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【討伐者】  作者: 夢暮 求
【-従順な少女と溺れた男-】
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【エピローグ 02】


「夜中に出掛けるのとか無しですよ。そんなことしたら、私、追い掛けて止めに行きますからね!」


「楓ちゃん、顔が近い。あと、なんの話?」

 そわそわしている雅に対して楓がなにやらよく分からないことを言って来る。

「ディルさんの部屋に行ったら、許しませんって話です」

「へっ!? 別に、行くつもりなんて全然無かったし!」

「嘘です」

「……ホントだよ?」

 楓の追及から逃れようと雅は視線を逸らす。


 なんでバレたんだろ。


 雅は自分自身の嘘をつけない性格に、やや溜め息を零す。

「そうですよ。成人していないのに、そういうことをしちゃ行けませんから」

「葵さんも、顔が近い」

 二人の威勢の強さに、雅は気圧されて壁際に追いやられてしまう。


 多分、私のことを心配してくれているんだけど……ディルは私をそういう風には見ていないし。


 そうやって少し、自分を卑下する。しかし、そうやって卑下しておかないとこの二人を押し切って部屋から飛び出しかねない自分自身の心を抑えられそうもなかった。

「助けてよ、鳴」

「どうして私に助けを求めるの?」


「言っておきますけど! 鳴さんも夜中に部屋を抜け出したりしたら、私、追い掛けて止めに行きますからね!」


「そうですよ。成人していないのに、そういうことをしちゃ行けませんから」

 同じ言葉を浴びせられて、鳴が顔を動揺の色に染めた。ポーカーフェイスを貫くことのできる鳴ではあるが、雅にはその僅かな表情の変化がすぐに読み取れる。

「わ、私は、抜け出そうなんて考えたり、して、いない……から」

「テキトーな理由を付けて外に出ようとしたら怪しみます」

「て、テキトーではなく、適当な理由を付けて、私は」

「駄目です」

「……二人とも、顔が、近い」

 楓と葵のコミュニケーションに耐えられず、視線で鳴は雅に助けを求めて来る。先ほどは助けてもらえなかったが、泣きそうになっている彼女を見捨てるわけにも行かない。

「誠も、竜眼を継いだは良いけど、重荷に耐えられるのかな」

 だから話を変えることにした。重たい話をすれば、この二人のテンションも少しは下がるだろうという策であるのだが、そのために誠をダシに使ってしまったことに心の中で謝る。

「三匹も埋葬するの、凄く大変ですよね、手伝いませんけど」

「けれど、埋葬することが誠さんとアジュールさんには大切なことなんですよ、きっと。手伝いませんけど」


 二人揃って語尾に「手伝いませんけど」を付け足す辺り、誠に春が訪れることは、どう足掻いても無いらしい。


「私、悪いことを、した」

「不協和音、だっけ? 鳴らし方が悪いのかも知れないよ? ちょっと、やってみて」

 雅がそう提案すると、腰に差していた短刀を鳴は引き抜き、峰に張ってある弦と弦を重ねて、掻き鳴らす。

「あれ……?」


「良い、音。おかしいな、いつもは鳴らすたびに、嫌な音だったのに……純音に近い」


 その変化に鳴は首を傾げ、しかし心当たりのある雅はなにも語らず、ただ微笑むのだった。


【第五部 終了】→【第六部 開始】

【次回予告のようななにか】


――俺には、なにができるんだ?


 男は物思いに耽る。過去を思い返し、現在の有り方が正しいのかどうか、今は亡き白き竜と、己が心にずっと残す少女に問い続ける。


 首都防衛戦、その決戦の日が近付く最中、少女を喪って十数年、男は特級海魔のドラゴニュート、白き竜のアルビノと遭遇する。

 「殺して欲しい」と願うアルビノに対し、男は殺さなければならない理由を問い質す。どうやら、白き竜として産まれた宿命か、彼の者は病に侵されいるらしい。

 「こんな体はもう嫌だ」と言うアルビノを男は殺さず、精一杯に与えられた天寿を全うするべきだと説き、彼の者を討伐者の集う町へと連れて帰る。


 男は変わり者で、そして頭がおかしい者と、そこでは疎まれていた。決戦が近付いているにも関わらず、誰とも関わらず、誰とも組もうともしない。男は狂っている。そういう話がされていた。だから男がドラゴニュートを忍び込ませても、誰も気付くことはなかった、その時は――。


 一人、看病を続ける最中で男はある女と出会う。喧騒こそが人生、騒乱こそが自らの居るべき場所。そう信じて疑わない金髪の女は、男がドラゴニュートの看病をしていると知って、興味本位で近付き、そしてその看病の手伝いをするようになる。


 また一人、男と出会う。日本の漫画やアニメに陶酔し、自らもヒーローや英雄になりたいと夢見る男は、狂った男の放つ独特のオーラから、二次元における強者に違いないと信じ、声を掛けるようになる。


 そしてまた一人、男と出会う。“正義”を口にし、そしてむやみやたらに振りかざす男。しかし、カリスマ性を持ち、人を扱うことに長けた輪の中の中心人物。そんな男が、狂った男に声を掛けたのは、輪の中にいつまでも入れない、その男を心配してのことだった。


 最後に、青年と出会う。ダウンタウンで生き、そこから成り上がったらしい。それでも自身の故郷の光景が頭から消え去らないが故に、戦場に身を置くようになった男。この男は、狂った男の口調に大きな影響を及ぼすこととなる。


 二十年前より以前、アルビノという白き竜との出会い。


 それは要因となり、首都防衛戦において結実する。英雄たちの精神を打ち砕く、大きな大きな楔となる。


「誓いを立てる気はあるか? 俺たちは先駆者でしかなく、いつかは衰える。衰えるより前に、次の世代に、生きる術を叩き込ませるんだ。どんな手段であったって構わねぇ。そうでなきゃ、俺たちが生き残った意味がねぇじゃねぇか。人を殺せる者に育てるか、人を殺さずの者に育てるかは知らねぇ。ただ、俺たちが生きた意味を、力ある未来を、そういうガキどもに、託そうじゃねぇか。だが、どっかのガキよりも、自分が才能を見据えたガキに託した方が、まだマシだ。なにせこのまま生き続けるのは、息苦しいほどに重いからなぁ」


 これは、男が風の少女に出会う前の物語。

 これは、首都防衛戦以前の数週間と以後、数日の物語。

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