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リズエッタのチート飯  作者: 10期
都会と少女
113/164

91 出港

 




 領主の使いが迎えに来る前にしなくてはいけない事。それはヤンを任せたエリオに渡す保存食の準備である。


 船で過ごすという事は野菜や果物を食べる機会が少なくなるわけで、確かそのせいで船乗り独特の病気があったはず。

 それを回避するために私が用意した保存食はドライフルーツとオイル漬け野菜、酢漬けにジャム。

 庭産の食材を使えば普通の食べ物よりもかなりの期間保存が可能になるし、きっと船でも重要視してくるだろう。


 ドライフルーツは普段スヴェンが売っているものと変わらずパイナップルやオレンジ、キウイにイチジク。クランベリーやレーズンなどを私が抱えるほどの袋二つ分程用意した。

 甘味の少なくなる船の上、少しでも娯楽になってもらえればと考慮した。


 オイル漬けはパプリカを焼いてレモンとオリーブで漬けたもの。ハーブと一緒に豆をオイル煮したもの。ドライトマトのオイル漬け、キノコをニンニクと鷹の爪で炒めてオイル漬けにしたものを、一種類につき大きめな瓶で三瓶。

 野菜だけではなくニンニクとハーブを入れたオイルサーディンも追加し、そのまま食べてもパスタにしても大丈夫なように味付けをしっかりしたものを準備させてもらった。


 酢漬けはさまざまな野菜をつけたピクルスを計五瓶。ジャムは苺、林檎、桃、ブルーベリー、レモンの五種類をそれぞれ五瓶ずつ。


 ついでに用意したのは蜂蜜を使った梅干しと干し芋、手のくわえていないナッツ等。

 あとは塩漬け肉、もといベーコンとジャーキーを樽いっぱいに用意し、調理をしてない庭から取ったばかりのジャガイモや南瓜、さつまいもとにんじんを麻袋三つ分。りんごやオレンジ、グレープフルーツも麻袋一つ分ずつ。


 エリオの船に乗る人間がどれほどいるか把握していないが、荷馬車いっぱいになった食料だ、より良い家畜を期待したい。


「スヴェンさーん! そろそろ行きましょかー!」


 大声を上げてスヴェンを呼び私は荷馬車に乗り込み、港へと向かったのだ。




 大通りを抜けて港へ着くと忙しく動き回る人達に出くわした。

 その乗組員とも呼べるもの達はみな大きな荷物を抱え、船へと運んでいく。私はその中の一人に声をかけ、エリオを呼んできてもらうことにした。

 本来ならば私が行くのが礼儀として正しいのかもしれないが、今回は荷物がある。

 どこに何を置くか分からない人間が船へ運ぶよりも、よく知っている人間が動く方が良いと思ったからだ。


 エリオを待つ事数分。

 いつもよりも少しいい服を着たエリオと、焦りながらそれについてくるヤンの姿が目に入る。片手で挨拶をすると同じように返され、私はスヴェンとともに荷台の布をめくり上げた。


「用意させていただいたのは主に俺が売り捌いているものですが、今回は特別に野菜とオイル漬け、変わり種の梅干しをつけさせてもらいました。 どれも長持ちするものですが何せ海を渡った製品はない為、どれくらい持つかは分かりません。 様子を見ながら食べてください」

「これ程貰えるとは。 梅干し?とやらは一体どんなもので」

「梅干しは果物を蜂蜜と塩でつけたもので、疲労回復に効果がある栄養が入っています! 私が趣味で作ったものですが、味は保証しますよ!」


 おにぎりに入れるでも良し、焼酎で割っても良し。夏バテにも効果的な栄養食であることには変わりない。実際祖父は度々焼酎に砕き入れウマウマと飲んでいる品物だ。

 慣れないとその酸っぱさに驚くだろうが蜂蜜で緩和されているし、中には百年はもつ梅干しなんてものもあった筈。

 海でも気を使って保存していればカビが生える事はないだろう。

 否、私の庭の産物だ。そうそう傷む事はないだろうけど。


「それでペコランの事はーー」

「嗚呼、任せておいてくれ! ちゃんと手に入れてくるわっ!」

「お願いしますっ!」


 新たに生産できるあろうチーズやバターに私の心は躍る。

 エリオ達が戻る前にペコラン用の柵や餌となる野菜の準備も始めなくてはならない。そう考えてみると別にペコランだけじゃなくて他の動物の家畜化を試してもいい頃合いかもしれないし、庭の一部を家畜仕様にするようレド達に言っておかなければ。


 ニッコリと笑ってもう一度よろしくと握手を交わし、私はヤンの姿を捉える。

 今までと違った綺麗な服と、埃のついてない髪。

 照れているのか、それとも気恥ずかしいだけのかは知る由もないが、ヤンは私の目を見つめる事はなくそっぽ向いてチビ達を頼んだと口にした。

 私はその言葉に笑みを浮かべ、堂々と嫌だと返答した。


「私は孤児を頼まれるつもりはないよ。 この先どうなるかはあの子ら次第、私の力じゃない。 君の生き方を君が決めたように、あの子らの生き方はあの子らが決めるの。 でもまぁ、独り立ちした"兄さん"の背中を追うんじゃない?」


 だから良い見本になってやれと肩を叩き、私はニッコリと笑う。

 そしてようやく私の顔を見たヤンは少し困ったようにはにかみながら、頑張ると小さく頷いたのだ。




 その後私とスヴェンは荷物を全て港に降ろし、出航の邪魔にならないように馬車を街中へと向かわせる。

 その最中、私はスヴェンに畜産をしたいと言葉を零した。


「畜産? なんでいきなり?」

「いんやね、ペコラン用に柵を作んなきゃなんないでしょ? なら余分に作っちゃえって」

「ーーなんでそうなるのか分からんのだが?」


 頭を傾げいきなり話しが飛び過ぎじゃないかと小言を言うスヴェンに、私は亜人が増える予定でしょと言い返す。そしてそれと同時に足りなくなるのは亜人たちの食料でもあるのではと付け加えた。


「足んなくなるって、そんなにもらうつもりだったのか!?」

「勿論! 元はと言えば領主が悪いわけだし、選んでいい許可ももらってる。 脆弱な亜人なら幾つ手放しても一緒でしょ? それに私は"幾つ欲しい"って言ってないもん。 一人二人もらったところで満足できません! むしろしません!」

「お前なぁーー。 でもそうなると確かに手元に残る食料は足りなくなるか。 いくらなんでも野菜だけ食えってわけにもいかねぇしな」

「それにファングだっていつまでも取れるはずはない。 いつしか取り尽くちゃうよ。 早めに手を打たないとって事でオススメの獣は?」


 なんかしら知らない?

 そう首を傾げてみればスヴェンも同じように首をかしげる。

 そしてウンウン唸ったのち、思いついたように目を煌めかせた。


「オーロッシっ! あれなら危険が少ないな! だがどう手に入れるかが問題だな。 ーーーーギルドに掛け合ってみるか?」

「ギルドなら商業の方で! あのクズギルドには頼みたくないし、買取なら商業で十分でしょ? もしくはグルムンドでお願いしてもいいんじゃない? その方が家近いし」


 庭で育てるのならばハウシュタットで頼むより、グルムンドで頼んだ方が受け取った時運びやすい。

 ちなみにオーロッシとはファングより一回り大きな体で、ツノが生えているが基本大人しい動物のようだ。

 肉の味はファングより不味いらしいが、それがキチンと血抜きをされた肉の味かは疑わしい。血抜きをちゃんとして、それでも不味いようであれば餌を果物や芋類に変えて味の改善を試みよう。


 ブランド豚まではいかないが、そこそこ美味い肉をやっぱり食べたいし。


「んじゃオーロッシを家畜にする前提で! スヴェンが向こうに帰るまでにおじいちゃんにお願いするのもアリかな? 時短になるもんね」

「取り敢えず始めは四、五頭から慣らしていこう。 いきなり何十頭も無理だろうし、新しい亜人の世話もあるからな」

「そだね。 慣れたら庭に牧場作ろうか! いやぁ、肉に困らない生活をしてみたいっ!」


 牧場が広がったら食用鳥も家畜にするんだと心に決め、私は荷馬車に揺られて長い髪を泳がせた。




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