【エピローグ 03】
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「起きろ、餓鬼。貴様の休憩時間はもう終わりだ。酒を買って来い」
「……お酒、今日も飲むんですか?」
「俺から酒を除いたら一体、なにが残るってんだよ」
大男は豪快に笑うも、すぐに真顔になり少年を睨み付ける。
「だって、お酒を飲んだら、大暴れするじゃないですか」
「大暴れするために飲んでんだ。これだから酒も飲めねぇ餓鬼は嫌だ嫌だ」
「今日の稽古で、もう僕もボロボロなんですけど」
「ああん? 酒を買って来ねぇ餓鬼なんざいらねぇんだよ。分かったらとっとと買ってきやがれ。そして、さっさと俺の暴力に堪え忍ぶ方法を探るんだな。でねぇと、朝、目を覚ましたら餓鬼の死体が転がってるなんてことになっちまう。そりゃぁ参ったことになるんだ」
大男は手で顔を覆い、虚ろな瞳で続ける。
「殺しは勘弁だ。俺が暴れて気付いたら死んでるなんてもっと勘弁だ。頼むから、死ぬんじゃねぇぞ。困るんだよ、死なねぇように強くなってもらわなきゃ」
「それで朝から晩まで、晩から朝まで振り回されるこっちの身にも、なってくださいよ……」
少年は心底、嫌そうな顔をして大男に愚痴を零す。
「貴様に文句を言う権利なんざねぇんだ。分かったなら酒だ。酒を買って来いっつってんだ。買って来る隙に逃げんなよ。逃げたら、本当に殺しちまうからな」
「……分かりました」
少年は起き上がり、大男が差し出した紙幣を片手に一人、日の沈みそうな道を進んで、近場の町を目指す。
「なんで僕は、あの人に目を付けられたんだろう……」
それが運の尽きだった。その後は有無を言わさずに各地を歩き回されている。そして町に着くたびに数週間滞在し、大男は酒を飲む。酒を飲んだ男は酔った勢いで少年に暴力を振るう。それも討伐者として全力で大暴れする。
それを乗り切っても、朝に大男は少年に稽古だと言って、戦闘訓練を行う。そして昼時から夕方に掛けて、少年には休憩が与えられる。そうしてまた、夕方に起こされ、酒を買いに行かされる。それが町を出るまで続くのだ。
「クソ、なんで僕が、こんな目に遭わなきゃならないんだよ」
大男の居ないところで強く毒づいた。
だが、そんな大男から離れずにずっと各地を歩き続けているのもまた事実だった。ここまで耐えているのだから、これからも耐え続けられるだろう。そんな希望を持っている。
自身が犠牲になることで、他の誰かがあの大男の暴力を受けずに済むのなら、こんなに良い話もない。
少年に忠誠心は無い。
あるのはただ、大男に対する苛立ち。それだけだ。




