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リズエッタのチート飯  作者: 10期
都会と少女
127/164

104

短めです。

 




 無心になれ。無心になれ。無心になれ。




 そう念じ、心を閉ざした私が作り上げたのは合計百は超えたであろう三角チェリーパイ。

 チェリーは庭で取れるものを甘く煮詰め、四角形の生地に包み込んで焼き上げた力作だ。


 外はサクッと、中にはトロりとしつつも果実がごろりと飛び出すソース、チェリー独特の甘みと酸味、バターの香る最高の出来だと自画自賛出来る品物だ。


 試しに一つ食べてみたが、トロトロソースで舌を火傷してしまったのはいうまでもないだろう。


 普段ならば美味い美味いと満遍の笑みで食することが出来るのだが、今日はそうはいかない。

 私の背後では目を釣り上げたレドと、それに対峙するようにアクアが向かい合って言い争いをしているからである。


「お嬢のお側にいるのはこの俺だっ! 新入りは黙って他の仕事でもしてろ!」

「何を言ってるですか!? 御使い様の側にいるのは私達のような目を持つものの方がいいのです! 貴方こそ違う仕事でもしたらどうなんですか?!」


 バチバチと火花が見えそうなほどのいがみ合いは既に三時間程前から始まっていて、私の気が休まる事はない。




 精神が壊れていたはずのエルフ達は何故か私の存在が現れただけで生き生きとし始め、心に傷を負っていても、亜人の男ですら怖くても、健気に私を信仰しここで生活を送ることを決意したようだ。

 しかしその一方でレドが私のお気に入りなのが気に入らず、こうやって口喧嘩をする事が増えているとパメラが嘆いていたのも事実。

 本来ならば私が間に入って仲を取り持つのがいいのだろうけれど、私にはそんなことが出来る度胸がなかった。


 私だってレドとイチャイチャして癒されたい。

 けれどそれをエルフ達が許さず邪魔される。


 邪魔するなと叱りたいが、盲目なまでに私を崇拝している彼等と言葉を交わすのは恐ろしい。


 だってあいつら私の意見は全部イエスで通す気でいるんだもん。


 きっと私が黒といえば白ですら黒くなり、私が死ねと言えば喜んでと言うほどに、私を崇め奉っているのだもの!



 私としては何もしていないのに、変な宗教のトップになってしまった気分だ。

 それも過激派な宗教のトップに!



「えーと、アクア。 君は一旦パメラのとこに戻って果実採取してもらっていい? ドライフルーツが少なくなって困ってるんだ。レドは私と一緒にパイを運んでくれる?」

「了解ですお嬢!」

「私も!パイを!」

「アクアは他のエルフと仕事しようねー。あまり私を困らせないでねぇー」


 邪魔だよなんて言えば何しでかすか分からないので、取り敢えず私を困らすなと伝えれば歯を食いしばりながらも分かりましたとアクアは頷く。

 一度キッとレドを睨みつけて背を向けて歩いて行ったが、私の指示に反抗はしてこない。

 言うことを聞く亜人が欲しかったのは確かだが、恐ろしいくらい崇拝する使徒は欲しくなかった。



「ーーレド、だっこ! そんでカゴ持って?」


 一度深くため息をついたあと、ん!と両手をレドへ向かって伸ばせば嬉しそうに尻尾を振って私を抱え、三分の二ほどパイを詰めた籠を片手で抱えてくれる。

 そしてゆっくりと庭を散歩するように歩き始めた。



 レドは今じゃ庭の支配者といっても過言ではなく、何処でどんな仕事を何人で取り組んでいるとか、家畜用の柵がもう完成しそうだとか、様々な新情報を私に与えてくれる。

 それを聞いて私は次はどんな仕事をさせるかを決めレドに指示を出し、ついでに亜人達の好物なんかも聞いておく。

 ここで過ごす以上、食事は満足にさせ、不平不満を溜めたくない。


 エルフは兎も角、他の亜人達を従える為にそれなりの配慮はするつもりではいるのだ。反乱なんてされた日にゃ、レドに同族殺しをさせてしまうのは不本意だからだ。


「多分一番大変なのはエルフ達の行動制限かなぁ。私にとって一番はレドだって言ってるのにどうしてああも突っかかるか」

「ーーそれはあいつらが精霊を信仰しているから仕方ないかと。エルフにとって精霊は先祖とも力の根源ともされていやすし、お嬢を崇めるのは当たり前といっちゃ当たり前みたいです。俺を排除しようとするのは俺がただの亜人だからでしょう、気に食いやせんが」


 精霊が見えるから特別だと彼等が思っているわけではないが、少なからず見えない者よりも精霊と近しい者は自分達だ思っているのは確かだろう。

 レドが気にくわないというよりも、私の側で精霊を感じていたい、高貴な私を下々から遠ざけたい。そう思っているそうだ。


 全くもって面倒くさい。



 ぐるりと一周庭を見渡した後残りのパイを配るようにレドに指示を出し、そしてレドの頭を思う存分撫で回し、お腹の毛を触りまくり、尻尾をわしゃわしゃし、日頃のストレスをアニマルセラピーで発散したのちに家へと戻る扉に手をかける。


「色々大変だと思うけど宜しくね、レド。レドだけが私の頼りで癒しだよ!」

「勿論お嬢の為に頑張らせていただきやす! お嬢もお気をつけて」


 最後にもう一度レドのふわふわの頭を撫で回し、私は扉を開けて外へと向かう。

 パタンと扉が締まればそこには誰もいない、ただ静かなだけのリビングが私の帰りを待っていた。



「それじゃあ、行きますか!」


 レドには十分癒された。

 やはり私にはアニマルセラピーならぬレドセラピーは必需品のようだ


 片手には無心で作り上げた出来立ての大量のチェリーパイが入った籠を抱え、今日のお昼はおやつ付きだなと一人で頷き、私は商業ギルドへと足を運んだのであった。






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