【-追う者たち-】
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「水筒よーし、食料よーし、地図にコンパスもちゃんと入っているし、非常時の発煙筒もこれだけあれば、近場の討伐者が助けに来てくれ……れば良いなぁ。一応、『水使い』として足掻いてはみてみるつもりだけど、実戦経験なんてほとんど無いに等しいし」
男はブツブツと呟きながら体躯に似合わない大きなリュックサックを「よいしょ」と掛け声を上げつつ背負い、その重みに自身が潰されるようなことが無いだろうかと査定所に設けられた自室をグルグルと歩く。そして、どうやらこれぐらいの重さなら大丈夫だと――自身が根を上げる時間が少しでも伸びるだろうと確信し、深呼吸を繰り返してから自室から出ようと扉を開ける。
「……あれ?」
男は瞼を擦って、廊下から自室に向かって凛然と立っている女性が見間違いで無いか、何度も確かめる。
「あなたのことだから、そうするだろうと思っていたのよ」
「おっかしいな、夢でも見ているのかな? 死期が近付いているから、かな」
「そんなわけありません。これでも、一番あなたのことを理解しているつもりなのよ? 榎木 楓さんのために――いいえ、これからの人間の未来のために、私たちの未来のために、力を貸しに行こうとしているんでしょう?」
なにもかも見抜かれていると判断し、男は両手を上げ、抵抗の意思が無いことを示す。
「そうやって、僕を部屋から出さないつもり?」
男は訊ねる。
「でも、僕は今回の件、そしてこれからのことを考えて、無茶でもなんでもここから出て、少しでも彼女たちの力になれることをしなきゃならないって、そう思ったんだ。だから、無理やりでも行かせて欲しい」
その言葉に、女性は深い溜め息をつく。
「だから、こう見えて私はあなたのことを一番理解しているつもりって言ったでしょう? あなたがそうやって決意したら絶対に揺るがないことを知っている。最初はあなたが幼さを残しているから、見ていてあげないと、という気持ちで接していた。でも、あなたの幼さの中にある、ほんの少しの男らしさや大人らしさを見て、いつの間にか惹かれていた。私を口説くための必死さや強引さも、目を瞑っていられるほどにね。そんなあなたのことだから、今回も無謀にも、査定所から出るんじゃないかと思っていたの」
女性は「よいしょっと」と言いながら男と似たように廊下に置いていたリュックサックを背負い直した。
「私も行く。婚約が確実なものになるまで、もう離れたくないから。構わない?」
男は「そういう君だからこそ、僕は好きになったんだ」と呟き、肯いた。




