【-間違えるな、という教え-】
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「『竜眼』ってのはドラゴニュートが持つ“力の変質を見抜く眼”のことだ。テメェはそれをグレアムというドラゴニュートから継いだ。だから、テメェは物体が変質された物かそうでない物かを見抜くことができるようになった。あのジギタリスが連れていた餓鬼の音圧の壁を触れずに見抜くことができたのも、その『竜眼』のおかげだ」
「代償があるんじゃないですか?」
「与えた者が負う。要するに今回はグレアムが死ぬ寸前にテメェに託したんだから、テメェ自身に代償は無い。だが、テメェが誰かに片目であっても『竜眼』を継がせようとしたなら、それ相応の代償を支払うことになる。ドラゴニュートにとって『竜眼』の引き継ぎは命の引き継ぎだ。継がせれば継がせた側は死ぬ。これは、寿命を半分以上持って行かれるからだろうというのがジギタリスの見解だな。ただ、寿命が代償だなんてファンタジーにも程がある。ただ、人間が『竜眼』を継いで、またその『竜眼』を誰かに引き継がせるという前例が無い以上、テメェに掛かる負担は、俺たちですら判断ができねぇ」
「要は僕が誰にもこの“眼”を引き継がせなければ良いんだろう? 僕だって命が惜しいし、なによりグレアムから受け継いだ“眼”をそう易々と赤の他人に継がせる気になんてなるわけないじゃないですか」
グレアムは死と向き合い、その中で“眼”を継がせる相手に人間である自身を選んだ。苦肉の策だったのかも知れない。しかし、そのおかげで一時的ではあれど復讐に狂った竜を退かせることができた。
ならば、これはあの狂い竜と戦う際に絶対的に必要となる力に違いない。だからこそ、自身が受け継いだこの大切な力を、また違う誰かに継がせるなどという感情は湧き起こらない。
「目を潰されたテメェは竜の眼を貰って視力を回復した。視力だけじゃねぇ、途方も無いほどの力を秘めたものを引き継がせるときには、想定を超える奇蹟が起きる。死にそうな人間を救うことだってできるだろう。テメェにそんな奴が現れるかどうか分からねぇがな。どこぞの死に掛けの人間一人を救ったところで、なんの価値もねぇ。それでも、誰かを生かしたいと思い、その誰かが死ぬ寸前に立っていたとき、テメェにはそいつを生かすことも死なすこともできる。生殺与奪の権利がテメェにはあるってことだ。だが、俺には使うんじゃねぇぞ? ただでさえ死に掛けの俺を生かしてもなんにもならねぇ。あの竜だって、自身が『竜眼』を持っている以上、奇蹟は起こらない」
「生殺与奪の権利……」
「正確には生死の権利だがな。よく覚えておけ。どうせテメェは、その“眼”を誰にも継がせる気はねぇと思ってんだろうが、人生、なにが起こるか分からねぇもんだ。分からねぇからこそ、その正しいタイミングを、間違えるな」




