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【討伐者】  作者: 夢暮 求
【-選び取る者と荘厳な男-】
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【-作戦を練る-】


「よもや、そなたが後ろに居るとは思わなんだ。酒の臭いで見つけることも敵わんかったわ」

 一週間が経過し、ある程度の作戦を立てたのち、誠たちは再度、ドラゴニュートの里を訪れることとなった。ナスタチウムも同行したのだが、長たる老人はこの大男を見た途端に、少しばかり面倒そうな顔付きをした。

「俺のことを知られては、種の保存も選定の中断も、全て片腹痛いと言って跳ね除けていただろう?」

「まったくもって、その通りじゃ。そなたが後ろに()ったなら、勝負などさせんかったわい」

 ナスタチウムは勝ち誇った顔を見せ、老人は更に溜め息を落とす。

「ま、その話はちょっと前に済んでんだ。俺たちに協力してもらうぜ、ドラゴニュートの長よ」


「分かっておる。一度、決めたこと、決まったことをワシは反故になぞせん。して、どのような策で人間を逃がす? あの街を守る討伐者の疲労は既に限界を超えておる。限界を超えさせたのはワシらの責任でもあるが、しかし、それも踏まえての策でなければワシらは納得せん。種の保存も、選定も間違ってはおらんと思っておるのだ。それを否定するようなことを言うのであったら、協力などせんぞ」


 ナスタチウムが頭を動かし、雅が前に出る。

「疲れていても討伐者は討伐者。死地は自分で決めます。だから、あなた方の選定によって疲弊していたとしても、戦いには出てもらおうと考えています」

「ほぉ? しかし、あの街を狙う海魔がどのようなものか、分かってはおるか?」

「三等級海魔のフロッギィと、二等級海魔のナーガ、です」


「当たりじゃ、しかし、一つ抜けておる」

 老人は床を尾で叩いた。

「フロッギィの卵――五等級海魔としてエッグと名付けられているのではないのかのう?」


「エッグ……」

「『穢れた水』と泡で形成された卵。しかしのう、これはアメーバの如き意思を持って、生物を喰いに来る。エッグに包まれたら、普通の人間であればそれが最期。『穢れた水』で体中は爛れ、それをエッグの中で産まれたフロッギィの幼生が一気に喰らい尽くす。人間一人を喰らえば、成体のフロッギィが五匹は産まれるのう。シーマウスのように自然繁殖を繰り返さない分、まだ大繁殖はせんが、あの街に居る人間全てをエッグが喰らったら、シーマウスも驚くほどの量のフロッギィが産まれ落ちる」

 フロッギィは誠が見る限り、蛙の容姿をしていた。アマガエルは泡を固めたような形状の中に卵を産み、そこからオタマジャクシが川に落ちて育つ。つまり、エッグはそのような卵でありながら、自ら獲物を求めて蠢くらしい。

 アマガエルの卵が人以上の大きさで蠢いていたら、と想像すると誠ですら悪寒が走る。それはもう人を喰らうほどに成長した西欧などに伝え聞くスライムだ。だからドラゴニュートの老人もそれを例に挙げたのだろう。

「フロッギィでさえ、気持ち悪かったのに、あれより気持ち悪いものが居るって思うと、最悪な気持ちになる」


「エッグは焼けば中のフロッギィの幼生ごと殺せる。炎竜の血を流す者の出番ということになるじゃろうな。しかし、そなたたちには決して相手にできない海魔じゃ。見つけても手出しはするでない。どんな攻撃も弾力のある外殻によって受け止められ、そのままズブズブと飲み込まれてしまうでな。しかし、それを跳ね除ける人間も居るには居るのじゃが」

 そこで老人は一息入れる。

「ナーガはどう対処する? あれは二等級。半人半蛇の海魔。蛇が如き動きで近寄り、対象を絡め取り、骨を砕き、捕食する。たとえ尾に対処できたとしても、彼奴等の皮膚は硬く、なにより鋭い爪も備えておるぞ?」


「ナーガ、フロッギィは私たちが率先して倒します。だから、ドラゴニュートの方々は一般人を守りつつ、エッグを見つけ次第、炎竜の血を流す者に嘶いて報告し、逐次、焼き払ってください。木々を燃やすことになってしまいますが、フロッギィが大繁殖するよりはずっとマシになります」

 雅が街で手に入れたのだろう周辺の地図を老人まで近付き、床に広げる。

「街門からほぼ全ての一般人を逃がします。この際、襲って来るフロッギィは討伐者が対処します。問題はそこから安全地帯までの道程。坂を下り切ったところでしょうか。浜に近くなく、そして山にも近くない。そこなら海魔の襲撃もほとんどありません。逆に言えば、襲撃が起こり得るため何人かは付かず離れずの位置に討伐者を置いておかなければなりませんが。討伐者の中でも比較的、まだ体力のある者は木々を掻き分けつつ、フロッギィとナーガを討って行きます。視界が悪く、更に戦う場所が坂であることが不利に働きますが、やるしかないんです。エッグには近付くなと私たちが討伐者に伝達しておきます。そして、まことに勝手なことになりますが、炎竜の血を流していない、別の血を流すドラゴニュートの方々は私たちとできる限り行動を共にしていただきたいと思っています。特級海魔のドラゴニュートが傍に居る、たったそれだけで士気が上がります。戦闘にも参加していただければ、更なる鼓舞になると考えられます」

「ほぉ?」

「そうして、私たち討伐者は一般人の移動に合わせて街道沿いに下り続けます。言いだしっぺの私は、最後尾を――しんがりを務めさせていただくつもりです」

「確かに、これを計画した者はしんがりを務めるが使命よのう。穴だらけな策ではあるが、フロッギィ、エッグ、ナーガ程度であればこれでも、被害を出さずに切り抜けることができるじゃろうて。ワシらはそのどれにも負ける道理を持っておらんからのう」

「これは、私が査定所に行って調べ上げた、現在の討伐者名とその一覧になります。五行のどれを扱え、そして体力的に精神的にまだ戦えるかどうかも記入してあると思います。それを読んだ上で……あなた方に、班分けをしていただきたいと、考えております」


「ほぉ、ここを投げて来たか」

 老人は紙束を両手で眺め、尾で床を軽く打ちつつ思案している。

「ふむ、しんがりに面白い組み合わせを考えた。そなたと小童、そしてそこの大男。そこにワシらの同胞であるアジュールとグレアムを付けよう。この数とワシらの数、分ければ五人一組。或いは三人一組になるのう。しんがりともなれば、危険性は増すのでな。そこは厚く、五人一組とした方が良かろう」


「うへぇ」

 誠は老人に聞こえない調子で言葉を零した。

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