表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【討伐者】  作者: 夢暮 求
【-選び取る者と荘厳な男-】
133/323

【-溶鉄の狂い竜-】

「誰だ。己の妹を、死しても尚、辱めているのは?」

 銀色の竜の咆哮が響き渡り、そして轟音は近くに降り立ったことを伝えて来る。息を潜めていたが、大量の木を鋭い尾で瞬く間に切り倒し、誠たちは見つけられてしまう。

「どこの誰だ!?」


 銀色の竜は尚も叫び、そして人型へと姿を転じて行く。鋼のように輝く鱗、しかし内部から噴き出す熱でその鱗は一部、溶けている。尾も鋭さは残しているがボロボロになっており、且つその両手の指、両足の指、その一本一本に布が巻き付けられている。まるでバンテージの如く、だ。


 バンテージ?

 どこかで聞いたことがある。


「この世に残る、最後の鋼竜。アタイたちが討たなければならず、あんたたちが討てと言われている、ドラゴニュートだ」

「個体名は『バンテージ』。でも、なんで? なんでこんなときに限って、ここに現れたのよ!」

「竜が空を飛んでいる様を見て、里で動きがあると踏んだんだよ。奴もドラゴニュートの端くれだ。アタイたちしか通じない声を盗み聞きすることぐらいできる」

 アジュールが二人を守ろうと前方に立つ。

「ここはアタイに任せて、グレアムを探しに行くんだ。グレアムが死ぬより、アタイが死んだ方が戦力的にはまだマシだからね」


 そうじゃない。そうじゃないだろ。


 誠はブツブツと、二人には届かない声で、常に自身を罵り続ける。

「アジュール、背負わなくて良いからナスタチウムの荷物を頼む」

「待ちな、あんたになにができるんだ?」


「……分からない。だけど」

 目を背け続けていた現実を、受け入れよう。

 誠はアジュールにナスタチウムの荷物を託して、言い放つ。

「僕は、討伐者だ! 目の前に海魔が居るのなら、僕はそれを討つ」


 約束は守れなくなった。


 果たせない約束のために力を振るうことは馬鹿げている。そんなことは百も承知だ。しかし、こうなることを予測することぐらいはできた。自身はなにもかもを押し付けて、怠けて、考えもしなかった。

「行きましょう、アジュールさん」

「いや、でもよ! あいつが!」

「チキンがやっと覚悟を決めたんです。それに、逃げ腰のチキンが、死ぬような立ち回りなんてするわけないでしょう!? グレアムを見つけたら、すぐに私が戻りますから、あなたがグレアムの様子を診てやってください! それまでは、私が他の海魔からあなたを守ります!」

 雅の進言により、アジュールが納得行かなそうな顔をしつつも、苦渋の決断とばかりに大声を上げたのち、雅とともに生い茂る木々の奥へと消えて行った。

「貴様は、竜の加護を受けてはいないな?」

「ああ」

「加護を持たん討伐者に用などない。貴様は五分も持たず、死ぬぞ?」


「へぇ、だったら五分持ったら少しは評価してくれるのかな?」


「……つまらん言い合いは無用だ。殺したくなった。ここで死んで行け」

 誠はサングラスを掛けて、両手に陽光の剣を握り締める。

「奇遇だね。僕もあんたを、殺したくなった」

 怒りを噛み締めながら、誠はバンテージを睨み付けると、それとほぼ同時に駆け出す。バンテージは真っ直ぐ攻めて来る誠に、自身の体から熱を放出させる。凄まじい熱気だが、身を焦がすほどではない。そう判断し、誠は尚も直進して間際までバンテージに迫ると、右手の陽光の剣を躊躇いなく振るう。

 彼の者が左手でそれを握り締める。斬撃に特化したはずの陽光の剣が通じない。やはり、グレアムとは違って一筋縄では行かないか、と考えている間にバンテージが右手で拳を作る。


「己の右手は復讐の炎に爛れた拳!」


 陽光の剣を刹那に月光の剣へと変貌させて、更には盾にまで変質させる。バンテージの鋭い打撃が月光の盾を揺らす。打撃に対して強いはずの月光の盾から訪れる凄まじい衝撃に耐えられず、全身が勢い良く吹き飛んだ。

 空中で姿勢を整えるも、勢いが殺せない。地面に足から着地しても、勢いを殺し切るために十数メートルほど地面を滑った。しかし、体のどこにも痛みは無い。


「己の左手は怒りの炎に塗れた拳!」


 もう、すぐ横にバンテージが立っていた。それも右の拳を振りかざし、振り下ろそうとしている。全身に月光で形成させた鎧を纏わせたが、それでも衝撃を吸収し切れず、再び殴り飛ばされた。


「己の両手の拳は悲願に達するための拳!」


 まだ着地して数秒も経っていない誠の頭部目掛けて、両手で作り上げたバンテージの拳が落ちる。これもまた月光の鎧で防いだのだが、衝撃を受け止め切れず、誠の体が大地に叩き付けられた。


 まだマシだったのかも知れない。


 誠は身を起こして、そう思う。この三連撃を普通に浴びていたら跡形も無く、肉塊に成り果てていたはずだ。それが人体に影響が出ない程度までの衝撃で抑えられている。


 問題は、バンテージの速さだ。


 考えながら起き上がった誠に、バンテージの右と左の拳による連撃が浴びせられる。一部を鎧で、そして盾で受け止めるが、速過ぎて攻撃に転じることができない。

「貴様はそうして、なにもできないまま、死んで行け!」


 なにもできないまま?


 誠はフッと意識が落ちる。

「なにもできないままなんて、嫌だ」

 バンテージの拳を一つ避けたところで陽光の剣を作り出し、それを彼の者の脇腹へと滑らせる。しかし、強靭な肉体を持つバンテージの体はそれだけでは斬ることができない。それでも、陽光の剣から発せられる熱の力は通ったはずだ。現に、バンテージは誠から一旦、距離を置いた。そのまま陽光の剣に晒され続けることを忌避したと考えられる。

「そうか、貴様も、か」

「なにがだい?」


「貴様も復讐に燃えている。そうだろう?」


「復讐? 僕は、約束が果たせなくなったことに対して、申し訳ない気持ちで一杯なんだ。お前とは、違う」

 両手に陽光の剣、そして全身には月光の鎧。軽い足取りでバンテージに駆け寄り、まず一閃。これは見切られて当然のものだ。その避けた体勢に対して、左手での刺突。バンテージが上体を横に逸らす。

「ここで、返す!」

 一撃目で振り切った腕を、逆に振り直す。バンテージの体に再び陽光の剣が叩き付けられる。しかし、彼の者の体を切り裂くことはやはりできない。

「面白いぞ、人の子よ」

 バンテージに力強く蹴り上げた。体がまた宙を舞う。体勢を整えていると、跳躍したバンテージがすぐ傍まで迫っていた。そして、宙で一回転して自身の体に備わっている鋭い尾の一撃を浴びせられた。

 月光の鎧は打撃に強い。しかし、バンテージの尾にはグレアムの尾以上に鋭利に尖っている。それが月光の鎧を切り分けて、誠の体を僅かに裂いた。打撃であることには変わらないが、切断の力も併せ持っている。地面に叩き付けられた誠は着ている服を濡らす背中の血の感触に邪魔臭さを感じながら、起き上がる。

「これでも死なんか。頑丈だな、人の子よ」

「ぐっ!」


 バンテージが誠の首を掴み、持ち上げる。


 それは月光の鎧であっても、陽光の鎧であっても対処し切れないものだ。首を掴んでいる指の一つ一つに圧を加えることで、月光の鎧すらも越える圧力でもって誠の呼吸を止めようとしている。

「ほぉ? 打撃に斬撃、相当硬いようだが、圧力には弱いか。ならば大地に叩き付け、己の足で踏み締めたならば、ようやくその殻は破れるのかも知れんなぁ」

「離……せ」

「貴様は頑丈だ。首の骨を折るまでこのまま力を込めさせてもらう」

「そう……かよ!」

 誠のダラリと伸ばしていた両手に陽光の輝きが迸り、剣ではなく槍となってバンテージの体目掛けて突出し、その穂先が彼の者の体に突き立つ。思いもよらぬ一撃に、バンテージが雄叫びを上げ、誠を力任せに投げ飛ばした。


「笑わせるな、人間」

 誠が荒い呼吸を整えている最中に、バンテージはまたも距離を詰めて来ていた。誠は陽光の剣を両手に握り、臨戦態勢を取る。

「その目が弱点か、人間?」


 ゾクリ、と誠は全身に嫌な汗が噴き出して来るのを感じた。それも束の間、バンテージが拳で誠の掛けていたサングラスを叩き壊した。

 月光の鎧が衝撃を殺してくれてはいる。しかし、それに伴う光が、誠の力そのものが視界を焼き尽くさんばかりの勢いで輝いている。


「う、ぁあああああああああ!!」


 それも両手に陽光の剣を携えていた。すぐに全ての力を解いたが、眼球の半分以上の細胞が光熱によって死に絶えたらしく、視界のほとんどが失われた。その恐怖に、その現実に立ち向かうこともできず、誠は瞼を閉じて、ひたすら「落ち着け」と自身に向かって連呼していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ