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【討伐者】  作者: 夢暮 求
【-選び取る者と荘厳な男-】
137/323

【-竜は未だ、死なず-】

///


「まったく、このような土埃の多いところを歩くなど……生い茂る木々で服も汚れてしもうたわ。また人を襲い、好みの服を見つけなければならんのう」

 青色の肌を気遣いながら、ベロニカは溶岩が冷え固まった大地に立つ。服は至るところにスリットが入っており、少し動けば艶美な柔肌が晒される。


「起きよ。もう醒めておるのだろう? わらわのように一ヶ月の休眠など、必要無いほどに」


 冷え固まった溶岩の一つに亀裂が入り、それは全体へと広がってただの一度の衝撃で打ち砕かれる。


 ドロドロに溶けた鱗を落としつつ、男が穴から這い出し、最後に自身の顔を覆っていた鱗と皮膚を剥ぐ。


「なんの用だ、人間」


「わらわを人間と呼ぶでないわ。ドラゴニュートはそれほど頭が悪かったかのう?」

 男はベロニカを一瞥したのち、自らの体を眺める。


 断ち切られた尾は無く、体を裂いた傷は塞がり、痕だけが残っている。そして、ほぼ全ての鋼のように硬い鱗が溶け落ちて、今は人間とそう変わらない褐色の肌が広がっている。しかし、少しばかり筋肉を動かすと肌は逆立ち、鮫肌の如き荒さを作る。


「ふん……神の啓示など聞いた覚えは無いが」

「神がそなたを必要としたのじゃ。このわらわと同じく、のう」


「神など知らん。己はただ、復讐の炎と怒りの炎を未だ、残しているだけだ」

 言って、男は右手に燃える炎を自らを埋めていた大穴に向かって放つ。炎は地面を駆け抜けて燃え広がり、しかしものの数秒で鋼へと変質を遂げる。


「鋼の炎か。実に面白い力ではないか。そのような力、人間も持ち合わせてはおらぬぞ?」

「……ふん、鋼になど興味は無い。己が抱くは、常に溶かす力だ」

 言いつつ男は手に新しく生え出した鱗を、自身の内側にある熱で溶かし、ポタポタと辺りへと零す。

「竜になることはできんな……下らん」

「その姿を不要と、そなた自身の力が判断したのじゃ。竜などもはや下等。そなたは、それよりもはるか高みに到達しておる。そういうことじゃ。して、そなたの名は?」

「名?」

 男はベロニカに訊ね返す。


「『バンテージ』などという不名誉な名は捨てよ。神より与えられた名が、あるじゃろう?」

 ベロニカの言葉に、男はしばし思案する。


「スルト」

「終焉に立つ者の名か。素晴らしき名よのう」


 ベロニカは妖しく笑い、男――スルトはその笑い方が気に喰わないのか、そのまま彼の者を置いて歩き始める。

「どこへ行くのじゃ? わらわたちの行くべきところは、もう決まっておると言うのに」


 そう言って、ベロニカはスルトを追い掛ける。

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