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【討伐者】  作者: 夢暮 求
【-第十部-】
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【-目指すのは-】


「ケッパーの偽者退治、ご苦労様でした。三人の討伐者は榎木 楓さんの仰った地図の場所で発見。意識を取り戻したのちは討伐者としての適性を改めて調べる手筈となっています」

 結局、次の街に行く前に楓はダム近くの都市へと引き返した。三人の討伐者をあのまま気絶させたまま放っては置けなかった。なんだかんだで、同じ討伐者、そして同じ人間だ。あのまま海魔の餌になるような未来だけは見たくなかった。


 そのため、不眠不休で都市に戻るハメになったのだが、その文句を誰に言うでもなく、楓は欠伸をしつつ査定所の担当者の言葉を聞く。


「これで私の罪が軽くなったりなんかは……しませんよね?」

「はい」

 肩を落とす。

「ですが、この件を解決したことであなたを早急に逮捕するようなことは恐らく、無くなります。海魔との決戦が近付いている中で、二十年前の生き残りが手塩に掛けて育て上げた討伐者を逮捕するのは、戦力を大きく落とすことと同義です。だから、延期という形になると思われます。決戦後、生き残っていたなら、逮捕……そんな具合でしょう」

「じゃぁ、あなた以外の人と今後話しても、突然、捕まるということはなくなりますか? これで他の査定所を利用することもできるということですか?」

「そうなります。渋い顔はされるかも知れませんが、大丈夫でしょう。なにせ、“禍津神”などとは言われても、なんだかんだで二十年前の生き残り全員を私たちは頼っていました。だから、そこに付け入る下賎な輩を捕らえたその功績は大きいはずです」

 楓はホッと胸を撫で下ろす。


「では、決戦後に素直に捕まりに来ます」


「その言い方ですと、死ぬつもりは無い、と?」

「あるわけないじゃないですか。私は意地でも生き残りますよ。あのとんでもない男の、信じられない恥辱を耐え忍んで、鍛錬に励んで来たんですから! なのに、なんで海魔との決戦ぐらいで、死ななきゃならないんですか」

 査定所の担当者は笑う。

「それでは、私がその手に使い手専用の手錠を掛ける日も近そうですね」

「待っててくださいよ。絶対に帰って来ますから」

 楓は背伸びをして、踵を返す。

「これからどちらに?」


「仲間――友達のところに全速力で。あ、でも、今日は宿泊施設で寝ます」

 榎木 楓は黄緑色の外套をはためかせながら査定所を出た。

「どうですか、ケッパー? ちょっとは自慢のできる弟子になったでしょう?」




 その黒き幼竜は、己を守るため戦いに興じた少女の一部始終を見届けていた。身軽さに加えての俊敏さ、そして花のように咲き誇る才能の塊に、心の底から震えた。


 恐怖では無く、強い強い憧れである。己もあのように戦えたらと、己もあのように戦えるのならと、心の中に憧憬が刻まれる。


 しかし同時に、己自身になにが起こっているのか、黒き幼竜は分からない。そもそも、何故、自分自身が竜の姿となっているのかも分かっていない。


 記憶にあるのは、村の外れへとコッソリと抜け出したときに、死に掛けのドラゴニュートと遭遇したということだけ。そのあと、どこをどのように彷徨い、現在に至っているのかはゴッソリと抜け落ちている。


 ならば己は人間なのか、それともドラゴニュートであるのか。漆黒の鱗を纏った幼竜は、答えを見出せない。そしてまた激しい頭痛に見舞われる。体が悲鳴を上げいる。胸の中が燃え上がるほどに熱く、心が、そして器が激しい竜の炎に炙られている。その痛みと疼きに耐えられず、黒き幼竜はか弱く啼くと、その弱々しい翼を広げて天空へと飛翔する。薄暗い雲の中を突き抜けて、丸い月を視界に収め、そして内側から来る衝動から逃れるかのように、彼方へと飛んで行く。行く先は分からない。どこに至るかも分からない。


 ひたすら、ただひたすら空を舞う。


 どこへ向かっているのか、どこへ向かうべきなのかも分からないままに飛び続け、飛んで飛んで飛び続ける。


 その先になにがあるのか、黒き幼竜はまだ知らない。


 その先でなにが起こるのか、まだ知らない。


 しかしそれは、いずれ起こる物語。


 ただし、その時は未だ果てなく遠い。


 少女が危惧したようなドラゴニュートの復讐は始まらない。何故なら、この幼竜はどの里にも属していない、完全なるイレギュラーなのだから。


 けれど、決して忘れてはならない存在となる。


 何故ならば、この黒き幼竜はいずれ世界を揺り動かす大きな要因となるからだ。


 忘れてはならない。


 その瞳の色を。


 決して、忘れてはならない。


 ドラゴニュートという海魔が追い求め続けていた純血の火竜のみが宿す瞳の色を。


 黒き幼竜の鋭い眼光の先には、まだ未来は見えない。それでも、ただ彼の者は、内なる衝動から逃れるために飛び続ける。


 その瞳の色は『金』――。

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