プロローグ 因縁
よろしくお願いします。
「アリス! 俺と結婚してくれ!」
リンは叫ぶと同時に魔刀を振り抜いた。三連の炎の弾が発生し、空気を焦がしながら私に迫る。
「お断りします!」
私は槍を構え、素早く突きを繰り出した。炎の弾が弾け飛び、じゅわりと槍が纏っていた水の膜が蒸発する。
相変わらずインチキみたいな魔力量。
水と炎。
相性は私の方が有利なのに、彼の火力が強すぎて相殺するのがやっとだった。
正直リンと戦うのは怖い。体が震える。
でも絶対に譲れない。
背後にある森を守るためなら、誰だろうと容赦はしない。
それが例え、かつて愛した男であっても。
「どうして!? 前世ではあんなにラブラブだっただろ!」
「三百年も昔の話を持ち出さないで下さい! 未練がましいです! いつまで彼氏面するつもりですか?」
「俺は別れたつもりないんだよ! 山田くんと田中さんだって今世で再会して結婚したじゃん! 俺たちも後に続こう!」
「彼らは人間に生まれ変わったからいいんです!」
「人の形してるんだから問題ないだろ!」
「大アリです! それに今の私は、あなたよりも精霊王ラビエス様の方が大切なんですから!」
私のとどめの言葉にリンは一歩後ずさる。その顔は悲壮感でいっぱいだ。わざとらしい。
「愛しいアリス、どうしてあんな枯れかけのじじいなんかに……」
「ラビエス様を侮辱しないで!」
私が槍を突き出すと、ふらつきながらも片手で応戦するリン。
はるか昔、真面目な剣道少年だっただけあって刀さばきは一流だ。力任せに振り回すだけの他の魔人とは全然違う。
「分かった。今日こそお前の目を覚まさせてやる。俺の無限の愛で!」
「気持ち悪いです! 近寄らないで!」
それから私とリンは水しぶきと火花を飛ばし合い、槍と刀で競り合い、霊力と魔力でせめぎ合った。
二人の間に入れる者はいない。近づくことすらできない。
光が尾を引き、空を裂く。
目にも止まらぬ猛攻と目も当てられぬ罵倒が続く。
周囲の者たちは精霊も魔族も揃ってため息を吐いた。
いつものことだ。
飽きることなく続く精霊と魔族の戦争。
これは、その最前線での出来事である。