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【討伐者】  作者: 夢暮 求
【-渦巻く戦禍と狂った男-】
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【-ディルとケッパー-】

「老けたな、人形野郎」

「えぇ~、これでも生き残りの中じゃ一番若いんだよぉ?」

「一番若いと言ったって、二歳年下なだけだろうが」

「だったら、ディルと変わらないくらい老けていたって、不思議じゃないだろう? あの頃は若い世代が駆り出される時代だったからねぇ。耄碌(もうろく)した年上どもは、変質の力を研究することに忙しいとか言いやがって、そのおかげで若い世代がみんな死んで行ったんだ。なのに、生き残った僕たちは、“あいつ”を残してみんな邪険にされて、追い払われた。本当に、嫌なことばかりがあの頃には詰まっているよ」

 男がねぐらへと入り込む。男の体に巻き付いていた蔦と蔓が一気に枯れ果てて、外に落ちた。


「じゃぁ、ディルって……何歳?」

「二十年前はテメェとほぼ同い年だな」

「え、あ、そうなの?!」


 驚きを隠せない。この男はもっと歳を取っているものだと思っていた。見た目からして四十後半だと推測していたのだが、言っていることが確かならば三十代後半に差し掛かるか否かというところだ。

 雅の顔を見てからか、男――ケッパーが再び、引き笑いをする。

「そりゃぁ、こんな憮然(ぶぜん)とした男は年寄りに見えるよ。僕がディルと初めて会ったときも、『飲んだくれ』の次――上から二番目だと思っていたのに、蓋を開けてみたら下から二番目だったんだからさぁ……まぁ、“あいつ”はディルと同い年だったっけ?」


「考えたくもねぇな」


「それは僕も同じさぁ。はぁ……まぁ、良いや。で、君を襲ったそこの“人形もどき”をどうする気だい? まぁ、裸に剥くくらいなら止めないよ。三次元は見ててもつまんないからさぁ、見る気にもならないけど」


 楓が目をパチクリとさせたのち、「いぇええええ!?」と驚きの声を上げて、首を横に振りつつ体を丸める。

「死なねぇ程度に蹴らせてくれるんなら、なんだって良い」

「ヒィッヒィッヒィッ! それで、僕の過失が解消されるなら、構わないよ」


「ぇええええ!?」


 更に楓は驚いて、完全に縮こまってしまった。

「まぁ、それはそれとして……雨がやんでから考えたら良いや。ディル、水はある?」

「ちっ……強盗なんざやめて、海魔狩りを優先しろよ」

「人殺しをしないように、人と戦う術を身に付けることこそが大切なんだよ。そりゃ良心の呵責(かしゃく)はあるだろうけれど、まぁ、そこはそっちの“人形もどき”に押し付けているから、別に僕は苦しまないしぃ」


「狂ったテメェが、子供の御守か」

「狂っていた君だって、御守をしているじゃないか」


 ディルは自身の水筒を取り出して、ケッパーに投げて寄越した。あれほどお金と水にうるさい男が、他人に水を与える様を見るとは思いもしなかったことだ。

 ケッパーは水筒の蓋を開け、飲み口に触れないように上に持ち上げて、口の中に水を流し込んで行く。

「相変わらず、きたねぇ飲み方だな」

「君と間接キスなんて、死んでも御免だからさぁ。どうも、ありがと」

 水筒の蓋をキッチリ閉めて、ケッパーはディルに返す。


「で、君。なんで女の子を連れているの? それも“人形もどき”には劣るけど、それなりに妄想を掻き立てられる可愛らしい子じゃないか。なに? “人間もどき”じゃ満足できなかった感じ?」


「テメェこそ人形じゃ満足できなくなったってことだろう? つまり、そういうことだ」

「なぁんだ。君も僕と似たような境遇ってことかい? ヒィッヒィッヒィッ! こんなちみっこいガキを連れての旅は、ストレスで寝込んでしまいそうなくらい辛いだろう?」


 分かる分かる、と言って男がディルの傍に腰を降ろす。


「なんかあの二人、仲良さそうじゃないですか? ケッパーはディルさんのことを話す度に、『あの頭のおかしい男は大嫌いなんだよ』とか言っていたのに」

 そそそっと楓が雅に再び耳打ちをする。

「私も『大嫌いな連中』って言っていたことを憶えてるよ」

 雅も囁き声でそう返事をした。

「人形野郎は『人で無し』と会ったか?」

「いや、会ってない。うわぁ、その顔から察するに会っちゃったのかい? そりゃぁ、災難だったねぇ。三次元の女は面倒な上に、あのリコリスだもんねぇ。ついでにあの『人で無し』は“疫病神”と来てる。ひょっとして会ったついでに面倒事にも巻き込まれたりしたのかい?」

 (おもんばか)ったかのような言い方にディルが「まぁな」と答える。

「でも、『飲んだくれ』じゃなくて良かったじゃぁ、ないか。僕が二度と会いたくないのが『飲んだくれ』と“あいつ”だ。だからリコリスは、まぁ君と同じでまだマシかなぁ。会ったら実際は、気分が悪くて嘔吐するかも知れないけどさぁ」


「『飲んだくれ』は酒さえ飲ませなければ良いんだよ。まだ共感できるところがある。問題はあの『正義漢』だ。あれと会うときは、有無を言わさず殺し合いだ」


「ヒィッヒィッヒィッ、殺し合いって言ったって君は本当に殺しはしないだろ? それだと君が一方的に殺される未来しか想像できないなぁ」

 なにせ、“あいつ”は人殺しだ。とケッパーは付け足して、深い溜め息をついた。

「テメェがここに来た理由はなんだ?」


「分かっているだろぉ? 査定所からの通達だよ。さすがに強盗ばかりじゃ飢えと渇きも癒し続けるのは難しくなって来たし、丁度良かったと思っているんだけどねぇ」


 やっぱりか、とディルは納得したように声を落とした。

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