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【討伐者】  作者: 夢暮 求
【約束と代償と空虚な男】
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【-クリスフォード Lost-】

「ああ、そうか。現実じゃ無いんだな、これ」

 クリスフォードは力無く項垂れながら、そんな言葉を吐き捨てる。


 英雄になるために参加した。

 ヒーローになれるという確信があった。


 それに見合うだけの仲間やライバルも居るんだと、思っていた。

 思い込んでいた。


「居るなら、出て来てくれよ……ヒーロー」


 そう呼んでも、この世界にクリスフォードが望む英雄は居ない。


 血塗れである。


 どこをどう見ても、クリスフォードの体は血に塗れていた。

 英雄がやるべきことじゃない。英雄が一般人を殺すことはそれこそ禁忌だ。あったとしても、不慮の事故、或いはそこから繋がる諸悪の根源の一味。


 そういった理由でしか、ヒーローは、英雄は、人を殺さない。


 即ち、このときクリスフォードは英雄になる資格が無くなった。

「……全部、世界が悪い。こんな、三次元の世界が、悪いんだ」

 震える唇が紡ぎ出す現実逃避の言葉が、まるで洗脳の如くクリスフォードの全身を満たして行く。すると、ほんの僅かだが夢見心地になることができた。


 ヒーローにはなれない。夢や希望に満ち溢れていた脳内を、現実という名の事実が蹂躙した。


 人間を殺した。それだけで罪だ。しかし時として、その殺しを嘆き悲しみ、踏み台として立ち上がるヒーローも必ず居る。だが、そんなヒーローにしかない、倒れても倒れても立ち上がりたいと思えるような強い熱意は欠片ほども無くなっていた。


 惨憺たる光景。凄惨なる世界。しかし、美しくも儚く、悲しくも醜い世界。


「死にたく、ないよぉ」

 その言葉を最後に、クリスフォードの中からヒーローは消えた。


 命を賭してでも大切な者を守り抜くヒーローが、このような言葉を発することはないからだ。

 生きたいという願いは、ヒーローに守られるべき立場の人間が抱くものであって、ヒーローが抱くものではない。


「でもさでもさぁ…………それで僕の物語を完結させるなんて、つまんないじゃないか?」


 ここでクリスフォードのネジが外れた。


 現実を捨て去り、偶像を求め始めた。自身を取り巻く全ては物語の一つであって、ここにはまだ結末じゃないと、勝手に決め付けた。


「ヒィッヒィッヒィッ! みんなみんな、『木』の力を馬鹿にし過ぎだよ、し過ぎなんだよ」

 引き笑いを起こしつつ、クリスフォードは両手を地面に当てる。彼の力によって地面が抉られて行き、木の根へと変質が行われて行く。その木の根が複雑に絡み合い、クリスフォードの左右に大量の木の根で構成された巨人が作り出される。

「動かないと思うかい? 動かないと思うかい? 動くんだよなぁ、これが」

 尚も笑いながら、クリスフォードは自身の両手に絡み付いた細い木の根を僅かに動かす。すると、一体の木の巨人が僅かな動き一つで大きく動き出し、クリスフォードをまさに喰らおうとしていた海魔を大きな足でもって踏み潰した。

「こういうの、傀儡だったっけ? そう呼ぶんだよねぇ」

 指を僅かに動かして、そこに絡み付いている木の根を介して続けられる断続的な変質によって、木の巨人は軽い動きでありとあらゆる場所に居る海魔を踏み潰し、拳で打ち砕く。


 一匹の海魔がクリスフォードの両手に絡み付いた木の根を断った。


「でもねでもねぇ、これは傀儡とは違うんだよぉ?!」

 クリスフォードの両手の変質から解き放たれた木の巨人は一瞬だけ動かなくなり、しかし次に顔の部分を構成する木の根の中に、確かな爛々と煌めく光を灯して、先ほどよりも更に荒々しく激しく動き、クリスフォードの木の根を断った海魔を踏み潰す。

「今のはねぇ、鎖だったんだよぉ。あの巨人に制限を与えていた鎖。それを自分から断っちゃうなんて、ほんっと、馬鹿だなぁ」

 二体の木の巨人が暴れ回る。その様を眺めて、クリスフォードがただただ引き笑いを続ける。


 こんな現実は捨ててしまえ。


 生きている限りは捨てられないけれど、だからって現実を見ないと行けないわけじゃない。


「帰ったらなにをしようかな」

 クリスフォードは気色の悪い笑みを零しながら、ボヤき始める。

「そうだなぁ、この力でまずは女の子を作ってみたいかなぁ。作れるかなぁ、僕に。いやいや、作れるよ、作れるに違いない。いくらチェリーボーイだからって、局部を見ていないわけじゃないんだからねぇ、そりゃもう精巧に作れるはずだ。そうしたら、ちょっとその具合を確かめてみるのも悪くない。そうしたらチェリーボーイ卒業だ。ヒィッヒィッヒィッ、なんだか少しだけ楽しみになって来たよ。そのあとはどうしよう。うーん悩ましいね。さすがに生身の女の子を襲うわけにも行かないもんねぇ、さすがにそこまではしないさ、うん、そんな度胸は僕には無い。ああ、そうだ。頭の中で犯すことにしよう。どんな風に犯すかを考えて、たくさんのシチュエーションの中で、蹂躙してやろう。それなら誰にも迷惑は掛からないもんねぇ、いやいや、これはなかなか良い愉しみ方だと思うんだよねぇ。ほら、どうだい? 君たちからなにか、意見は無いのかい?」


 クリスフォードが振り返った先には、木の巨人と、それらが蹂躙した海魔の死体だけが転がっている。


 英雄を喪ったクリスフォードはそれを見ても、もうなんとも思わなくなっていた。

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