅよ! 任せときな!」


 職員への配布はウーゴに任せ、私はちびっ子孤児二人とともに裏口の扉を開ける。

 そこにはすでに匂いで集まっていた子らが群れをなし、今か今かとお昼を待っていた。


「今日はタコライスだよー! スープなしだけど二十ダイムねぇ!」


 販売開始!と大声を上げると規則正しく列をなし、一人ずつ器を受け取っていく。

 きちんとお金を払うもの者もいれば、黒板に正の字を書くものもいて孤児達も少しずつやりとりに慣れてきたのがうかがえる。将来的には黒板なしでやっていきたいし、値段も色々変えて計算能力も養っていきたいところだ。




 並んでいるのもあと少しとなった時、悪びれもなく横入りをする一人の子供が目の前に現れた。

 そいつは片手を突き出して早くくれと横暴な態度を示し、そして金もないとと言い放ったのである。


「は? お前誰よ? なんで金がねぇ奴にやんないといけないの? 馬鹿なの?」


 私は孤児達の顔と名前を全て理解しているわけではない。けれどこんな横暴な奴は知らないし、知ってたとしてもここでのやり取りを知らない奴に売る気なんてない。

 さっさと帰んなと次に並んでいる子に売れば、後方からふざけんなと小煩い声が聞こえた。


「孤児に飯やってんのってお前だろ! なんでそいつらにやって俺にはくんねぇんだよ! さっさと寄越せよ!」

「ーーはぁ! 何言っての? 私はこいつらにタダでやってないけど? お金もらってるけど? それになんでお前みたいなクソ餓鬼にやる必要があるの? 馬鹿なのアホなの屑なの? さっさと消えろよクソ餓鬼が」


 ぺっと唾を吐いて再度消えろと呟くと、クソ餓鬼を顔を真っ赤にさせて私に殴りかかってこようとした。しかしながらその振り上げられた手は筋肉だらけの大きな手で止められ、私に当たることはなかったのである。


「おい、何してんだ」

「ウーゴさん!なんか知らん奴が飯よこせといってきまして。チョチョっと追っ払ってくれません?」


 邪魔なんです。

 とそうとだけ伝えればウーゴは私に対峙した餓鬼に視線を向け、鋭い眼光で睨みつけた。

 それに恐れをなしたのか先ほどまでとは打って変わって顔を青くし、必死に逃げようともがいている。

 ウーゴはそんな餓鬼を軽々しくぽいと投げ捨てると、お前は誰なんだと距離を詰め寄った。


「オレ、は、テアドロ孤児院のーー」

「孤児院? ならさっさと院に帰んな!」

「で、でも! ここにくれば飯がもらえるって!」

「いいから帰れっ!」


 大人の怒声にビビったのかそいつは急いで背を向け走り出し、あっという間に私たちの視界からは消え去った。


「ウーゴさんがきてくれて助かりました。 あとでお菓子か何かお礼しますね?」

「それは、ウェダに睨まれそうだ! しかしまぁなんで孤児院の子なんかが……」

「さぁ、"同じ孤児"だからって勘違いでもしたんじゃないんですかね? 同じなんかじゃないのに」


 小綺麗な格好で言葉遣いも雑で、施しを受けて当たり前なんて考えている孤児が、ここにいる子らと同じなんてあり得ない。


 面倒事なんて起こしてくれるなよと今は見えない背中を思い出し、私は仕事を再開した。




 結局私の望みなんて叶うことはなく、面倒ごとが訪れたのは翌る日の事だった。






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