【エピローグ 04】
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「音が……響いた」
少女は天井を見上げ、そして耳に張り付いて離れない音の響きに酔い痴れる。
「こら」
男が少女が作った隙を突き、手刀を拳骨とばかりに頭頂部に落とす。
「痛いです」
「まったく、鍛えている最中に余所見をするなんて、君らしくもない。疲れているのかい? 少し休憩をしようか」
男はそう提案し、少女に優しく微笑み掛ける。
「……すみません」
謝る少女に「構わないよ」と男は続けつつ、休憩に入ったことを確かめて、駆け寄って来た部下たちの対応に追われる。
「へぇ、これは面白い」
「面白、い?」
部下から受け取った資料を手にし、そして指示を出し、持ち場に帰らせたところで少女は男に首を傾げつつ、訊ねる。
「浅瀬に乗り上げていた客船型戦艦から、生存者が多数確認されたみたいだ」
「それは、とても良いことじゃ、ないんですか?」
「生存者のほとんどが一般人だから、『上層部』は重労働を課すみたいだけれど」
「そう、ですか」
「いや、これは良いことだよ。なにせ生きている人がたくさん居たんだ。これは本当に、喜ばしいことなんだ」
「なにか、懸念すべきことでも?」
男の言い方がいつもよりも、感情を抑えているようなものだったので少女は訊ねる。
「“死神”が目撃されたみたいなんだ。どうやら、この偉業を成し遂げたのはその“死神”のおかげが大きいらしい。困ったものだよ。彼の人間性を知っている者ならば、誰一人として彼の活躍を評価するはずが無いというのに」
「“死神”」
「ああ、許されざる男だ」
男は怒りを内に秘めつつ、少女に優しい笑みを浮かべる。
「けれど、今は捨て置こう。生存者が居たことだけを見るべきだ。この世界も捨てたものじゃないと、思っておこう」
「安心、して下さい」
少女は男に向かって言い放つ。
「“死神”は私が必ず、殺します」
「……あまり物騒なことを言っては行けないよ」
しかし男の口調と表情からは、“殺しを止めようとする意思”は見られなかった。
「さて、それじゃぁ稽古を再開しようか。君がこの腐った世界の“法”になるために」
「はい」
短刀を二本、クルリと手元で回して少女は男と向き直る。
「ただ、その道は険しい。“悪”を裁く“正義”を貫くために、君にはまだまだ、“痛み”を与えなければならない」
男は顔の近くで十字を切って、周囲一帯に『火』を迸らせ、向かって来る少女に相対した。
【第二部 終了】→【第三部 開始】




