【エピローグ 01】
♭
「さすがは“死神”。どんなことが起こっても死なずに帰って来る。今回ばかりはさすがに死んだと思ったのに、意外だよ」
「あそこでもっとテメェが努力していたら、“力の理”も盗られずに済んだんだってぇのに、よくもまぁそう毒を吐けるもんだな」
ディルはケッパーに唇を尖らせながら言う。
「けれど、『ブロッケン』の臭いを嗅ぎ分けられるなんて……間違いなく、その“力の理”を奪われて以後からだね。その頃から、ディルは人形もどきと接触していないんだろ?」
ケッパーの見解に、ディルはなにも言わず肯く。
「でもさでもさー、どうすんのー?」
「うるせぇ、クソ女。近寄るな、人で無しの臭いが移るだろうが」
「分かっているクセにー。でも、クソ男はさすがに年下の趣味は無いだろうしねー。あの子も波乱だねー。どうすんだろーねー、ほんっと」
リコリスは一人、ケラケラと笑い続ける。
「おい、ディル。酒を買って来い」
「はぁ? テメェが買って来い、飲んだくれ」
「ちっ、仕方が無ぇ。置いていた酒を飲むか」
「ふざけんな、このアルコール中毒者」
「なんだぁ? 俺の注いだ酒が飲めねぇって言うのか? ぶん殴るぞ」
ナスタチウムの牽制に負けじとディルは睨んで威嚇する。
「なんて物騒な会話なんだ。嘆かわしい。これが二十年前に肩を並べて首都を守った仲間だなんて」
「俺は一番、テメェが嫌いだけどな」
「そう言うと思ったよ、“死神”。僕も君が大嫌いさ」
言いつつもジギタリスは穏やかな表情を見せている。
「浄化計画はいつ始まるんだ?」
「『下層部』にそんな通達が来ると思うかい? 部下には『上層部』に探りを入れるようには言い続けているんだよ、これでも。浄化計画の全貌が明らかになったのだって、苦労の末なんだ。こんな苦労して手に入れた情報を、おいそれと君たちに話してしまったのは、辛酸ものさ」
「一言多いんだよ、テメェは」
「一言も二言も多い君よりはまともだと思うけれど」
「二人とも喧嘩すんなー。喧嘩したらクソロリと寡黙ロリがあんたたちを止めに来ちゃうよー」
リコリスのアンニュイな一言に、二人揃って溜め息をつく。
「一時休戦であっても、君みたいな“悪”が傍に居るのは、常に暗殺者が隣に居るような心持ちだ」
「海魔の蔓延る世界じゃ、それくらいで良いんだよ、『正義漢』」
ともあれ、こうして二十年前の生き残りは、互いを英雄と知る者たちは、ここに集う。




