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【討伐者】  作者: 夢暮 求
【-第十部-】
311/323

【-星の導きのままに-】


「ここで何箇所目だっけ?」

 見張り台を仰ぎつつ、誠は美優に訊ねる。

「五箇所目。でも、なんで見張り台にわざわざ登るの?」

「ナスタチウムの『変成岩』だけでも、海魔のほとんどを追い払えているんだけど、マッドブレイヴのような鳥の要素を持った海魔の侵入は防げないんじゃないかと思って」

 美優を置いて、木で造られた梯子を手早く登り、更に木組みの柱を伝って、屋根の上にまで登る。腰のベルトに引っ掛けていた糸鋸(いとのこ)で屋根の中央を削り、窪みを作ると、そこにポケットの中に入れていた宝石のように輝く小さな欠片を埋め込む。そして柱を伝って戻り、梯子を使って地上まで降りた。

「見張り台の位置はナスタチウムが決めたんじゃない?」

「そう聞いているけど」

「だと思った」

「どうして?」

「知らなくて良いよ」


 五箇所を点とし、それらを線で結ぶと五芒星になる。恐らくはナスタチウムが生きて、ここに戻って来ていたのなら、最後の作業を誠にやらせるつもりだったに違いない。こうした方が良いと思い、行動に移したのは誠自身なのだが、この配置を見ればそれすらもあの大男の掌の上だったことを思い知らされる。


「じゃぁ、見張り台の屋根になにをしていたの?」

「これを埋め込んでおいた」

 ポケットに残っていた一つを取り出し、美優に放り投げる。

「なにこれ……凄い、綺麗。宝石?」

 小さな石ころのようなものが七色に変化しながら輝きを放つそれは、宝石と言っても差し支えないが、所詮は石ころであり、お金に関して言えば価値は無い。しかし、これがあるのと無いのとでは、町にとっては大きな違いが生じる。そういった意味では、別の意味で価値があるのかも知れない。


「そんな高価な物じゃない。それが変質し続けていることで輝き続けているだけ。ナスタチウムみたいに、他者にその恩恵を与えられはしないから、『星の欠片』とでも呼んでくれて良い。見張り台の頂上において、五箇所でこれの存在を主張させる。『土使い』の気配だけでなく、五行のどこにも属しない全く別の使い手の気配が五箇所を結んで中空を及ぼしている。それなりの等級の海魔はこの気配を察して近付かない。下等な海魔がたまに入り込んでしまうだろうけど、これまでより更に襲撃の回数は減るはずだ」

 ま、僕の気配なんて大したことないからひょっとすると駄目かも知れないけど、と誠は小さく呟いた。


「……ここに来てから、小野上さんには助けてもらってばかりなのに、私たち、なんのお礼も出来てない」

「お礼を受け取れるほど僕は働き者じゃないし、仕方が無い。そもそも、お礼なんて貰えるほど大きな人間でも無いし」

 功績なんて無い。評価もされたことは無い。見返りは求めない。ただ、認めてもらえるだけで良い。それだけで構わない。

「あの、さ、やっぱりこの町を出るの? その、リコリス? さんの招集に従うために」

「討伐者だし、そもそも僕は当事者だ。行かない理由が無い。ここに寄ったのは、ナスタチウムを埋葬することと、ナスタチウムの言っていたことについて考えたかったから。元々、こんなに長居するつもりも無かったんだよ」

 しかし、予想以上に――当初の考えよりも圧倒的に、得る物の方が多かった。だから旅立つ最後にこの町のことを思って、『星の欠片』を五箇所に埋め込んだのだ。

「じゃ、じゃぁ! 死なない?」

「死にたくは無いと思っているよ」

「なら、全てが終わったらここに戻って来てよ」

「ここに? なんで?」

「私が……その、小野上さんと、一緒に暮らし? たい、から」

 思わぬ発言に誠は呆け、美優は顔を真っ赤にしたまま答えを待っている。ここまで異性に慕われたのは初めてなので、裏があるのではと疑っているためなにも言い返せない。

「早く答えてよぉ、恥ずかしいからぁ」

「え、あ……あー、えーっと、生きていたら、考える」

「絶対に死なないで!」

「は、はい」

 押しの強さに負けて、肯いてしまった。美優は小さく「よしっ、よしっ」と呟きながら拳を作り、どうやら喜んでいるらしい。

「あと、悠里のこと、よろしくお願いします。町を出て、外を見てみたいって急に言い出したし、きっと分からないことだらけで、迷惑ばかり掛けるだろうけど」

「逆に僕が迷惑を掛けることになりそうだけど」

 視線を逸らしつつ言う。心のどこかで「二人で旅するのは辛いなぁ」と思っていることを悟られないように努める。

「でも、あの後、悠里はすぐに目覚めたのに小野上さんは三日も目覚めなくて、どうなることかと思って」

「ああ、それは……まぁ、反動は覚悟の上だったし、取り敢えず生きていたから良かったってことで」


 『竜眼』の片方――右目側を悠里に受け継がせた。たちどころに悠里の傷は治ったが、代わりに誠が大怪我と同等の精神的負荷が掛かった。その上、全身の神経が焼き切れるのではないかと思うほどの激痛に苛まれ、そのまま意識を失ってしまったのだ。夢の中、グレアムと再会したが『鬼のクセに情の深い小童だ』と嗤われた。しかし『片目を移したところで、我と小童の繋がりは断たれない。力もまた、半分になったなどとは思わなくて良い』とも言っていた。おかげさまで、目を覚ましたあとは特に気にすることも無くすぐに起き上がることができた。


 が、それだけの代償では済まされていないだろう。ナスタチウムの言うように、「寿命の半分」でも削られたかも知れない。だが、あの時、あの選択をしていなかったならば、きっと誠は後悔していた。


 だから、これが正しかったのだと無理に言い聞かせる。


「じゃ、そろそろ行こうかな」

「私、小野上さんと悠里が帰って来るまでに、絶対に貞淑な女になるから」

「今でも十分、貞淑なんじゃない?」

「絶対に他の男なんかに(みさお)を捧げたりなんかしないんだから。だから、小野上さんも他の女の人に、不貞を働いたりなんかしたら、許さないんだから」

 なんだろうか。美優の貞操観念が怪しい。貞淑な女という言い方からして、もうまるで誠と結婚することを決めているかのようだった。彼女の言った「一緒に暮らす」とはどうやらプロポーズだったらしい。それに肯いてしまったのだから、誠はもう逃げられそうにない。だが、美優から逃げる理由がどこにあるというのか。しかし、このことが四人にバレれば、イジられるどころの騒ぎでは無い。口外しないように気を付けることを決心する。

「それじゃ、行って来る」

「行ってらっしゃい」

 そのやり取りも、どうにも誠には慣れないものがあり、体がむず痒くなってしまったが、どうにか堪えて町の門の前に行く。


「遅かったな」

「早い遅い以前に、やることがあるって言っていただろ」

「美優とデートしていたんだろう?」

「そうじゃない」

 呆れつつ、誠と悠里を外へと導く門が開く。

「まず、査定所と呼ばれる施設がある町を目指す。そこで君を討伐者として登録する。そして、首都を目指す。良いね?」

「分かった」


 誠と悠里は歩き出す。星の導きに、誘われながら――。

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