【エピローグ 02】
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「世界はどうして二次元への扉を作ってはくれなかったのだろう……」
「はぁ? また空を見上げながら、そんなこと言ってるんですか、いい加減にして下さいよ」
「そうやって物騒なことを言ったってさぁ、“人形もどき”は一度も僕を傷付けたことがないじゃないかぁ。つまんないよなぁ、あぁ、あぁ、二次元に行きたい。そこなら僕を傷付けてくれる可愛い子たちがたくさん居ると、思うんだよ」
少女は男の狂った言葉に、大きな溜め息をついた。
「いい加減にしてくれません? そういう発言、嫌なんですけど。人形もどきと呼ぶのもやめてください。私、ちゃんとした人間なので」
「じゃー今日の性欲の捌け口について熱く語ろうか」
「そういう発言はもっと嫌なんですけど」
「えぇ!? 人形は快く受け入れてくれるのに……やっぱり、三次元はクソだ。生まれる次元を間違えたって表現は、まさしくこれだね」
「だから、わけの分からないことで悲観するのやめてください」
「なんで君、生きる次元を間違えたの?」
「なんで私が生きる場所を間違えたみたいになっているんですか。あなたですよ、それ。あなたが生きる次元間違えたんですよ」
ぶっきらぼうに、敬語らしくもない敬語を用いて少女は再び深い溜め息をついた。
「はぁああぁああぁああぁあー……。でぇ、人形もどき? 今日もまた一戦交えてくれって言うのかい? この悲観に暮れている僕に、そんな酷なことを、言っちゃうのかい?」
「だって私、なんのためにあなたに付いて行っていると思っているんですか。強くなるためじゃないですか。って言うか、強くしてくれると言ったのはあなたの方じゃないですか」
ずっと項垂れていた男はクワッと目を見開いて、顔を上げる。そうして猫背でフラフラと左右に揺らめいている。それが男の臨戦態勢だと知っているため、少女はいつも通り身構えた。
「次元を越えた愛は、いつも誰にも分かってもらえない」
「まず次元を超越する方法を学んでから愛を語ってもらえませんか?」
「君ねー、一々、人の言うことにツッコミ入れて楽しいの? なに、嫌がらせかなにか? ほんっと、人形もどきは愚痴ばっかりで、いっそ自分の耳が潰れちゃえば良いのにって思ってしまうよ。ああでも、それだと彼女たちの声が聞こえないから、別の方法にしよう」
「別の方法って?」
「君の喉を潰す」
「いっつもそんなこと言って、潰さないのはなんでですか? 弱い私への哀れみですか?」
「いんや、単純に僕は人形もどきたちには酷いことをしないってこと。殺しは、海魔殺しよりも嫌いだからぁ」
少女は深い溜め息をつき、そののち、短剣を引き抜き、男へと駆け出す。
「その短剣は、ちゃんと大事にしてよぉ。素材は有名過ぎる『金使い』が用意した金属。打ったのは『火』の狂い竜。そんな一品、滅多に無いんだからねぇ。ってぇ、やっぱり聞いてないよねぇ……まぁ良いやぁ。いつか、分かって貰えれば良いんだから。さぁ、今日もまた弄ぼうか」
男は卑屈な笑みを浮かべ、両手から種子を地面へと落とした。




