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【討伐者】  作者: 夢暮 求
【-渦巻く戦禍と狂った男-】
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【-榎木 楓-】

「すみません、悪気は無かったんです。まさか気絶しないで動く人間が居るなんて思わなかったんです」

「まぁ、私も気絶されるレベルの電流を浴びて、気絶しない人が居るなんて思わないよ」

 頭をペコリと下げつつ、侘びを入れる少女に雅は続ける。

「変質させた物を再変質させられるの? あと、『雷使い』って?」

 少女が放り出した短剣を拾い、手元に置いておく。


 一応の処置である。もうこの少女から戦意が抜け切っているのは分かるのだが、軽い気持ちでこれを返した瞬間、戦意を再び(たぎ)らせられてしまえば、完全に隙を突かれてやられてしまう。


「その、連続的な変質は難しいって言われているんですけど、私はケッパーからその方法を教わりました。コツは、体感で覚えるものなので教えられません。武器は大抵の物は使えるようになれって言われて練習している最中です。あと、『雷使い』とは言われますけど、自分が変質させた武器にしか纏わせることができません。奇襲のように遠くから雷を落とすとか、そんな夢みたいなことができるわけじゃないんでっ! その、これ、訊問(じんもん)かなにかですか? 私、このあと、なにか酷いこととかされるんじゃ」

「しないしない」

 雅は首を横に振る。

「……助かりました、ありがとうございます」

 少女は再び深くお辞儀をしたのち、雨合羽を脱いだ。


 フードで隠れていた亜麻色の髪は癖っ毛が無いのか(あで)やかで美しい。長さは雅と同じ、肩に掛かるくらいのセミロングだ。

 続いて、こちらを見つめる少女の顔はまるで人形のように可愛らしい。日本人なのか瞳の色は黒と茶色の中間色。なにより、目と鼻、口を異性が好むような大きさ、色合い、形に誰かが仕上げたかのように可憐で、儚さまで携えている。

 眉も綺麗に整えられ、見ていて思わずギュッと抱き締めたくなってしまう。身長も低く、年齢も外見から窺えば恐らく、雅より二歳か三歳は下と思われる。

 トップスは露出が控えめの長袖。しかし、ボトムスは、この世界に不釣り合いな丈の短いプリーツスカートだった。

 リコリスほどのスカートの短さではないものの、俊敏に動いている最中に下着がチラチラと見え隠れしたのだが、ひょっとすると彼女はそのことをなんとも思わない女の子なのだろうか。


 だとすれば、まずい。雅が賭けに負けることになる。なので、服装の指摘はしない方が雅としては事が荒立たなくて済む。


「これで、私がもうなにも持っていないことの証明になりましたか?」

「うん」

「それならその、お名前を訊いてもよろしいですか? ケッパーから聞いた限りじゃ、『ディルみたいな危険人物が、誰かを連れるなんてあり得ない。精々、生き残ってからずっと連れ歩いている子供一人だけだ』と言っていたので、二人組は狙わずに三人組以上を狙っていたので、その……」

 この子は、そのケッパーという人物からディルやその他の生き残りについて聞かされているらしい。雅からしてみれば『良いな』とも思うのだが、きっとそれ以上に辛酸を舐めさせられているのではないだろうか。


 ディル曰く「みんなネジがぶっ飛んでいる」らしいので、その確率は高い。雅は罵詈雑言と暴力を浴びせられる。リコリスは同性であっても絡み辛く、下世話なネタを話の合間合間に滑り込ませて来る上に、常に気だるげな口調を用いる。更にディルは『人で無し』と呼んでいるので、きっととんでもない秘密がまだあの女には隠されているのだろうと雅は踏んでいる。


 だから、ケッパーという人も、恐らくネジがぶっ飛んでいる。そのぶっ飛び具合にもよるが、精神的苦痛を味わっていることは予測できる。

「私は雪雛 雅」

「ありがとうございます。私は榎木 楓(えのき かえで)と申します。あの、雨合羽はもう着ても?」

 雅は首を縦に振る。少女――楓は雨合羽をそそくさと着て、フードを被った。

「お願いがあるんですけど、聞いてもらえますか?」

「一応は……でも、食料がどうとか、そういう話は無理だから」

「違います。私、強盗なんて本当はやりたくないんです。ただ、ケッパーがやれって言うからやってるんです。ほんとの本当に仕方無くなんですよ。分かります? なんで私が傷付けたくもない人からお金や食べ物を盗んであの人に献上しなきゃなんないんですか、信じられませんよ。なので、捕まったってことで、私をしばらくここに居させてくれませんか?」

 楓は途中から地団太を踏みつつ、ストレスを発散させていた。

「それは、さすがに……」

 雅はチラッと横になっているディルを見る。


「はっ、好都合だ。そのガキを捕まえていることにすりゃ、あの人形野郎は出て来るんだな? そうすれば、あの野郎の顔に蹴り飛ばすこともできる。そしてガキ、テメェもあとで覚えておけ。蹴り飛ばすだけじゃねぇ。胃の中の物を全て吐き出すまで腹を蹴らせろ」


「なんであんな人と一緒に居られるんですか。私だったら逃げてますよ。なんなんです、あの睨み方。怖すぎて近寄りたくないんですけど」

 楓は目上に対しても怖れずに毒づいている。それもこれも、ディルが動けないことを知ってのことだろう。だとすると、見た目以上に(したた)かな子であるということが分かる。


「お姉ちゃん、もうすぐ雨が降るよ」


「あの、横になっているところ悪いんだけど……できそう?」

 雅はリィの忠告を受け、横になったまま動けないでいるディルに無理を承知で訊ねてみる。

「できなきゃ、俺が死ぬだろうがよ」

 ディルは右足を動かし、その靴底がコンクリートの地面を踏み締める。たちまち木々が生い茂り、更には(ツル)(ツタ)が小枝を絡ませ合い、屋根を作る。

「おいガキ、テメェがここに居たいんなら、持っている水を屋根の上から流して、雨漏りの確認に使え。使わないんなら、ここに居ることを俺は許さねぇ」

「えー、じゃー私の今日の水はどこで補充すれば良いんですか、って、怖いです。なんなんですか、そんなギラギラした目で睨まないでくださいよ。もぉ、分かりましたよ。使えば良いんでしょ使えば!」

 ディルの睨みは横になっていても発揮されているらしく、楓は「はぁ、ケッパー以上のぶっ飛び具合じゃないですか」と愚痴を零しながら、ディルが組み合わせた木々を登って、屋根の上に立つ。


「流しますよー!! はぁ、今日の私の一日分の水、さらば!」


 楓は木々の頂点で水筒を開けると、それを引っ繰り返す。勿体無いと思えるほど大量の水がドボドボと木々と蔓と蔦で固められた屋根の上を伝って行く。

「雨漏りは……ねぇな。横になっていたせいで想定より狭くなっちまった。おいガキ、テメェは雨ざらしで良いか?」


「はぁっ!? 水を投げ打った私に、そんな拷問を受けさせるつもりなんですか?!」

「……ウゼェ」


 スススッと素早く降りて来た楓がディルに詰め寄って、更に文句でも言ってやろうかという顔をしていたので、雅が間に入る。

「大丈夫だから。ほら、四人ならなんとか入れるから。落ち着いて」


「なんであなたはこんな鬼畜な男と一緒に居られるんですか。わけが分からないんですけど、というか、なんなんですか。なんで私の知る年上の異性は揃いも揃ってネジがぶっ飛んでいる人ばっかりなんですか。もう男運の無さに泣くばかりですよ!」


「その気持ちは、分からなくもないけど」

 感情を素直に表現する楓の溌剌(はつらつ)さに、雅も若干、付いて行けなくなって来る。

「良いんです。ケッパーより強くなって、世界中の海魔をバンバン仕留めて、あとは二十歳になったら金で男を釣ってやるんです!」

「それだと、ヒモな男しか釣れないんじゃ」

「…………あっ!!」


 今気付いたのかと思うくらいに楓は愕然としていた。

 こう言ってはなんであるが、どうやら頭がそんなに良くない子らしい。

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